コラム
2019年08月05日

中国農村部の高齢者は不幸なのか。

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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少子高齢化が急速に進む中国。来年の介護保険制度の本格始動を前に、都市部では、デイサービスやショートステイ、訪問介護などの介護サービスを提供する小規模多機能型施設や老人ホーム、高齢者マンションなど次々にオープンしている。加えて社会のデジタル化の進展とともに、介護のIoT化も進められつつある。例えば、最近オープンした上海市内のデイケアセンターを訪問すると、センサー付きの介護ベットを導入し、介護職員のタブレットや家族のスマホで、高齢者の健康状態が瞬時に確認できるという。人材不足の緩和、作業の効率化をはかり、介護サービスのデジタル管理にも一役買っている。ハード面だけを見ると、日本よりも進んでいるのではないかと思うほどだ。
 
翻って、農村部はどうか。農村部の問題として、こどもが都市部に働きに行ってしまい、高齢の夫婦のみまたはその孫(未成年)が農村で残され生活をする“空巣問題”が代表的である。介護の担い手がいない上、都市部にあるようなデイケアセンター、老人ホームがあるわけでもない。高齢者は見捨てられ、孤立し、、、という報道もよく見かける。確かにそういった問題もある。都市と農村の格差を声高に非難することは簡単であろう。しかし、現地で限られた予算内で、試行錯誤しながら行われている取組みは極めて現実的である。
 
筆者は6月に上海市郊外の農村部でのある取組みを見る機会を得た。ビル群の上海市内からバスで向かったが、降り立った瞬間、土のにおいがした。目の前には畑が広がっている。上海市郊外で実施されていたのは、空き家を活用した“高齢者向けのカフェ”の開設である(次頁写真)1。イメージとしては、高齢者が集まる“集会所”が近いかもしれない。この高齢者カフェでは、まず、一番の問題とされる食事(昼食)を解決している。また、食事の提供以外にも、健康講座や困りごとの相談、レクリエーションと大きく分けて4つの内容について実施している。訪問した際は、軒先で集まった高齢者が楽しそうに、懐かしい歌を歌っていた。
 
運営はNPOが行っているが、日々の食事の準備などには住民もボランティアで深く関わり、地域の結びつきの強さが感じられた。地域内で、前期高齢者が後期高齢者を支えている形だ。

なお、空き家をもとの家主から借り受け、リノベーションする費用は、主務官庁である民生局から5万元(80万円)が支給される。加えて、施設の1年間の運営費として更に5万元が支給されるとのことである。農村部での老後の生活は世帯扶養を中心とし、それを村や村民による住民委員会などの組織が支えている。都市化が進んだ地域では都市部と同様の介護保険制度を導入しているが、財源の関係上、まだ限定的なのが現状だ。
 
このように、空き家をリフォームし、小さな拠点を網目状に展開していくという取組みは、今回訪れた上海市郊外の区内320ヶ所で実施され、今後、500ヶ所まで増えれば、区全域をカバーできるという。一見すると、冒頭の都市の状況と大きく異なるため、その違いに目が行きがちである。しかし、当の高齢者は、長年住み慣れた地域で、顔見知りの人と一緒に老後を過ごしたいという意識が強く、都市部での施設への入居はしたがらないという。そこに住む高齢者の希望に応じた老後の生活のあり方を模索し、地域の住民を巻き込み、小さなコスト・横展開でネットワークを形成していく。このような取組はあくまで老後問題解決に向けた一歩であり、まだ課題はたくさんあるが、農村が抱える現実や実情に則した取組みとして全国的にも注目されているようだ。

訪問した際に、ボランティアで来ているという住民が厨房で作った素朴なパンを振舞ってくれた。何とも言えない心温まる味わいと、屈託のない笑顔が印象的であった。
上海市郊外の高齢者向けカフェ(外観)
 
1 例えば日本では、高齢者の外出支援と認知症予防ケアを目的とした「オレンジ・カフェ」の取組みなどがある。http://www.pref.kyoto.jp/social-biz/cabik.html
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

(2019年08月05日「研究員の眼」)

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【中国農村部の高齢者は不幸なのか。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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