2019年10月18日

IFRS第17号(保険契約)の修正EDに対する関係者の意見等の動向

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1―はじめに

保険契約のための新たな国際的な会計基準である「IFRS第17号(保険契約)」については、IASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)が、2017年5月18日に基準の最終案を公表し、「2021年1月1日以降に開始する期間」からの適用を求めていた。

ただし、これに対して、各国の保険業界団体等から、その適用スケジュールがかなり厳しいとの意見が発出され、さらには、基準そのものに対する問題点も指摘され、各種の懸念事項が提起されてきた。こうした動きを受けて、IASBも2018年10月24日からIFRS第17号の見直しに関する議論をスタートして、これらの意見に対する対応等を協議してきた。

その協議の結果として、IASBは2019年6月26日に、公開協議のための「IFRS第17号(保険契約)の修正」とするED(Exposure Draft:公開草案)1を公表した。このEDの概要及び関係者の初期反応等については、基礎研レポート「IFRS第17号(保険契約)の修正に関するEDの公表について-EDの概要及び関係者の初期反応等-」(2019.8.6)(以下、「前回のレポート」という)で報告した。

このEDに対する協議期間は90日間で、コメントは2019年9月25日までに求められていたが、今回、この協議期間の終了を受けて、関係者等から、コメント内容のリリース等が行われている。

今回のレポートでは、こうした「IFRS第17号(保険契約)の修正」に関するEDに対する関係者の意見等について報告する。併せて、昨今のIFRS第17号を巡る動きの中から、オーストラリアとカナダの保険監督当局における動きについて報告する。  

2―今回の修正EDのポイント

2―今回の修正EDのポイント

まずは、今回の修正EDのポイントについて、前回のレポートの内容を繰り返しておく。

EDにおいて、以下の8つのトピック((i)軽微な修正を除く)に関して、IFRS第17号への的を絞った修正を提案している。以下の内容は、ED及びIASBが公表している「Snapshot: Amendments to IFRS 17」2に基づいている。
(a)適用範囲の除外
保険契約の定義を満たすクレジットカード契約及びローン契約の取扱いについて、以下の通りとする。

・特定の要件(会社が顧客との契約の価格設定において、個々の顧客に関連した保険リスクの評価を反映していない場合)を満たすクレジットカード契約について、IFRS第17号の適用範囲から除外し、IFRS第9号を適用する。

・特定の要件(死亡免除付ローンのように、保険事故の補償が契約者の義務を解消するために要求される金額に限定されている場合)を満たすローン契約について、IFRS第17号又はIFRS第9号のいずれかを適用することができる。

(b)契約獲得キャッシュ・フロー
いくらかの契約獲得費用を予想される将来の更新に配分する。結果として損失の発生する契約が減少し、契約獲得費用のための資産が増加することになる。

・(ブローカーに支払われる手数料のような)契約獲得キャッシュ・フローを関連する更新後の契約にも配分する。

・会社が更新後の契約を認識するまで、これらの契約獲得キャッシュ・フローを資産として計上する。

・会社が更新後の契約を認識するまで、報告期間毎に当該資産の回収可能性を評価する。

・財務諸表の注記に、以下の情報の開示を要求する。
 ・期首から期末における当該資産の異動
 ・当該資産の認識中止や更新後の保険契約グループの測定に含める時期に関する情報
 ・減損損失の認識やその取消を異動表で区分して開示

(c)投資リターンサービス及び投資関連サービスに起因する契約上のサービスマージン(CSM
一部の契約について、収益認識と投資サービスの提供との整合性を高める。

・一般的な測定モデルにおける保険収益の認識は、保険カバーだけでなく、投資リターンサービス及び投資関連サービスに起因する契約上のサービスマージン(CSM)も含めて考慮する。

・財務諸表の注記に、以下の情報に関する開示を要求する。
 ・保険料配分アプローチが適用される以外の保険契約について、将来の損益における報告期間末のCSMを定量的に開示する(現在のIFRS第17号で認められていた定性的な開示のみを行う選択肢は削除)
 ・保険カバー及び投資リターンサービス及び投資関連サービスが提供する便益の相対的ウェイトを決定するために採用した判断

(d)保有再保険契約
元受契約の発行前又は同時に発行されている比例再保険契約について、基礎となる元受契約が不利な契約である場合に、対応する再保険契約の利得を直ちに認識することで、会計上のミスマッチを軽減する。

当初認識時に不利な元受契約の損失を認識している場合で、対応する再保険契約が、以下の条件を満たしている場合に、この再保険契約の利得を認識する。
 ・元受契約の保険金を比例的にカバーする(即ち、保険金の固定された割合を回収する) 
 ・不利な元受契約が発行される前又は同時に発行された

(e)財政状態計算書への表示
会社が、保険契約のグループではなく、保険契約のポートフォリオを使用して決定されるレベルで、保険契約の資産及び負債を財政状態計算書に表示することを要求する(簡素化)。

(f)リスク軽減オプションの適用
会社が金融リスクを軽減するために再保険契約を使用する場合に適用できるように、リスク軽減オプションを拡張して、会計上のミスマッチを軽減する。

