2020年05月08日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2019年決算数値等に基づく現状分析-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2019年決算数値が、2020年2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表されている。今回のレポートでは、2019年決算に関わる各社の決算数値等に基づいて、欧州大手保険グループの生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告する。

欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制の強化への対応、(現時点においては)2023年1月以後に開始する事業年度から適用が想定されている新たな保険契約会計基準への対応等、困難な課題を抱えている状況にある。ただし、各社ともこうした環境下で、基本的には積極的な海外事業展開等を進め、収益基盤の拡大を図ってきている。

昨年の基礎研レポートでは、欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況について、2018年決算数値等に基づく現状分析を報告した1

これまでの基礎研レポートでも述べてきたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、昨年のレポートで述べたように、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあったり、各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更してきている会社もある。加えて、何社かは2018年決算報告時とは異なるベースで2019年の決算報告を行っている。

以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能と思われる数値を作成して分析を行っている3
 
1 なお、2019年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2019年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2020.4.7及び4.21)を参照していただきたい。
2 各社によって、Operating ProfitやUnderlying Earnings等と英語の名称が異なるものを、このレポートでは、必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっていないが、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが、以下では全て「営業利益」として表現している。
3 以下の図表においては、昨年報告した2018年数値についても2019年ベースに修正している。
 

2―欧州大手保険グループの各社間比較

2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-

欧州大手保険グループとしては、欧州の主要国を代表する保険グループとして、AXA(フランス)、Allianz(ドイツ)、Generali(イタリア)、Aviva(英国)、Aegon(オランダ) 、Zurich(スイス)の6社を対象にしている。

AXA、Allianz、Aviva、Aegon及びGeneraliの5社は、これまで、FSB(Financial Stability Board:金融安定理事会) が選定していたG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:グローバルなシステム上重要な保険会社)に指定されてきたことがある会社である4。なお、前年までの基礎研レポートで含めていたPrudentialについては、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plcと欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcに分割され、これまでのベースの数値の取得が困難になったため、基本的には今回のレポートにおける各社間比較からは除いている。ただし、引き続きPrudential は世界を代表する保険グループとして重要なポジションを有している会社なので、参考として各種数値を掲載している。

なお、以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
 
4 FSBは2017年以降、G-SIIsのリストを公表していない。
1|会社全体の業績
以下の図表は、欧州大手保険グループの保険料と営業利益の事業別内訳を示している。

これからわかるように、欧州大手保険グループは、生命保険事業だけでなく、損害保険事業も行っており、さらには、資産管理事業も会社によっては大きな位置付けを占めるようになってきている。

グループ全体における生命保険事業と損害保険事業の位置付けは、会社毎に異なっているが、Aegon以外は、損害保険事業も大きな位置付けを占めている。
欧州大手保険グループの生命保険・損害保険事業別内訳(2019年)
なお、以下の分析では、主として、生命保険事業に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくことにするが、その前に各社がグループ全体の指標として提示しているROE(Return on Equity:資本収益率)の状況を、以下の図表に示しておく。このROEの数値の算出方法等についても、各社間で統一されているわけではないが、あくまでも各社が掲げている経営目標の1つとなっているので、参考として掲載しておく。

ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業のみの数値も公表しており、AXAやGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、以前は生命保険事業に対するROEも開示していたが、2017年以降は両社とも開示していない。

これによれば、各社のROEは、ほぼ10%から16%の範囲内にある。
欧州大手保険グループのROE(資本収益率)
2|生命保険事業の地域別業績
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている5,6
 
5 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。
6 2018年の数値算出において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもあり、これに伴い、前回の基礎研レポートで報告した2017年の数値を変更している場合もある。
2-1.保険料の状況
まずは、保険料の地域別内訳を見てみる。ここでの保険料の数値には、例えばユニット・リンク等の投資型保険からの収入が反映されていなかったりするが、各社の地域間の分布等を比較するための1つの基準として採用している。

(1)2019年の結果
これによれば、各社毎に状況は異なっているが、各社とも自国(親会社国)以外からの保険料が一定の規模を有しており、自国以外での事業が大きな位置付けを有している。

各社別の概要は、以下の通りである。

AXAは、自国のフランスが26%、その他の欧州が34%、米国中心の米州(北米、中南米)がAXA Equitableの売却により、米国の生命保険及び貯蓄市場から撤退した影響により3%、アジア・太平洋が10%となっている。なお、その他にはInternationalやAXA XLの数値が含まれているため、実際の各地域の割合は上記数値よりも高いものとなる。

