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欧州保険会社が2018年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-
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1―はじめに
今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容等から、内部モデルの使用状況及び(内部モデル適用による影響が大きい)分散効果の状況について報告する。
2―内部モデルの使用状況及び分散効果の状況
ソルベンシーIIにおける第一の柱である「必要資本」の算出等においては、(1)技術的準備金(Technical Provision)、(2)SCR(ソルベンシー資本要件:Solvency Capital Requirement)、(3)MCR(最低資本要件:Minimum Capital Requirement)の3つが重要な構成要素となる。
このうちのSCRの算出については、標準的な算式が定められているが、保険会社のリスク管理の高度化を促すために、監督当局の承認を要件に、各保険会社・グループ独自の内部モデル(部分的な適用を含む)の使用も認められている1。
標準的方式では、SCRはモジュラー・アプローチと呼ばれる構造に基づいて算出され、保険引受けリスク、市場リスク等の各種のリスク・モジュールでの算出を行った後、各種リスク間の分散効果等を反映させる形で算出されていく。内部モデルでは、これらのそれぞれの算出等において独自のモデルやパラメータが使用されることになる。
分散効果は、異なるリスク/サブリスク又は異なるポートフォリオ/会社への集計方法の適用によって現われる。標準式でも考慮されているが、内部モデルを使用する場合、さらに各社のリスクの実態に応じる形での分散効果が反映される。ある意味で、内部モデルを採用することにより、最もSCR軽減効果が期待されているものである。
1 MCRは、監督当局の究極的な行動発動基準であることから、簡便な計算方式で、客観性を有し、保険会社からの法的措置にも十分対抗できる基準としており、内部モデルの使用も認められていない。
内部モデルのリスクカテゴリ毎の使用状況に関しては、SFCRのQRTsのS.25.02.22に報告されている。
さらに、QRTsのS.32.01.22においては、グループSCRの算出における各子会社等の取扱について、以下の10個の分類に基づいて、具体的な一覧表が掲載されている。
1 - 方法1:完全連結
2 - 方法1:比例連結
3 - 方法1:調整持分法
4 - 方法1:部門別ルール
5 - 方法2:ソルベンシーII
6 - 方法2:その他の部門別ルール
7 - 方法2:ローカルルール
8 - 指令2009/138 / ECの第229条に関連した参加の控除
9 - 第214条指令2009/138 / ECに定義されているグループ監督の範囲には含まれない
10 - その他の方法
このうちの主として前者のQRTsに基づいて、各社の内部モデルの適用状況を報告する。
なお、併せて、これらのQRTsの数値に基づいて、分散効果の状況も報告する。
AXAのグループSCRのうち、グループ全体でみると、66%が内部モデル、4%が標準式、25%が同等性、6%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準、の適用に基づくものとなっている。
2017年と比べて、XL Group(Bermuda)の影響により、同等性による割合が高くなって、内部モデルによる割合が低下している(AXAの子会社のうち、2018年のSFCRの算出においては、米国子会社やXL Group2は同等性評価に基づいているが、日本子会社等のその他の保険会社は内部モデルを使用している)。
AXAのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっており、分散効果控除前のSCRのうちの96.1%が内部モデルを使用して算出されている。内部モデルの使用割合をリスクカテゴリ毎に見た場合、どのリスクカテゴリでの使用割合も高く、殆どのケースで内部モデルを使用している。
E.2ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR)
グループ分散効果
内部モデルの分散効果は、異なるリスク/サブリスク又は異なるポートフォリオ/会社への集計方法の適用によって駆動される。したがって、分散効果は、特定のリスクファクターの範囲内、ポートフォリオ間、地域間又は異なるリスクカテゴリ間で現れる。
