2020年04月28日

自転車保険への加入義務化-東京都も4月から

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―はじめに~東京都の自転車保険への加入義務化

2020年4月より、東京都全域において自転車保険への加入が義務化された。より正確には、既に「努力義務」であったものが、以下に述べるような状況に対応して、強化されたということである。

同じ東京都の中でも、豊島区は独自の条例で2019年10月から既に義務化されていたり、足立区などのように傘さし運転やスマホ操作しながらの運転などの危険な運転をも既に条例で禁止していたりするところもある。
 

2―自転車保険加入義務化の背景など

2―自転車保険加入義務化の背景など

自転車保険の必要性などの背景については、既に様々な媒体で言われているので、既存のレポート1を参照頂きたいが、簡単にふれておく。

自転車事故件数自体は減少傾向にある中で、自転車が原因となる対歩行者事故は増加しており、当然自転車事故の中での割合も増加してきている。年齢別には特に16~19歳の事故が突出して多い。その際、自動車事故と異なり、たかが自転車だからケガなどの被害も軽いのかというと、そうとは限らず、死亡や高度障害につながる事故も実際に発生している。その場合には裁判を経て請求される賠償金額が1億円近くなるケースもある。とはいえ、自動車とは異なり自転車には免許が必要なわけでもないので自賠責保険にあたる制度もないため、多くの場合、加害者に支払能力はなく、被害者は泣き寝入りせざるをえない状況になる。そこで各地方自治体は条例において自転車保険への加入を義務付け、せめて経済的な補償の部分は整備しようとする動きが進んでいる、ということである。本来、自転車は排ガスを出さないことから環境にもやさしく、災害の際には機動的であり、健康増進の観点からも推奨されるなど、存在感を増している状況にある。その一方で、イヤホンで音楽を聴きながらあるいはスマホ操作をしながらなどの危険な自転車運転もよく見かけるようになり、歩行者側にも歩きスマホの危険性が指摘されるなど、事故につながりやすい状況に対して何らかの形で対策が求められている。

そしてこの4月からは東京都も、既に2013年に制定されていた「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」の改正によって、自転車保険への加入を義務化したということである。
 
1 例えば「9500万円の賠償も!自転車事故の恐ろしい実態 自転車保険の加入を義務付ける自治体の増加」村松容子 東洋経済ONLINE
https://toyokeizai.net/articles/-/308093

3―義務化の内容~東京都の例

3―義務化の内容~東京都の例

とはいえ、具体的にはどんなことが義務化されたのか、東京都の例を具体的にみていこう。

その内容は個々人に自転車への加入を義務付ける他にも、自転車を販売する店、自転車レンタルなどで自転車を管理する人、自転車に乗る児童を抱える学校などでも加入を奨励する義務を課している内容となっている。
・自転車利用者、保護者、自転車使用事業者及び自転車貸付業者による自転車損害賠償保険等への加入を義務化

・自転車小売業者による自転車購入者に対する自転車損害賠償保険等への加入の有無の確認、確認ができないときの自転車損害賠償保険等への加入に関する情報提供の努力義務化

・事業者による自転車通勤をする従業者に対する自転車損害賠償保険等への加入の有無の確認、確認ができないときの自転車損害賠償保険等への加入に関する情報提供の努力義務化

・学校等の設置者に対し、児童、生徒等への自転車損害賠償保険等への加入に関する情報提供の努力義務化

その他、都の責務として、区市町村、保護者その他の関係団体と連携した自転車損害賠償保険等に関する情報提供その他の必要な措置の実施に関する規定を設けた
(東京都都民安全推進本部ホームページ2資料より)

具体的に留意すべき点としては、対象者は東京都を自転車で走行する人であって、東京都「在住」かどうかは関係ない。また子供の加入は親の義務(賠償も親の監督責任が問われる)となる。

保険金額につき定めはないので、まずは加入してさえいればよいし、他人に対する補償を主眼にしているので、自分自身の自転車事故によるけがなどに対する保険は義務化されたわけではない。

また、東京都の場合、あるいは他の多くの自治体もそうだが、特に罰則があるものではない。ただし保険等未加入の場合、職場や学校から自転車通勤・通学を禁止されたりすることは当然あるだろう。

