2019年07月01日

欧州保険会社が2018年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-

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3|使用言語
グループSFCRで使用される言語については、委任規則(EU) 2015/35の第360条に規定されている。

これによると、その第1項で「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、グループSFCRをグループ監督当局が定めた言語で開示するものとする。」と規定されている。ただし、第2項において「監督カレッジが複数の加盟国の監督当局から構成されている場合、グループの監督当局は、関連する監督当局及び当該グループと協議した後、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社に対して、監督カレッジでの合意により、第1項に言及された報告書を、関係する他の監督当局によって最も一般的に理解される別の言語で開示することを要求できる。」としている。さらに、第3項において、「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社の保険及び再保険子会社のいずれかが、その公用語が第1項及び第2項の適用によってSFCRを開示している言語と異なっている加盟国に本店を有する場合、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、当該報告書の要約を当該加盟国の公用語に翻訳しなければならない。」と規定されている。

この規定に基づいて、例えば、欧州大手保険グループ6社は、そのグループSFCRについて、自国語に加えて、英語版も作成している。さらに、AXA、Allianz、Generali等は、グループSFCRの要約について、保険子会社が存在する加盟国の公用語に翻訳したバージョンを公表している。なお、6社以外の会社でも、英語版を平行して作成したり、当初は自国語版のみを公表して、後ほど英語版をWebサイトで公表している会社もある。

一方で、単体のSFCRについては、基本的には当該単体の管轄地域の言語だけの対応となっている。ただし、欧州大手保険グループ6社については、一部の主要単体会社や主要国でない場合等についても、英語で作成しているケースもある。

例えば、AllianzはWebサイトで、グループの構成会社のうちの13の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2社(Allianz Insurance plc(英国)とEuler Herms(ベルギー))のみが英語版となっている。英語圏以外では、ベルギーの子会社が自国以外の言語の英語で作成していることになり、その他は子会社の監督当局の本拠地の国の言語のみで作成されている。従って、主要な単体保険会社であるAllianz SEについてもドイツ語版のみとなっている。また、要約版については、英語・ドイツ語圏以外で、子会社が本店を置く全てのEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、それぞれ1ページ程度の内容である。

GeneraliはWebサイトで19の単体のSFCRを公表している。2016年においては、Ceská pojištovna A.S.(チェコ)が英語で作成されていたが、2017年以降は当該会社を含めて、管轄地域の言語でのみ作成されている。ただし、Generaliは、単体の親会社のAssicurazioni Generali S.p.A.について、イタリア語版だけでなく、英語版も作成している。また、要約版については、子会社が本店を置く全てのEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、Allianzとは異なり、それぞれ6ページ程度の紙面を費やしている。

AXAの場合、要約版について、英語・フランス語圏以外で、子会社が本店を置く全てのEU加盟8カ国の公用語で作成しているが、それぞれ1ページの内容である。

グループ会社において、その構成会社である全ての単体のSFCRが当該単体の管轄地域の言語で作成されているというわけでもないが、当該市場において一定の市場シェアを有する会社の場合には、当該監督当局から、当該国の言語で作成することを要請されることになっており、こうした傾向が反映されている。
4|QRTsの取扱
ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(年次QRTs)の報告については、SFCRの附属資料としている会社と別途資料としている会社がある。

年次QRTsは、SFCRに提示された情報を補完し、2―2|で述べたように、国別や事業別の貸借対照表項目、保険料、保険金請求及び事業費、技術的準備金、自己資本及びソルベンシー資本要件の金額、長期保証措置と移行措置の適用による影響等を明らかにしている表で構成されている。
5|独立監査人による監査報告書
SFCRについては、監査を強制されているわけではない。ただし、EIOPAは監査を推奨し、いくつかの国の監督当局は監査の必要性を強く主張している。

こうした状況下で、今回のSFCRでの欧州大手保険グループ6社の対応は分かれている。具体的には、AXA、Generali、Prudential、Aviva については、独立監査人による監査報告書がSFCRの附属資料として添付されているが、AllianzとAegonのSFCRには添付されておらず、AegonはSFCRの内容については、監査対象外である旨の記載を行っている。これはこれまでと同じ状況である。

