2020年04月07日

中国不動産の基本~土地使用権について

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.277]

社会研究部 研究員 胡 笳

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中国不動産に関する情報は投資や住宅価格の動きを注視したものが多く、基本的な情報は少ないなか、中国不動産の基本となる土地使用権について報告する。

土地使用権とは?

不動産は中国語で「房地产」と書く。「房」は建物、「地」は土地のことである。「土地管理法」(1986)(第一章第二条)によると、中国の土地は国民(全民)所有と農民集団(劳动群众集体)所有二つに分類される。企業・個人による土地の売買は禁じられているが、土地を使用する権利(土地使用権)は、国(地方政府)に許可されれば取得できる。その対価として土地使用者は国(地方政府)に「土地使用権譲渡金」(土地使用权出让金)を支払う必要があり、取得した土地使用権は法律に従い譲渡・賃借・抵当することができる。
 
「都市部国有地使用権の譲渡に関する暫定条例」(1990)によると、土地使用権は土地の種別によって一定期間に制限されている。土地使用権が譲渡されると、建物及びその他の定着物も同時に譲渡され、逆に建物及びその他の定着物が譲渡されると、その分の土地使用権も一体的に譲渡される。抵当の場合も同じである。
土地使用権

使用年限が満了したら?

土地の使用者にとっては、定められた使研究員の眼用年限が満了後、土地を国に返す必要があるのか。これについては、2016年に全国から注目される動きがあった。
 
2016年4月に、浙江省温州市では、一部の住宅用地は市が独自に設定した20年の使用年限が満了た際に、市は土地使用権の更新料を過大に請求し、全国に不安が広がった。
 
温州市は初めて土地使用年限が満了する事例ではない。「物権法」(2007)では、住宅用地の土地使用権は使用年限満了後に「自動延長」とされている*が、更新料やその徴収基準などは各地域では独自の政策に従い実施していた。例えば、深圳市では、土地使用権の更新料として「基準地価の35%」を徴収することが定められている。物件の取引価格で換算すると数パーセントにしか過ぎない。一方、温州市の土地使用権更新料の徴収基準は定かでないが、物件の取引価格で換算すると1/3に達し、全国から注目されることに至ったわけである。
 
その後、次第に増大する国民の不安を払拭するため、2016年12月に、国土資源部は記者会見で、土地使用権使用年限の満了に際しては、関連法則が明確になるまで、「申請手続きなし、更新料なし」の暫定措置を発表し、関連法律も整えようとしている。

建物はどうなるのか?

土地使用権が自動延長されることになったが、そもそも住宅(都市部では鉄筋コンクリート造マンションが一般的)は70年間も持つのだろうか。欧州では百年を超える建物が数多く存在し、日本でも長期優良住宅の供給が推進されてきた。しかし、中国では修繕計画に基づく大規模修繕どころか、日常の設備点検なども疎かなため、問題となる住宅が多い。
 
それもそのはず、中国では土地が収用されて、取り壊し対象になるほうが得だからである。「土地管理法」では、「公共利益のため、国は法律に基づき土地を収用することができ、その代わりに(建物およびその他の定着物に対し)補償する必要がある」と明記されている。補償基準は各地方政府により定められているが、一夜にして億万長者になるケースもめずらしくない。
 
しかし、こうしたことは長続きしないだろう。1つの理由は国に補償金を支払う余裕がなくなるためである。例えば低層アパートをタワーマンションに高度利用のために建替える場合は、元住民に高額な補償金を支払うとしてもメリットがある。現在中国の各地域に高層マンションが林立している。将来これらのマンションを建替える場合、どれだけの補償金が必要になるかは誰も見通せていない。
 
もう1つの理由は、建替えても価値が高くならないことである。高額な補償金が成立するのは、その建物が都心部にあり、建替え需要があることによるが、中国各都市の都心部が「高新区」と名付けたハイテク産業開発区に移転しつつある。このため旧中心市街地では人口が減少し住宅の需要が低下する傾向があり、敢えて高額な補償金を支払い、建替えを行うインセンティブは乏しくなっている。
 
土地使用権の更新料の代わりに、固定資産税(房产税)を徴収することも数年前から議論されており、今後も関連法整備の動きを注視する必要がある。
 
*非居住用地は、使用年限満了の1年前までに申請する必要がある。
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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
中国REIT、中国不動産全般

経歴
  • 【職歴】
     2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
     2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【資格】
     環境プランナー、国際環境リーダー

    【加入団体等】
     日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)

(2020年04月07日「基礎研マンスリー」)

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