欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況－2019年決算数値等に基づく現状分析

3―欧州大手保険グループ各社の地域別の事業展開状況

ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、保険料、営業利益に加えて、資産、EV（Embedded Value）⁷及び新契約価値等の状況を地域別に報告する。

さらに、各社の地域別の事業展開に関係するトピックについても報告する。

⁷ 欧州大手保険グループは、これまでEEV（ヨーロピアンEV）とMCEV（市場整合的EV）のいずれかに基づくEV（Embedded Value：エンベデッド・バリュー）を地域別や各国別に公表してきていたが、ソルベンシーII導入後の2017年以降は公表しない会社やグループ全体又は地域別の数値のみの公表に留める会社もある等EVの開示の見直しを行ってきている。

１｜AXA
(1)地域別の業績－2019年の結果－
AXAは、世界の60カ国程度で保険事業と資産管理事業を展開している。

地域別の内訳を見る上では、AXA Equitableの売却とAXA XLがその他に含まれている影響が大きい。

どの指標で見ても、アジアの位置付けが高くなってきている。特に、新契約価値ベースでみると、日本を含むアジアが40％の構成比となっている。日本でのシェア（かんぽ生命除きベース）は、生命保険は2.9％で第13位、その市場の規模から、2019年では、AXAグループ全体の営業利益（生命・貯蓄・医療）の中で20％と高い位置付けを有している。

なお、AXAは、かつては国別に開示していたEEVの値も201７年以降は地域別のみとなっている。

Annual Reportによれば、生命保険と損害保険の市場シェア及びボジションについては、以下の通りとなっており、欧州やアジアの国々で高いプレゼンスを確保している。

・フランス　　　：　生保8.8％（第3位）、損保13.2％（第2位）
・ドイツ　　　　：　2018年ベースで、生保4.3％（第8位）、損保4.9％（第5位）
・スイス　　　　：　生保10.0％（第4位）、損保13.0％（第1位）
・ベルギー　　　：　生保7.7％（第6位）、損保19.6％（第1位）
・英国　　　　　：　損保8.1％（第2位）
・アイルランド　：　損保27.1％（第1位）
・イタリア　　　：　生保4.3％（第6位）、損保5.7％（第5位）
・インドネシア　：　生保6.6％（第4位）
・フィリピン　　：　生保11.1％（第5位）
・タイ　　　　　：　生保9.4％（第4位）

(2)地域別の業績－2018年との比較－
2018年との比較では、営業利益（生命・貯蓄・医療）ベースでは、欧州ではほぼ横ばい、アジアでは11％の進展となっているが、米州はAXA Equitableの売却により、米国の生命保険及び貯蓄市場から撤退した影響が大きい⁸。なお、AXA XLがその他に含まれている。

保険事業の地域別内訳（2018年から2019年に向けての増加額と進展率）/うち　欧州の主要国別内訳（2018年から2019年に向けての増加額と進展率）

⁸ Equitableは持分法を適用して連結され、2019年1月1日から2019年11月13日までの期間の基礎利益、調整後利益及び純利益のみが反映れている。

(3)地域別展開に関する方針及びトピック
AXAは、2019年に以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2019年2月14日、ウクライナでのAXAの事業売却の完了
・2019年3月25日、AXA Equitable Holdings Inc.の二次普通株式募集及び関連する株式買戻し完了
・2019年4月4日、アゼルバイジャンのAXA MBask Insurance Company に関連する販売契約終了
・2019年6月7日、AXA Equitable Holdings Inc.の二次普通株式募集の完了
・2019年7月8日、2019年6月7日に完了したEquitable Holdings Inc.の普通株の売出しに関連するオーバーアロットメントオプションの完全行使の発表
・2019年10月25日、AXA Bank Belgiumを売却し、Crelan Bank と長期保険販売提携を締結することを発表
・2019年11月13日、Equitable Holdings Inc.の残りの株式の売却が完了
・2019年12月13日、AXA Tianpingの残りの 50％の株式の買収が完了

AXAは、中国、インドネシア、フィリピン、タイを「Asia High Potentials（ハイ・ポテンシャル）」として位置付けており、インドネシア、タイ、フィリピンでは既に高いプレゼンスを有している。