独立監査人による監査を、品質管理の一環として利用するとのスタンスを有している会社もあれば、重要かつ堅実な社内レビューを通じてチェックを行っているとのスタンスの会社もある。

監査を行う場合、監査が困難又は不可能な技術的な手法等の使用が制約を受けるとともに、説明のために内部情報の開示の必要性が高まることになる。
6|その他
SFCRは、その趣旨からして、できる限り保険契約者や投資家等が理解できるものを提供していくことが求められている。こうした観点から、多くの会社が、用語集を付け加えて、複雑な専門用語の説明を行っている。さらには、テキストや図表を積極的に使用して、読者にわかりやすいものを目指している会社もある。ただし、補足的な情報や解説については、限定的で、基本的な要件だけを満たしている会社が多い。

なお、AXAはKey Highlightsという名称のポイントをまとめた資料を別途作成している。
 

4―2017年のSFCRに対する評価等

4―2017年のSFCRに対する評価等

ソルベンシーII制度の下で2016年に初めて作成・公表されたSFCRについては、関係者から各種の反応が見られたが、2017年のSFCRについても、公表以降各種の評価等が行われて、2018年以降のSFCRの見直しに向けての期待の表明等の動きが見られた。こうした動きの一部については、昨年度の保険年金フォーカス「欧州保険会社が2017年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-」(2018.7.10)でも報告した。この章では、昨年の7月以降の2017年のSFCRに対する評価等の反応の状況について報告する。
1|2017年のSFCRの正確性の質等についての評価
SFCRについては、多くの会社において、かなりの間違いが発見されており、その正確性の確保という面での質が問題となった。このことは、保険会社にとって、SFCRの作成が重大な負担になっていることを示していると共に、SFCRの位置付けがAnnual Reportと同程度の重要なパブリック・ディスクロージャー資料であるとの認識が十分ではないのではないか、との指摘も行われている。
2|PRAの評価と要請
英国のPRA(健全性規制機構)の保険監督の責任者であるDavid Rule氏は、2018年9月26日にロンドンで開催された「Bank of America Merrill Lynch 23rd Annual Financials CEO Conference」において行った「A ‘D to Z’ of current issues in Insurance Supervision」とのスピーチ2において、「資本管理、市場リスクの感応度および開示」というテーマの中で、投資家とアナリストがより良い一貫した開示を求めている重要な項目分野として、「市場リスクの感応度」と「ソルベンシーII P&L」を挙げていた。

「市場リスクの感応度」については、個々の会社毎にいくつかのケースで公表が行われているが、パターンは会社間で一貫しておらず、投資家やアナリストからは感応度の一貫したセットが開示要求リストの最上位項目近くにあったことから、「保険会社や業界団体が、この分野の業界標準に向けて働くことを願っている」と述べていた。

また、1つの報告日から別の報告日における保険会社のSCR比率の変化の要因を示す「ソルベンシーII P&L」については、「保険会社がソルベンシーII資本をどのように生み出すのかを理解するために、PRAによって使用される、ある報告日から次の報告日までのソルベンシー資本要件(SCR)に対する保険会社の資本剰余金の変更の包括的な内訳」を示す具体的な資料を、付録として提示していた。David Rule氏は、これにより「SFCRが資本創出を開示するのに適した文書になるだろう。」と述べていた。

アナリスト等は、こうした意見を歓迎し、2018年のSFCRへの反映を期待していた。

ところが、2018年のSFCRについて、例えば後者の提案に対応した会社は殆どなかったようである。定期的に監督当局のために作成されている資本創出に関する情報ではあるが、公開資料への提供には殆どの会社が消極的であったことになる。
3|アナリスト等の評価
結局のところ、SFCRは、興味深い情報を多数提供してはいるものの、投資家が本当に必要としている情報に関する詳細は開示されていないことから、現在のSFCRの価値は限られている、との評価のようである。

