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出生率の決定要因や少子化施策の効果に関する分析-埼玉県における少子化対策に関する施策の効果検証を中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
日本社会事業大学 社会福祉学部 教授 金子 能宏
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5――実証分析
加藤(2017)は、人口密度やその他の経済社会変数が市区町村別の出生率に有意に影響を与えているかを1,890のサンプルから検証しており、分析結果からは人口密度が高い市区町村ほど出生率は低いことや、女性が就業している割合が高い市区町村ほど出生率が高いことなどが明らかになった。そこで、本稿では人口構造やその他の経済社会変数が出生率に与えた影響を分析するために回帰分析(最小二乗法)を行った。分析に使われた被説明変数と説明変数は次の通りである(記述統計量は図表30)。
○ 被説明変数:出生率
○ 説明変数
(a)人口構造((1)人口密度、(2)20歳~39歳人口割合、(3)未婚率)
(b)経済状況((1)一世帯当たり課税対象所得、(2)15歳~49歳就業率)
(c)世帯構成(一般世帯のうち高齢夫婦世帯割合)
(d)子育て支援((1)一般行政費に占める児童福祉費比率、(2)補助対象児当たりの多子世帯保育料補助額)
ある政策を実施する前と政策を実施した後の効果を推計する場合、次のような式により推計することができる。

ここで、 Ytは、政策を実施したことにより影響を受ける変数である。dtは、政策の影響を受ける対象であれば1で、政策の影響を受けない対象であれば0となるダミー変数である。εtは誤差項であり、β0とβ1は推計するパラメーターである。この式による推計結果を用いて、ある政策を実施することによりYが増加したという解釈をすることは可能である。しかしながら、Yが増加した要因が、すべてある政策によるものかどうかは断定できない。例えば、一部の市町村のみある産業政策を実施することにより、該当する市町村の一人当たりGDPが増加したとしても、それがすべて政策の効果であるとは言い切れない。つまり、その効果には政策による効果のみならず、時間が変化することにより発生する外生的要因(time effect)が含まれている可能性もある。そこで、このようなことをコントロールして分析できる差分の差分法を使用することが望ましい。差分の差分法(Difference in Difference Analysis, DID 分析)では、政策の影響を受けるトリートメントグループと、政策の影響を受けないコントロールグループという 2つのグループに分けて分析を行う。つまり、純粋な政策の効果だけを見るために、政策により影響を受ける対象(トリートメントグループ)のみならず、時間が経っても政策の影響を受けない対象(コントロールグループ)を一緒に分析に利用する必要がある。

上記の表を用いて説明すると、トリートメントグループ(政策の影響を受ける市町村)の政策の実施前後の効果(b-a) には、政策の効果のみならず、時間が経つことにより発生する外生的要因も含まれていると言える。一方、コントロールグ ループ(政策の影響を受けない市町村)の政策の実施前後の効果(d-c)には、時間の変化による外生的効果だけが反映 される。ということは、(b-a)から(d-c)を除くことにより、時間の変化による外生的効果を除いた、純粋な政策効果が推計されることになる。但し、一つ注意すべきことは、外生的効果はトリートメントグループとコントロールグループともに 同じであると仮定する必要がる。これが差分の差分法の主な内容である。
ここで、本稿では政策効果を見るために、差分の差分法(Difference in Difference Analysis, DID分析)を行った。図表32から図表35までは「第1子から全出生世帯へのお祝い金等給付事業」と「第3子以降の出生世帯に限定した給付事業または第3子以降世帯のみに上乗のあるお祝い金等事業」の政策効果に対して差分の差分法(固定効果モデル)を行った結果である。分析結果を見ると、分析時期を2015年と2016年にした図表32と図表33の分析結果では政策効果に統計的に有意な結果は表れなかった。そこで、政策の効果が出るまでには多少時間がかかることを考慮し、分析時期を2015年と2017年に調整し、分析を行った結果、「第1子から全出生世帯への祝い金等給付事業」を実施している市町村(トリートメントグループ)の出生率が高いという結果が出ており、統計的にも有意であった(図表34)。
(2019年09月19日「基礎研レポート」)
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