さらには保険等未加入の場合、仮に事故を起こした場合、この条例改正を知らなったと主張しても、責任は軽くならないことは、ある意味当然である。  

4―保険・共済で提供されている商品・仕組み

4―保険・共済3で提供されている商品・仕組み

というわけで、自転車利用者は、一言でいえば何らかの自転車保険に加入していなければならないわけだが、それに対して、どのようなものが提供されているかみてみる4。金額や加入先など具体的なことには東京都の条例では言及されていない5ので、まずは自転車利用者が各自どこか選んで加入すればよいのだが、各自の置かれた状況によって内容を検討する必要があるだろう。あるいは、必ずしもあらたに加入する必要はなく、これまでに加入済みの保険に既にセットされていればそれでよい。

どこで加入するか。それにはインターネット、コンビニ、自転車販売店、保険会社、共済組合などがある。

どこに加入すればいいかという点については、損害保険会社、生命保険会社、各種の共済がある。コンビニごとに取り扱う保険会社などがそれぞれ違うものに決まっているかもしれない。あるいは、自転車販売店などで加入した場合も、提携した損害保険会社などの引き受けになっている場合が多い。

どんな保険商品・共済に入ればよいかというと、「自転車保険」という名前のものに単純に限る必要はない。むしろそういった純粋なタイプは少なく、むしろ「個人賠償責任保険」という形で、自転車保障以外の保障もセットになったタイプが主流にみえる。名称だけにとらわれることなく、内容を見て検討するのがよいと思われる。

損害保険協会ホ-ムページ6によれば、個人賠償責任保険で補償される事故の例として、以下が挙げられており、自転車で歩行者にぶつかった場合が代表的な例として含まれている。

・買い物中に陳列商品を落として破損させた
・飼い犬が他人を噛んでケガをさせた
・子供が駐車場に停めてあった他人の車をキズけた
・自転車で走行中に歩行者とぶつかり後遺障害を負わせた
・マンションの自宅の風呂場からの水漏れにより、階下の戸室の家財に損害を与えてしまった
・ガス爆発によって、隣の建物を損傷させた
・ベランダの鉢植えが落下して歩行者の頭に当たり死亡させた

また、その場合支払い対象となる損害や費用として

・被害者に対する損害賠償金(治療費、修理費、慰謝料など)
・弁護士費用、訴訟になった場合にそれに要する費用、調停・和解・仲裁の場合にそれに要する費用

という例が挙げられている。

示談交渉サ-ビスやロードサービスがセットされていたりすることがあるのは、自動車保険の場合と似ている。
 
保険料(共済掛金)負担の金額は、保障範囲により区々なのはもちろんだが、ざっとみたところ月1,000円前後からあり、それほど高いものではないように見える(が高いと見るかどうかはひとそれぞれである)。
 
個人賠償責任「特約」という形では、今までに加入済みの自動車保険に付帯できる7こともあるし、火災保険に付加できるものもある。さらには契約者本人だけではなく家族についても保障の対象になっているタイプのものもある。

自転車保険は損害保険的なイメージで捉えられるものだが、生命保険会社でも自転車事故に備える保険が提供されている。これは会社ごとに損害保険会社と提携して、生命保険ならではの、自分自身のケガや万一の死亡保障がセットになったものと言えるようだ。

各種共済の場合も全く同様であるが、そもそも共済は一般的に言って、保障金額(の上限)が少額のものが多いので、先に述べたような1億円近い高額賠償に対応できないものも見受けられることには注意が必要である。その場合でも、同じ共済の取り扱いの中で、別途損害保険会社などと提携した保障が用意されていることもあり、追加することが可能かもしれない。
 
3 保険と共済は厳密には実施している会社・団体が異なるので、単に自転車「保険」というと共済関係者・加入者は(あるいは知っている人ほど)気になるところもあろう。この稿では、なるべく保険・共済と並べているつもりだが、そうでなくても、一般的な話の中にはいつも共済を含んでいることに留意頂きたい。
4 本当は、各社の具体的な「商品」を挙げて説明するのがいいのだが、全部みているわけではないので、概略にとどめさせて頂く。
5 全部確認したわけではないが、どの自治体の条例でもそうではないかと思われる。
6 損害保険Q&A https://soudanguide.sonpo.or.jp/body/q092.html
7 あるいは、あまりあってはならないが、「知らないうちに含まれている」かもしれないので、確認してみるとよいかもしれない。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年04月28日「基礎研レター」)

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