2019年08月08日

岐路に立つ日本の水道~今、考えたい公共サービスの受益と負担

神戸 雄堂

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■要旨
 
  • 住民にとって最も身近で不可欠な公共サービスとして水道事業がある。地方公共団体が運営する水道事業(水道用水供給事業を除く)は原則として市町村が経営するものとされており、各市町村が経営する上水道事業は独立採算制が原則(事業運営に係る経費を利用者からの料金収入で賄わなければならない)とされているが、実際のところ十分な料金設定ができていない事業者が一定数存在している。
     
  • その他にも、水道事業者は、老朽化する施設への対応、水道職員の確保、料金格差拡大の抑制など多くの課題を抱えており、将来的に安価で安全な水の供給が危ぶまれている。これらの主因は、地方公共団体数に比べて水道事業者数が過多であるため、経営資源が分散し、規模の経済が働かず、小規模な事業者を中心に経営が困難となっている。
     
  • 2018年度には、広域連携や官民連携を推進することで、課題を解決すべく、水道法が改正された。ただし、目指すべき方向性自体は妥当であるが、双方ともに浸透するには相応の時間を要すると予想される。
     
  • 仮に、広域連携や官民連携を実施せずに、独立採算制の原則に従う場合、各団体は水道料金をどれほど引上げる必要があるかを推計したところ、全体の平均では2017年度当時でさえ実際の料金から約40%、2045年度に向けては80%以上の引上げが必要という結果となった。これは、これまでにしかるべき引上げが十分に行われてこなかったことに加えて、今後は人口(有収水量)の減少や更新費用の増加が上昇要因となるためである。一方で、施設のダウンサイジングによって、上昇幅を緩和することも可能であり、料金の引上げとあわせて広域連携や官民連携の検討は不可欠と言える。
     
  • 水道事業が抱える課題は、他の公共インフラにも共通している。すなわち、過去に作られたインフラの更新が十分に行われないまま、老朽化が進み、日常生活に支障を及ぼす、場合によっては生命を脅かしかねないという点である。ここから次の2点を教訓とすべきであろう。1点目は、今後公共インフラについてはダウンサイジングを推進していくべきということ。2点目は、行政側が明確な根拠を示した上で公共サービスに対するしかるべき負担(受益者負担)を国民に求め、国民側もきちんと吟味することである。これら2つの教訓を生かさなければ、文字通り負の資産を次世代に残すことになってしまうだろう。

■目次

1――はじめに
2――水道事業について
  1|水道事業制度
  2|水道事業の現状と課題
3――2018年度における水道法の改正について
  1|改正水道法の概要
  2|水道法改正に伴う影響
4――水道事業者の現状における給水人口規模別分析結果
5――給水人口規模別の水道料金の推計結果
6――さいごに
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神戸 雄堂

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