ソルベンシーIIの導入後、多くの生命保険会社がEV(Embedded Value)指標の報告を中止しているため、SFCRに保険会社が資本を生み出す方法に関する実質的な情報を含めることが期待されているが、会社を評価する上で不可欠なこの詳細を報告している会社は殆どないのが現状である、と評価されている。
4|BaFinの評価
ドイツの保険監督当局であるBaFinは、2017年のSFCRに対する評価について、2018年9月17日に声明「SFCRの質の改善が進展」を公表3して、「現在の報告の質に関するランダムな調査により、より多くの開示経験がSFCRの質に良い影響を与えるというBaFinの期待が確認された」と述べた。

いくつかの会社の報告は、品質の点でも大幅に改善されているが、全体として、2回目の開示でも、要求される品質レベルはまだ満たされていないとして、さらなる最適化を期待している、とした。

また、殆ど全ての会社が必要な情報を素人に分かりやすくするために合理的な努力をしてきたとして、平均的な保険契約者の理解度の向上に貢献するものになっているとした。

詳細度に関して、保険会社は、SFCRのガバナンスの章で会社特有の声明を使用し、一般的な声明に対する批判に対応して、「ある程度の進歩」を見せたが、「欠点は依然として残っている」とした。さらに、一部の保険会社は、SFCRのナラティヴにあるべき情報を、付録の定量的な報告書テンプレートの数字を指し示すだけで置き換えている、とした。

BaFinは、さらに、情報が特に必要とされない場合でも、「SFCR利用者の判断や決定に影響を与える場合は、開示する必要があるが、このような追加情報を開示することにおける会社の消極的な姿勢に殆ど変化はなかった」とした。
5|GDV(ドイツ保険協会)の評価
ドイツの保険業界団体であるGDV(ドイツ保険協会)は、2019年2月に「ソルベンシーII:透明性を高めるためのデータが少ない」との報告書4を公表して、ソルベンシーIIに関するパブリック・ディスクロージャー資料の抜本的な見直しを求めている。

この報告書によれば、「SFCRは、企業の財政状態を一般の人々に対して透明にすることを目的としている。しかし、多額の費用をかけて作成された報告書は、殆ど読まれていない。ソルベンシーIIの透明性の目的を達成するためには、SFCRの抜本的な見直しが急務である。」と述べている。

GDVの調査によれば、SFCRは公表後の4ヶ月間で、1社あたりの平均でわずか33回(生命保険会社では46回、損害保険会社は27回)しかダウンロードされていない5。さらに、会社毎の差異も大きく、一部の会社のSFCRは比較的読みやすく、それなりにヒット数があるが、他の保険会社のSFCRは全くヒットされていない。

因みに、GDVの調査に参加した中小規模の損害保険会社について、そのSFCRの作成には160人日の労働力が必要だったが、公表後の6ヶ月間のダウンロード数はわずか70だった、と紹介されている。

SFCRに要求される非常に詳細な内容は、専門家でさえも圧倒する大量のデータを提供しており、保険会社にとって透明性を高めることをより困難にしている、と述べている。従って、不要な情報を排除することで、SFCRは読みやすくなり、透明性が高まると述べている。

さらに、GDVは、株式アナリスト、保険会社、規制当局及び一般市民を1つの文書だけで満足させることは「達成するのが難しい両天秤策」であると主張している。報告書は、SFCRを利用者により適したものとするために、「保険契約者向けの短い分かりやすい報告書と、主として専門家向けの補足データセクションに分割する」ことを提案している。また、定量的報告テンプレート(QRT)における範囲とデータの頻度の削減を提唱し、報告要件は会社のリスクプロファイルと一致させる必要がある、と提案している。
 
4 https://www.gdv.de/de/themen/news/solvenzberichte--weniger-daten-fuer-mehr-transparenz-43630
5 これに対して、Annual Report(年次報告書)のダウンロードは、平均236回で、約7倍の差があるとしている。
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中村 亮一

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