2020年05月01日

新型コロナウイルスの感染拡大を受けての保険監督当局等の対応-欧州のEIOPA等のケース-

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6―4月3日のEIOPAによる声明等を受けての各国監督当局及び保険会社の対応

EIOPAによる声明等を受けて、あるいはそれ以前からの対応については、EU加盟国の保険監督当局の中でも、差異があり、明確な支払い停止の指示を出しているところもあれば、あまり規範的な対応をしていないところもあり、これを受けての保険会社の対応も必ずしも統一されていないようだ。

(1)英国
例えば、英国では保険監督当局であるPRA(健全性規制機構)のCEOであるSam Wood氏は、3月31日付で、英国の保険会社のCEO宛にレター7を発出して、以下のように述べて、配当を支払う前にもう一度考えるように求めた。
 

Sam Woods氏のレターからの抜粋
英国の保険会社の取締役会が株主への分配を検討している場合、又は変動報酬について決定を行っている場合、保険会社を十分に保護し、安全と健全性を維持する必要性に細心の注意を払い、そうすることでCovid-19から生じる経済の混乱全体を通して実体経済を支援することにおいて会社が最大限に役割を果たすことができることを確実にすることを期待している。

保険会社は、損害保険と生命保険の両方を提供することにより、個人と企業に不可欠なセーフティネットを提供している。彼らはまた英国経済の長期投資家として重要な役割を果たしている。したがって、不確実性の高い現在の状況では、保険会社が金融行動規制機構の期待と一致する方法で保険契約者に対して行ったコミットメントを確実に満たすことができるようにし、そして彼らが経済への投資を継続できるようにするために、保険会社は慎重に財源を管理することが重要である。

また、会社は、現在の例外的な状況では、PRAの既存の期待(監督声明4/18に示されている)を思い出す。分配を決定するとき、取締役会は、各分配が慎重であり、リスク選好度と一致していることを確認する必要がある。


ただし、このレターにも関わらず、多くの英国の上場保険会社は2019年度の配当を支払う方針のようである。具体的には、大手の保険会社では、Legal & GeneralやChesnara等は配当支払いの方針であるが、Avivaは配当を見送る方針8のようである。

この点、ECB(欧州中央銀行)やイングランド銀行が、銀行に対して配当金とボーナスの支払いを強く求めてきた結果、英国の大手銀行が自粛要請に従ったのに対して、対照的な状況になっている。
(2)英国以外
オランダの保険監督当局であるDNB(オランダ中央銀行)は、EIOPAの要請を強く支持しており、これを受けて、オランダの保険会社は配当支払や自社株買いを一時停止する方針である。

Aegonは、4月3日に、EIOPA及びDNBの要請に従って、2019年の1株当たり0.16ユーロの最終配当を見送ると公表9している。

NNは、4月6日に、EIOPA及びDNBの勧告に従って、2019年に支払われる予定だった最終配当を停止し、2020年の後半に支払う予定であるとし、併せて、2020年3月2日に開始された2億5000万ユーロの自社株買いプログラムを時的に停止すると公表10している。

ドイツの保険監督当局であるBaFinは、保険会社の個々の状況により、現時点では必ずしも配当を停止する必要はないとのスタンスで、個々の保険会社との議論に基づいた判断を行っていく方針のようである。

Allianzは、4月6日に、EIOPA及びBaFinの声明を考慮した結果として、2月21日の2019年決算発表日に公表していた1株あたり9.60ユーロの配当を変更しない形で5月6日の株主総会に提案すると公表11している。また、2月20日に公表した15億ユーロの自社株買いプログラムを4月以降も着実に進めているが、2番目の7.5億ユーロのトランシェについては一時停止し、COVID-19パンデミックの財政的および経済的影響が明らかになり始めたら、このトランシェの適切性を検討すると述べている。

Generaliは、EIOPAの声明や保険監督当局のIVASSからの3月30日付けのレター等を勘案した結果として、4月10日に、1株あたり0.96ユーロの配当支払いについて、2つのトランシェに分けて、5月に0.50ユーロを年末までに残りの0.46ユーロを支払うとの取締役会での決定を4月下旬開催予定の株主総会に提案することを公表12している。

AXAは、EIOPAの声明を受けて、4月3日に取締役会を開催して、株主総会を当初の予定日の4月30日から6月30日に延期し、欧州、フランス及びその他の保険監督当局との協議の時間を設けることとしたと公表13している。

このように、各社とも、EIOPAや各国監督当局の要請等を受けて、臨時取締役会を開催して、対応策を検討し、今回のパンデミックにも関わらず、自社が高いソルベンシーポジションを維持しているという点を強調しつつも、何らかの対応を実施する方向で検討しているようである。なお、配当支払いの一時停止の方針を示した保険会社も、新型コロナウイルスの動向に応じて、今年の後半に配当を支払う予定である等の方針を表明してきている。  

7―4月17日のEIOPAによる声明

7―4月17日のEIOPAによる声明

4月17日には、「欧州の職業年金セクターに対するコロナウイルス/COVID-19の影響を緩和するための原則に関する声明」14を公表している。

この声明は、IORP(職業退職金制度)が現在の経済情勢で長期投資家として果たすことができる安定化する役割を認めており、国の所管官庁宛の声明では、以下に関連する原則について概説している。

・ビジネス継続性と運用リスク
・流動性ポジション
・資金調達の状況と好循環
・メンバーと受益者の保護。そして
・コミュニケーション  

8―4月24日のEIOPAによる声明

8―4月24日のEIOPAによる声明

4月24日には、「消費者ガイド:コロナウイルス/COVID-19アウトブレイク中の保険の適用範囲を理解する」を公表して、以下の点を述べている。

1.あなたの契約をチェックする。
2.契約上の義務を知る。
3.不測の事態の対策について調べる。
4.詐欺に注意する。
5.保険投資商品の価値がなくなってもパニックにならない。
6.疑わしい場合は、保険会社又は仲介人に連絡して下さい。
 

9―まとめ

9―まとめ

以上、今回のレポートでは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けての、EIOPAのこれまでの対応及びそのうちの配当及び自社株買い停止要請を受けてのEU加盟各国の保険監督当局や保険会社の対応について報告してきた。

EIOPAによる声明等が公表されて、EU域内での整合的な取扱が期待されている状況にはあるものの、実際の具体的な対応は各国の監督当局の判断等に委ねられていることから、必ずしもEU加盟国間で統一的な取扱が行われているわけではない。

従って、例えば配当支払いの取扱に関しても、同じ保険グループ内の会社によっても、子会社の管轄区域によっては、さらにはそれぞれの子会社の資本ポジションの状況等によって、当初想定されていた配当を支払うケースも支払わないケースもある等異なる取扱いとなっていくことも想定されることになる。

次回のレポートでは、欧州以外の国々における保険監督当局の対応等について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年05月01日「保険・年金フォーカス」)

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