また、2020年2月7日には、中東欧（ポーランド、チェコ、スロバキア）における事業をUNIQAに10億ユーロで売却することを公表し、これによりソルベンシーII比率が2%pts増加すると述べた。

なお、AXAは2018年3月に、XL Groupを153億ドルで買収し、年間保険料総額300億ユーロを有する世界的な損害保険会社を構築することを公表し、この買収について、当時のThomas Bubert CEOは、「L&S（生命及び貯蓄保険）事業中心から、P&C（損害保険）事業中心に、そのビジネスプロファイルを移行していく独特の戦略的機会である。」とし、「将来のAXAのプロファイルは、金融リスクから離れて、保険リスクに向かって大きくリバランスされていくことになる。」と述べていた。

XL　Groupの買収及びEquitableの売却完了により、このリスクファイルの変換が進み、さらに金融市場に対してあまり感応的でない損害保険、医療及び保障を加速していくとしている。

２｜Allianz
(1)地域別の業績－2019年の結果－
Allianzは、世界の70カ国以上で生命保険、損害保険、資産管理事業を展開している。

Allianzの生命保険事業の営業利益は、自国のドイツの構成比が約3割を占めているが、フランス、スペイン、イタリア等の主要国からも有意な収益を上げており、欧州全体で66％の構成比となっている。

米国の子会社グループは、2019年末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第15位（2018年末は第16位）となっており、その営業利益のグループ全体における構成比は24％となっている。

アジア・太平洋は、保険料や営業利益では未だ1割前後の構成比である。

生命保険事業（Life/Health insurance)の地域別内訳（2019年）

(2)地域別の業績－2018年との比較－
2018年との比較では、生命保険事業の会社全体の営業利益は13％増加した。これは、主として減損の減少及びフランスとドイツにおける実現益の増加による投資利益率の改善によるものとしている。

新契約価値については、金利低下による悪影響はあったものの、売上げの増加及び優良契約への継続的なシフトにより増加したと述べている。

地域別では、アジア・太平洋での営業利益やMCEVが、それぞれ3割程度と大幅に増加した。

生命保険事業（Life/Health insurance)の地域別内訳（2018年から2019年に向けての増加額と進展率）/うち　欧州の主要国別内訳（2018年から2019年に向けての増加額と進展率）

（参考）地域別のROE
Allianzは、地域別のROEを以下の通り開示している。これによれば、2019年においては、全ての地域において10％を超えている。

(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Allianzは生命保険事業にとっての主要な市場として、ドイツ、フランス、イタリア及び米国を挙げているが、2019年に以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2019年4月30日に、　タイにおいてSri Ayudhya Capital PCLとの戦略的パートナーシップを拡大することを公表

・2019年5月31日に公表していた英国での買収について、2019年12月31 日付で、Legal and General Group（L&G）の損害保険事業（LGIL）及び LV =のGI 事業の残りの 51％の持分を Liverpool Victoria Friendly Society から、合計 8 億2,200 万ポンド（10 億3,000 万ドル）の取引で購入した。これにより、総引受保険料収入が 40 億ポンドを超え、市場シェアが 9％の「英国で第 2 位の総合保険会社」になる。

・2019年6月24日には、スペインの生命保険、年金、資産管理、損害保険におけるAllianz Popular bancassuranceを解消することを公表し、2020年第1四半期に完了する予定であると述べている。

・2019 年8 月23日には、ブラジルの保険会社SulAméricaから R3bn（7億 3400 万ドル）で自動車及びその他の損害保険（P＆C）事業を買収することに同意したと公表し、これにより、ブラジルで2 番目に大きい自動車保険会社となり、P＆C保険では約 9％を占めることになる、と述べている。

・2019年11月14日には、中国で最初の100%所有の外資系持株会社設立の認可を受けたことを公表

なお、2020年に入ってからも、以下の動きが見られている。

・2020年2月4日には、イオンフィナンシャルサービス（AFS）と生命保険合弁会社（JV）を設立し、日本の地元の顧客向けの生命保険ソリューションを開発および販売する契約を締結したと公表

・2020年4月27日には、スペインのBanco Bilbao Vizcaya Argentaria（BBVA）とバンカシュアランスの合弁会社を設立することを公表