直接連動有配当契約の金融リスクを軽減するために再保険契約を使用する場合にリスク軽減オプションを使用することが認められる。

(g)IFRS17号及びIFRS4号におけるIFRS9号「金融商品」の一時的免除の発効日
IFRS第17号の発効日を2021年から2022年(1月1日以降に開始する事業年度)に1年延期し、(一定の条件を満たす保険会社等に認められている)既存のIFRS第4号におけるIFRS第9号「金融商品」の発効日も2021年から2022年に1年延期する。

(h)移行措置の変更及び救済
基準を初めて適用する時に、会社が使用する3つの簡便化のオプションを追加する。

(1) 企業結合
・修正遡及アプローチが認められる場合や公正価値アプローチの適用において、会社は、企業結合により取得した保険金支払負債を残存カバーに対する負債ではなく、発生保険金に対する負債として、分類することができる。

(2) 移行日からのリスク軽減
会社がオプションを適用する日又はそれ以前にリスク軽減関係を指定した場合に限り、会社は移行日以降に将来に向かってB115項のリスク軽減オプションを適用することができる。

(3) リスク軽減と公正価値アプローチ
直接連動有配当保険契約のグループに対して、以下の要件を満たす場合に、公正価値アプローチの適用を選択することができる。

・移行日から将来に向かって、リスク軽減オプションを保険契約グループに適用することを選択する。
・移行日までに、保険契約のグループから生じる金融リスクを軽減するためにデリバティブ又は再保険契約を使用していた。

(i)軽微な修正
IASBは、IFRS第17号の起草が審議会の意図する結果を達成しないいくつかの事例に対処するための軽微な修正を提案している。この中には、例えば「投資要素の定義の明確化」等が含まれている。
 

3―今回の修正EDに対するEFRAG(欧州財務報告諮問グループ)の意見

3―今回の修正EDに対するEFRAG(欧州財務報告諮問グループ)の意見

欧州の会計基準設定において重要な位置付けを有しているEFRAG(European Financial Reporting Advisory Group:欧州財務報告諮問グループ)は、IASBのIFRS第17号の修正に関する公開草案EDに対応して、2019年7月15日に、コメントレターの草案を公表し、その提案に関する関係者の意見を求めていた。このドラフトコメントレターへの意見は9月2日締切りとなっていたが、これを踏まえて、9月24日に最終コメントを公表3している。
1|最終コメントのポイント
最終コメントレターのポイントは、以下の通りである。

・EFRAGは、提案された多くの変更を支持する。
・EFRAGは2022年1月1日を発効日とすることに同意しない。EFRAGは、早期適用を許容した上での、2023年1月1日が現実的な発効日であると考えている。
・EFRAGは、IASBが以下の2つの問題をさらに検討する必要があると考えている。

(1) 年次コホート要件により、一部のファクト・パターンで不要なコストが発生すると考えている。EFRAGは、集約要件のレベルとその経済的特性の報告目標を反映して、IASBがそれらに適切なソリューションの開発を検討することを推奨する。

(2) 修正遡及アプローチを適用する際に作成者が直面する実施上の課題を引き続き懸念しており、IASBが最終基準の本文で、不足している情報を概算するために必要なものを含め、推定の使用が許可されていることを確認することを奨励する。

なお、これらの指摘事項の内容については、基本的には前回のレポートの内容と変わっていないので、前回のレポートを参照していただくことにして、このレポートでは繰り返さない。
2|最終コメントレターの具体的内容
最終コメントレターに関するリリース内容によれば、以下の通りとなっている。

EFRAGは、2018年9月3日のレター4で特定されたトピックの検討に対して感謝を表明する。しかし、EFRAGは、以下の問題がさらなる検討を必要とすると考える。

・EFRAGは、IFRS第17号の集約要件のレベルに関するIASBの報告目標に同意し、年次コホート要件が実際的な簡略化として特定されていることを認めている。それでも、EFRAGは、この要件が一部のファクト・パターンで不必要なコストにつながると考えている。EFRAGの関係者からのフィードバックは、この問題が、「実質的な」リスク分担があるB67項からB71項に記載されている特性を持つ契約に関連していることを確認している。欧州の管轄区域で普及しているこれらの契約の殆どは、変動手数料アプローチの対象となる。一部の管轄区域では、この問題は一般モデルに適格な契約に関連している。これには、キャッシュ・フロー・マッチング手法が世代を超えて適用されるB67~B71に記載されている特性のない契約が含まれる。

・EFRAGは、修正遡及アプローチを適用する際に作成者が直面する実施上の課題を引き続き懸念しており、IASBが最終基準の本文で、不足している情報を概算するために必要なものを含め、推定の使用が許可されていることを確認することを奨励する。
EFRAGは、EDの修正の多くをサポートしているが、書簡に示されているいくつかの懸念事項を有している。

EFRAGは2022年1月1日を発効日とすることに同意しない。EFRAGは、2023年1月1日が現実的な発効日であり、早期適用が認められるべき、と考えている。

最後に、EFRAG は、IFRS 9 金融商品のオプションの延期を延長するIFRS 4 保険契約の必要な修正は、2021年1月1日の現在の有効期限前に欧州内での適時の承認を可能にするために、できるだけ早く、遅くとも2020年6月末までに公開する必要があると考えている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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【IFRS第17号(保険契約)の修正EDに対する関係者の意見等の動向】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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