Allianzの生保は、自国のドイツで54%と高いが、ドイツ以外の欧州で27%となっており、米国中心の米州やアジア・太平洋も有意な水準となっている(なお、「32|Allianz 」で述べるように、法定保険料ベースでは、米国は16%と、ここでの5%よりもかなり高い水準となっている)。損保では、国際部門や再保険の数値が含まれていることから「その他」の割合が36%と高くなっている。

Generaliの生保は、自国のイタリアが39%であるが、イタリア以外の欧州で53%と高くなっており、欧州以外の構成比は9%に留まっている。

Avivaの場合、自国の英国が42%、英国以外の欧州が43%とそれぞれ4割を超えている。なお、米州は、カナダの損保事業である。

Aegonの場合、自国のオランダは12%で、オランダ以外の欧州が41%、米国及び中南米を含む米州が48%と、他社に比べてかなり高くなっている。

Zurichの場合、自国のスイスが生保では9%、損保では10%で、スイス以外の欧州が生保では52%、損保では33%となっているが、中南米を中心とした米州が生保で24%、損保で53%と、Aegonと同様に、これらの地域の構成比がかなり高くなっている。

以上みてきたように、保険料という指標で見た場合には、アジア・太平洋の構成比は、近年上昇傾向にはあるものの、いまだ1割程度に留まっている。
欧州大手保険グループの保険料の地域別内訳(2019年)
(2)2018年との比較
保険料の進展が必ずしも収益の拡大に結びつくものではないが、あくまでも参考として2018年との比較を見てみる。

以下の図表より、2018年との比較では、会社によって状況は異なっているが、基本的には安定的に推移してきており、一般的には、欧州や米州での進展率に比べて、アジア・太平洋での進展率が高くなっている。

なお、決算数値を前年と比較する場合においては、為替レートの変化による影響も小さくないことに注意が必要になる。会社によっては、Annual Report等の業績説明において、為替レートを前年ベースとした場合の進展率等の数字も開示している。
欧州大手保険グループの保険料の地域別内訳(2018年から2019年に向けての増加額と進展率)
2-2.営業利益の状況
次に、保険事業の営業利益の地域別内訳を見てみる。地域別の利益配分等にも各社の考え方が反映されているが、各国における子会社毎や各社間の収益状況の差異等も一定程度比較できるものと考えられる。なお、一般的には、国際部門や再保険関係の損益が「その他」地域に含まれていることから、グループによっては「その他」の構成比が、特に損保事業を中心に大きくなっており、その数値も比較的大きく変動している。

(1)2019年の結果
営業利益ベースでも、各社の地域別の構成比の状況は、保険料と基本的には変わらないが、地域別の収益状況や各地域での深耕度等を反映して、若干異なる傾向となっている。

各社別の概要は、以下の通りである。

AXAの生保は、アジア・太平洋の構成比が31%と高くなっている。米州はAXA Equitableの売却により、米国の生命保険及び貯蓄市場から撤退している。

Allianzの生保は、米国が25%と高くなっているが、アジア・太平洋は構成比を高めてきてはいるものの、依然8%にとどまっている。

Generaliの生保は、イタリアが43%、イタリア以外の欧州が50%と、それぞれ保険料の構成比よりも若干高くなっており、営業利益ではより欧州に依存した形になっている。

Avivaは、英国での営業利益が66%を占めており、97%の営業利益は欧州からである。

Aegonは、オランダの構成比は32%で、米国及び中南米を含む米州の営業利益が56%と極めて高くなっている。

Zurichの生保は、アジア・太平洋の構成比が14%であることに加えて、中南米を中心とした米州が16%と高くなっている。

営業利益という指標で見た場合には、アジア・太平洋の構成比は、AXAが31%、Zurichが14%と高くなっているが、Allianz、Generali、Aviva、Aegonについては、一定の保険料水準を計上し、その会社全体における位置付けを高めてきてはいるものの、いまだ営業利益での構成比は一桁台に留まっている。
欧州大手保険グループの保険事業の営業利益等の地域別内訳(2019年)
(2)2018年との比較
2018年との比較では、生保については、Allianzが二桁台の進展となり、AXAは大幅なマイナス進展となっている。地域別の状況は様々であり、例えば、アジア・太平洋ではAviva以外が生保において二桁進展を果たしている。なお、前年との比較を見る上においても、保険料の項目で述べたように、為替レートの影響を考慮する必要がある。
欧州大手保険グループの保険事業の営業利益等の地域別内訳(2018年から2019年に向けての増加額と進展率)
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中村 亮一

研究・専門分野

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