一例として、デュレーションギャップは、例えば、保障商品のための長い期間と年金のための短い期間のように、異なるポートフォリオに対して異なる符号を有することができる。このような場合、2つのポートフォリオを組み合わせると金利リスクが低下する。
リスク集計アプローチ内の細かさのレベルは、分散効果の測定に影響する主要な要因である。典型的には、集計アプローチが、地理、事業単位/法人レベル、リスクタイプ、商品タイプなどの次元に応じて、ポートフォリオや活動を区別するほど、より明示的な分散効果が明らかになる。内部モデルでは、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集約と、地理/会社間の集約という、主な集約ステップを考慮したマルチレベル集約アプローチが実施されている。
2018年12月31日現在の主要なリスク(市場、信用、生命保険、損害保険、オペレーショナル)における分散効果は103億ユーロであった。
2 XL Groupについては、現在はバミューダの標準式SCRに基づいて、同等性に従って評価されているが、AXAは、2019年はソルベンシーIIの標準式で、早ければ2020年にも内部モデルで算出する意向を示している。
AllianzのSCRの構成は、次ページの図表の通りとなっており、内部モデルによるものが、分散効果控除前のSCRの73.6%を占めている。
全ての主要な保険会社は内部モデル(ただし、米国子会社は同等性)でカバーされており、EEA(欧州経済地域)における小規模会社は標準式に基づいている。EEA域外の小規模会社は帳簿価格控除法(各会社の帳簿価格をグループの適格自己資本から控除)を適用している。また、単体SCRの決定において標準式を使用している会社は、グループSCRの集計において、標準式による結果を使用している。
Allianzの場合、標準式と内部モデルの場合のリスクカテゴリの開示項目が異なっているので、AXAのようにリスクカテゴリ毎の内部モデルの使用割合は必ずしも算出できない。ただし、例えば、引受けリスクの内部モデルの使用割合は全体平均に比べて低くなっている。
さらに、分散効果による控除率が38.0%と(他社に比べて)相対的に高い水準となっている。
なお、分散効果17,230百万ユーロのうち、内部モデルにおけるものが11,491百万ユーロ、標準式におけるものが5,739百万ユーロとなっている。
分散化と相関の前提
当社の内部モデルは、グループレベルで結果を集計する際に、集中、蓄積及び相関の影響を考慮している。結果として生じる分散化は、全ての潜在的な最悪のケースの損失が同時に実現する可能性があるというわけではないという事実を反映している。私たちは、様々な事業セグメントや地域にまたがって様々な商品を提供する総合的な金融サービスプロバイダーであるため、分散化は当社のビジネスモデルにとって重要である。
分散化は通常、相互依存的ではない、又は部分的にのみ相互依存する複合リスクを見るときに発生する。重要な分散化要因には、地域(例えば、オーストラリアの暴風雨とドイツの暴風雨)、リスクカテゴリ(市場リスクと引受リスク等)及び同じリスクカテゴリ内のサブカテゴリ(商業用又は個人用等の損害保険リスク)がある。最終的には、分散化は、問題の投資商品又は保険商品のそれぞれの特徴とそれぞれのリスクエクスポージャーによって左右される。例えば、オーストラリアの会社におけるオペレーショナルリスクの発生は、ドイツの会社が保有するフランス国債の信用スプレッドの変動とは全く無関係であると考えることができる。
可能であれば、過去10年以上にわたる四半期毎の観測を考慮して、過去のデータを統計的に分析して、市場リスクの各ペアについて相関パラメータを導出する。過去のデータやその他のポートフォリオ固有の観察結果が不十分又は利用できない場合、相関関係設定委員会が相関関係を設定する。この委員会は、リスクの専門知識とビジネス専門家を明確かつ統制されたプロセスで結合する。一般的に、専門家の判断を使用するときは、悪条件下でのリスクの共同の動きを表すために相関パラメータを設定する。これらの相関関係に基づいて、適用されたモンテカルロシミュレーション内で定量化可能なリスクの発生源の依存構造を決定するために、業界標準の手法であるガウスコピュラを使用する。
リスクカテゴリ間の分散を表すグループ全体の分散効果は、(上の表に示すように)17,230,231ユーロになる。
(2019年07月16日「保険・年金フォーカス」)
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