- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 日本経済 >
- 注目集める現代貨幣理論(MMT)ー日本は炭鉱のカナリアか?
1―注目集めるMMT
MMTの提唱者が主張する財政赤字拡大政策を、国債などを日銀が購入して通貨供給量を増やすことでデフレから脱却するという政策と、同類の主張であると思っている人もいるようだ。しかし、MMTは通貨供給の増加でインフレになるという貨幣数量説の主張を否定している一方、黒田日銀総裁や原田審議委員は政府債務の増加を懸念しないMMTには否定的だ。
2―対立点はどこにあるのか
MMTは、財政破綻することはないという主張の部分だけが取り上げられて議論されるので、他の経済学の理論との対立が際立って見える。しかし、少なくとも日本ではほとんどの経済学者は財政赤字が絶対的な悪とは考えておらず、必要があれば財政赤字を活用して経済を安定化させるべきだ、という考え方の方が主流派だ。
筆者にはMMTは全く新しい理論というわけではないように見え、民間の貯蓄余剰を放置して財政赤字だけを削減しようとしても成功しないという点など、賛同する部分も少なくない。財政赤字をもっと拡大すべきかどうかという対立の大きな原因は、経済の現状評価と政府債務が問題を引き起こすようになった時に対処できるかどうかという考え方の差に由来するところが大きいように見える。
3―炭鉱のカナリア
政府債務が増えても大丈夫である実例としてMMTの提唱者たちが指摘しているのは、日本では高インフレになっておらず、財政破綻もしていないということだ。日本よりも政府債務残高の名目GDP比が低い国の人達には、もっと政府の財務状況が悪くても問題がおきていない国があるというのは安心材料だろう。しかし、炭鉱のカナリア扱いされている日本の住民にとっては、大した気休めにはならないのではないか。
MMTの信奉者は批判に対して、平時の先進国でインフレがコントロールできない事態は想定しがたいと反論する。しかし、誰の負担もなしに問題が解決できるという話はあまりに魅力的過ぎて、財政赤字がMMTの提唱者の考えをはるかに超えて乱用される恐れが大きいのではないかと考える。上智大の竹田陽介教授は「政府の貨幣発行特権に基づく貨幣鋳造益の乱用こそ、インフレの歴史である」と述べている*。
病気の治療方針について医師によって意見が違って、色々調べて治療法の優劣が判断できなくても、最後は自己判断で決めなくてはならない。我々が置かれているのはこんな状況だ。筆者は、保守的でジリ貧に陥ると批判されるだろうが、大きな冒険をする以外に打開策はないという状況ではないと考えている。
*竹田陽介,「民主主義の赤字としての中央銀行を誰が掌(つかさど)るべきか」、ニッセイ基礎研レター2018年03月15日
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
(2019年07月05日「基礎研マンスリー」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月24日
中国経済の現状と注目点-24年1~3月期は好調な出だしとなるも、勢いが持続するかは疑問 -
2024年04月24日
人手不足とインフレ・賃上げを考える -
2024年04月24日
米国でのiPhone競争法訴訟-司法省等が違法な独占確保につき訴え -
2024年04月23日
他国との再保険の監督に関する留意事項の検討(欧州)-EIOPAの声明 -
2024年04月23日
気候変動-温暖化の情報提示-気候変動問題の科学の専門家は“ドラマが少ない方向に誤る?”
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【注目集める現代貨幣理論(MMT)ー日本は炭鉱のカナリアか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
注目集める現代貨幣理論(MMT)ー日本は炭鉱のカナリアか?のレポート Topへ