2019年10月03日

J-REITのパフォーマンス要因分析~J-REIT市場の上昇・下落要因を調べる~

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――はじめに

2001年9月にJ-REIT(不動産投資信託)市場が誕生してから、今年で18年が経過した。この間、時にはリーマン・ショック後の厳しい信用収縮や不動産市況の悪化、東日本大震災など大きな外的ショックなどに見舞われるも、東証REIT指数(配当込み)は大きく上下動を繰り返しながら上昇してきた (図表1)。

あらためてこれまでの東証REIT指数の動きを振り返ると、市場創設から2007年5月までは概ね上昇基調が続いたが、世界的な金融危機の影響などから下落に転じピーク時からの下落率は約▲70%に達した。その後は、2012年12月に発足した第二次安倍内閣による「アベノミクス」の政策効果などを背景に上昇に弾みがつき、現在では株式市場(TOPIX)を大きく上回るパフォーマンスを実現している。

そこで、本稿では、東証REIT指数のトータルリターンを「株式市場」、「債券市場」、「不動産市場」の三つの要因に分解し、上昇・下落への寄与度を調べることとしたい。
図表1 東証REIT指数(配当込み)とTOPIX(配当込み)の推移(2003年3月末=100)

2――東証REIT指数(配当込み)のリターンの説明変数を考える

2――東証REIT指数(配当込み)のリターンの説明変数を考える

東証REIT指数のリターン(前月比)に影響を及ぼす要因として、「株式市場」、「債券市場」、「不動産市場」の3つが考えられる。各要因を代理し東証REIT指数のリターンの説明変数となりうる指標を以下の通り選択した。
図表2 東証REIT指数のリターンに影響を及ぼす要因並びに説明変数
<株式市場>
「株式市場」の代表的な指標として「TOPIX」が挙げられる。「株式市場」は企業収益やマクロ経済の先行指標であり、TOPIXが上昇する場合、東証REIT指数も上昇すると考えられる。従って、TOPIXと東証REIT指数の相関係数はプラスの符号が想定される。

<債券市場>
「債券市場」の代表的な指標として「NOMURA-BPI総合」が挙げられる。J-REITは負債を活用して不動産を取得し不動産収益を投資主に分配する金融商品であり、NOMURA-BPI総合が上昇(金利は低下)した場合、東証REIT指数も上昇すると考えられる。従って、NOMURA-BPI総合と東証REIT指数の相関係数はプラスの符号が想定される。

<不動産市場>
不動産市場の代表的な指標として、三鬼商事が公表する「東京ビジネス地区平均賃料(以下、東京オフィス賃料)」が挙げられる。東京オフィス賃料は、東京都心5区に所在する基準階面積100坪以上の主要貸事務所ビルの募集賃料を集計した指標(全体、新築ビル、既存ビル)である。J-REITの保有物件はオフィスビルが中心であり、東京都心5区に所在する物件が多い。東京オフィス賃料が上昇した場合、東証REIT指数も上昇すると考えられる。従って、東京オフィス賃料と東証REIT指数の相関係数はプラスの符号が想定される。なお、両者の関係を分析したところ、新築ビル賃料(1ヶ月先)との相関が高いため、分析ではこの値を説明変数として用いることとした。
 

3――東証REIT指数の要因分解

3――東証REIT指数の要因分解

1|対象期間
以下では、上記で示した説明変数を用いて、2003年4月から2019年6月までの東証REIT指数(月次リターン)に影響した要因を調べる。あわせて、分析期間を「図表3」の通り分割して分析した。

具体的には、2003年4月から指数がピークを付けた期間を「J-REIT黎明期」、2007年6月から2012年11月を「金融危機・下落期」、2012年12月から現在までを「アベノミクス・上昇期」とした。また、「アベノミクス・上昇期」は、2016年2月からマイナス金利政策が導入されたことにより、この前後において各説明変数の影響が変化していることから、「アベノミクス・上昇期(マイナス金利導入前)」、「アベノミクス・上昇期(マイナス金利導入後)」の2つの期間に分けて分析を行った。
図表3 推計期間
2|パフォーマンス要因分析
各期間について、各要因の影響をみていく。図表4は東証REIT指数のリターンを各説明変数で重回帰した結果である。また、図表5は東証REIT指数のリターンに対する各要因の寄与度1を示す。

全期間を通じてみると、東証REIT指数は+289%上昇した。東証REIT指数に対する各要因の寄与度は株式市場+109%、債券市場+90%、不動産市場+7%となった(図表5)。東証REIT指数の上昇には株式市場の上昇や金利の低下が大きく寄与していた。また、全ての要因が有意水準0.1%で有意だった。重回帰分析による自由度調整済決定係数(以下、修正R2)は0.42となり、ある程度の説明力があった。次に各期間毎の結果をみていきたい。
図表4 東証REIT指数のリターン分析結果
図表5 東証REIT指数のリターンに対する説明変数の寄与度
 
1 各要因の寄与度は、各説明変数の変化率と東証REIT指数のリターンに対する各説明変数の係数をかけ合わせて算出している。
<J-REIT黎明期:2003年4月~2007年5月>
この間、東証REIT指数は+200%上昇した。東証REIT指数に対する各要因の寄与度は株式市場+27%、債券市場+1%、不動産市場+9%となった(図表5)。なお、不動産市場は有意水準5%で有意だった。期間中、東京オフィス賃料は上昇し、東証REIT指数にプラス寄与したと考えられる(図表7)。

ただし、重回帰分析による修正R2は0.18となり、説明力は比較的低かった。J-REIT黎明期はJ-REIT市場の規模が小さく、銘柄数も少なかった(2003年3月末時点 6銘柄)ため、個別銘柄の影響が大きかったと考えられる。
図表6 東証REIT指数のリターン分析結果(J-REIT黎明期 2003年4月~2007年5月)
図表7 東京ビジネス地区平均賃料/新築ビルと東証REIT指数(配当込み)(2003年3月末=100)の推移
<金融危機・下落期:2007年6月~2012年11月>
この間、東証REIT指数は▲44%下落した。東証REIT指数に対する各要因の寄与度は株式市場▲43%、債券市場+19%、不動産市場▲13%となった。また、株式市場が有意水準0.1%で有意だった。リーマン・ショックなどによる世界的な金融危機や景気悪化により株式市場が大きく下落したことの影響が大きかったと考えられる(図表9)。なお、重回帰分析による修正R2は0.58となり、説明力は比較的高かった。
図表8 東証REIT指数のリターン分析結果(金融危機・下落期 2007年6月~2012年11月)
図表9 東証REIT指数(配当込み)とTOPIX(配当込み)の推移(2003年3月末=100)
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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