2019年06月07日

平成の労働市場を振り返る-働き方はどのように変わったのか-

基礎研REPORT(冊子版)6月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―就業者増の主役は女性、高齢者

平成30年間(1989年~2018年)の労働市場を振り返ると、就業者数は30年間で653万人増加した。男女別にみると、男性の115万人増に対して、女性が538万人増と女性の増加幅が圧倒的に大きい。年齢別には、男性は59歳以下が313万人の減少となっているのに対し、60歳以上では428万人の増加、女性は59歳以下が222万人の増加、60歳以上が316万人の増加となっている[図表1]。
平成30年間の就業者
平成30年間で就業者全体に占める女性の割合は40.1%から44.2%へ、60歳以上の割合は10.7%から20.8%へと上昇した。
 
総務省統計局「労働力調査」の参考表(2002年~2018年)を用いて、各歳別の就業率を確認すると、男性は60歳以上の就業率が大幅に上昇していることが分かる。2002年から2018年の16年間で60歳以上の就業率は概ね10%ポイント上昇している[図表2]。
就業率
かつては、60歳定年制を採用している企業が多いこともあり、59歳から60歳にかけて就業率が大きく低下するという特徴があった。しかし、厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げ、企業に65歳までの雇用確保措置を講じることを義務付けた「高年齢者雇用安定法」が施行されたことから、60歳以上の就業率が大きく上昇し、59歳から60歳にかけての就業率の低下は緩やかとなった。一方、女性は幅広い年齢層で就業率が大きく上昇しているが、20歳代後半から30歳代半ば、60歳以上の上昇幅が特に大きい[図表3]
就業率
 日本の女性の労働力率は結婚、出産期に当たる年代にいったん低下し、育児が落ち着いた後に再び上昇するという、いわゆる「M字カーブ」を描くことが知られてきたが、近年はM字カーブの底が浅くなってきている。
 
M字カーブが解消に向かっている理由のひとつは、もともと労働力率が高い未婚女性の割合が上昇していることだが、近年は有配偶の労働力率が大きく上昇し、女性の労働力率を押し上げている[図表4]。
労働力率

2―雇用の非正規化による労働市場への影響

1|雇用の非正規化が続く
 
平成30年間で雇用者数*(役員を除く)は1464万人増加したが、その9割以上がパート・アルバイト、契約社員、派遣社員などの非正規雇用の増加によるものである。非正規雇用が1364万人増加したのに対して、正規雇用の増加は99万人にすぎない。
 
2000年頃までは女性が非正規雇用の中心だったが、1990年代後半以降は経済の長期停滞、グローバル化を背景に企業の人件費抑制姿勢が高まったこともあり、男性の非正規雇用が急増した。平成が始まる頃には20%以下だった非正規雇用比率はほぼ一貫して上昇を続け、2018年には37.9%と過去最高水準を更新した[図表5]。
非正規雇用
2|非正規化による労働時間への影響
 
日本の労働時間は国際的に長いことで知られているが、長期的には減少傾向が続いている。厚生労働省の「毎月勤労統計」によれば、労働者一人当たりの年間総労働時間は1970年代から80年代にかけて2000時間を大きく上回っていた。80年代末から90年代初めにかけて水準を大きく切り下げ、90年代前半に2000時間を割り込んだ後、90年代後半に1800時間台、2000年代後半以降は1700時間台となっている[図表6]。
 
ただし、就業形態別にみると、正社員を中心とする一般労働者の総労働時間は2000時間前後でほとんど変わっていない。一人当たりの労働時間が減少を続けているのは、労働者全体に占めるパートタイム労働者などの短時間労働者の割合が高まっていることに加え、パートタイム労働者の労働時間が減少しているためである。

3|非正規化による賃金への影響
 
相対的に賃金水準の低い非正規雇用の割合が高まることは、労働者一人当たりの平均賃金を押し下げる要因となる。「労働力調査(詳細集計)」の雇用形態別、年収階級別の雇用者数を基に雇用形態別の平均年収(2018年)を試算すると、正社員の472万円に対して、嘱託296万円、契約社員267万円、派遣社員200万円、パート・アルバイト120万円となった[図表7]。
雇用形態別収入
平成30年間の賃金動向を振り返ってみると、平成初期の1991年までは前年比で4%台の高い伸びとなっていたが、バブル崩壊とともに賃金上昇率は大きく低下し、1990年代後半からは上昇率がマイナスとなることが常態化するようになった。2014年以降は5年連続で上昇しているが、伸び率は低い。賃金上昇率を要因分解すると、ほとんどの年で非正規雇用比率の上昇が平均賃金を押し下げていることが分かる[図表8]。

3―潜在的な労働力の活用が重要

平成30年間の就業者数増加の主役は女性、高齢者、非正規雇用であったが、このような傾向は今後も続く可能性が高い。
 
生産年齢人口が1995年をピークに減少を続ける中でも、就業者数が増加したのは、就業を希望しているが様々な理由で求職活動を行わないために非労働力化していた者(以下、潜在労働力人口)の多くが労働市場に参入するようになったためである。
 
先行きについても、潜在的な労働力の掘り起こしによって人手不足のさらなる深刻化を回避することは可能だ。2018年の潜在労働力人口(331万人)は完全失業者(166万人)の2倍の水準となっている。男女別には、男性の93万人に対して、女性が237万人と女性が男性の2倍以上、年齢階級別には、女性は25~44歳が、男性は高齢層の潜在労働力人口が多い。
 
潜在労働力の希望している仕事を雇用形態別にみると、男女ともに非正規が正規を大きく上回っている。今後新たに労働市場に参入する者の多くが非正規となることが想定される。日本では、非正規労働者と正規労働者の待遇格差の大きさが指摘されることが多いが、同一労働同一賃金を徹底することの重要性はより高いものとなるだろう。
 
また、非正規労働者は相対的に労働時間が短い傾向があることに加え、政府が推進する働き方改革の影響もあり、労働時間の減少ペースは今後加速することが見込まれる。こうした中で日本経済全体の付加価値を高めるためには、一人当たりの生産性を向上させることがこれまで以上に重要となることは言うまでもない。
 
*雇用者=就業者ー(自営業主+家族従業者)

 
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2019年06月07日「基礎研マンスリー」)

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