- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- アジア経済 >
- ブラジルの1-3月期GDPは前期比0.2%減~内需の減速が明確に~
2019年05月31日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
5月30日、ブラジル地理統計院(IBGE)は、2019年1-3月期のGDP統計を公表した。2019年1月にボルソナロ政権が発足して最初の四半期GDPの公表となったが、1-3月期の実質GDP成長率は前期比0.2%減(季節調整済系列)と、9四半期ぶりのマイナス成長に陥った。
四半期GDPの概況
需要項目別に見ると、内需・外需ともにマイナス成長となった。特に、内需は前期に続いて民間消費が減速し、総固定資本形成もマイナス成長となるなど、減速が明確となった。

政府消費は、同0.4%増と前期(同0.3%減)からプラスに転じた。
総固定資本形成は、同1.7%減と前期(同2.4%減)に続いて2四半期連続のマイナス成長となった。
外需は、輸入の伸びが同0.5%増と、内需の低迷を反映し、前期(同6.1%減)に続いて鈍かった。一方で輸出の伸びが同1.9%減と前期(同3.7%増)からマイナスに転じた結果、純輸出の成長率寄与度は▲0.4%ポイントと前期(+1.4%ポイント)から大きく成長率を押し下げた。通関ベースでは、2018年の輸出総額を大きく押上げていた中国向けの大豆や鉄鉱石の輸出が、1-3月にはアフリカ豚コレラ発生に伴う大豆の需要減やヴァ-レ社の鉄鉱石減産の影響によって落ち込んだ。
供給項目別に見ると、GDPの約6割を占める第三次産業は辛うじて前期比プラス成長となったが、第一次産業と第二次産業はマイナス成長となった。特に、第二次産業は鉄鉱石世界最大手のヴァ-レ社が、1月の鉱山ダム事故によって一部操業停止に追い込まれ、鉄鉱石生産が落ち込んだことが影響した。
先行きのポイント
ブラジル経済の先行きは、内需を中心に今後も軟調に推移すると予想する。外需については、引き続き輸入の減少が成長率を押上げることも考えられるが、輸出は豚コレラや鉄鉱石減産などの問題について収束の目処が立っていない他、中国経済の減速懸念もあり、弱含むと予想される。内需については、足元でも改善の兆しが見られないため、低迷が続くと予想する。また、国内外の最大の注目点である年金改革の実現については2019年中に法案が成立することが見込まれるが、ただちに景気を押上げるとは考えづらく、2019年の成長率は、前年比1.1%に留まった2017年・2018年同様、1%台前半と予想する。

また、足元でも為替(対米ドル)は5月に一時4.0レアルを割り込むなどレアル安に歯止めがかかっておらず、4月のインフレ率は4.9%まで上昇した。外需についても、輸出が2月から4月まで前年比マイナスが続くなど、改善の兆しは見られない。これらの状況を受けて政府やブラジル中央銀行は、2019年度の成長率見通しを下方修正している。先行きの見通しが明るくない中で、財政出動や金融緩和が期待されるが、政府の財政状況が悪く、レアル安によるインフレ率も進行しているため、年金制度改革が実現しない限り、いずれの政策も実行は難しいだろう。
年金制度改革については、政府は2月中旬に下院へ提出した年金改革法案によって、今後10年間で約1兆レアル(約30兆円)超の財政改善効果を見込んでいるが1、法案通りの改革を実現するのは議会運営上難しいだろう。年金改革には憲法の改正が必要で、下院・上院それぞれ2回ずつの審議において60%以上の賛成が必要となる。上院(81議席)、下院(513議席)それぞれで49、308の賛成が必要とされる中で、与党PSL(社会自由党)の議席はそれぞれ4議席、54議席に過ぎない。少数政党が乱立するブラジルでは、歴代政権が議会工作2によって議会運営を行ってきたが、既存政治を否定するボルソナロ大統領は十分な議会工作を行ってこなかったため、法案成立に必要な賛成票確保の目処は未だ立っていない。今後、政府は法案の修正によって「条件付協力政党」を取り込むことが予想され、2019年中の法案成立が見込まれる。焦点となるのは、法案が成立するか否かではなく、修正した上でどれだけ財政改善効果を残せるかである。
年金法案が成立した場合、レアルが持ち直すと予想されるため、利下げの可能性が高まるだろう。また、インフレ率も落ち着くと予想されるため、民間消費にはプラスに働くであろう。一方で、消費者にとっては年金受給額の減少は可処分所得の減少となるため、民間消費に悪影響を与える可能性も否定できない。仮に、年金法案が成立したとしてもただちに景気を押上げるとは考えづらく、2019年は低成長が続くだろう。
1 4月には、2月に提出した法案より踏み込んだ内容に修正し、見込まれる財政改善効果は拡大している。
2 閣僚ポストを与える代わりに、協力を求めること。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年05月31日「経済・金融フラッシュ」)
このレポートの関連カテゴリ
神戸 雄堂
神戸 雄堂のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2020/02/12 | 豪州経済の重石となる気候変動問題~注目されるエネルギー政策の行方~ | 神戸 雄堂 | 基礎研レター |
2019/12/05 | 豪州の7-9月期GDPは前期比0. 4%増~公共部門が下支えも民間部門は不振が続く~ | 神戸 雄堂 | 経済・金融フラッシュ |
2019/11/01 | 公共土木施設の被害額から見る自然災害の趨勢 | 神戸 雄堂 | 基礎研レター |
2019/10/16 | ロシア経済の見通し-停滞が続く経済。20年は内需の回復で加速も、緩慢な成長に留まるか。 | 神戸 雄堂 | 基礎研レター |
新着記事
-
2025年03月19日
日銀短観(3月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント低下の12と予想、トランプ関税の影響度に注目 -
2025年03月19日
孤独・孤立対策の推進で必要な手立ては?-自治体は既存の資源や仕組みの活用を、多様な場づくりに向けて民間の役割も重要に -
2025年03月19日
マンションと大規模修繕(6)-中古マンション購入時には修繕・管理情報の確認・理解が大切に -
2025年03月19日
貿易統計25年2月-関税引き上げ前の駆け込みもあり、貿易収支(季節調整値)が黒字に -
2025年03月19日
米住宅着工・許可件数(25年2月)-着工件数(前月比)は悪天候から回復し、前月から大幅増加、市場予想も上回る
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【ブラジルの1-3月期GDPは前期比0.2%減~内需の減速が明確に~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ブラジルの1-3月期GDPは前期比0.2%減~内需の減速が明確に~のレポート Topへ