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EIOPAの監督活動実績と計画-欧州における、保険・年金監督の2018活動報告書の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――EIOPAの監督活動に関する報告書とは
これは、EIOPAに課せられた、監督活動の実態などを毎年報告する義務(ソルベンシーII指令第259条)に対応したものである。過去には、2017年11月に「共通の監督を行う文化~高度で効果的な監督のための主要事項」2、2018年4月に「2018~2019監督統一計画」3といった名称の報告書が公表されており、それらに続くものである。
1 Report on Supervisory Activities in 2018
https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/EIOPA_2018_SupervisoryActivities_April2019.pdf
2 A Common Supervisory Culture (EIOPA 2017.11))
3 Supervisory convergence plan 2018-2019 (EIOPA 2018.4)
2――報告書の内容~2018年実績、2019年方針
2018年実績などを見る前に、上記「2018~2019の監督統一計画」につき、項目だけ見ておく。当然のことながら、2018年まで、あるいは今後2019年もこの計画を踏まえた監督活動が実施されるからである。
(2018~2019監督計画の主要項目)
1.共通の監督を実施する文化の醸成と監督ツールの更なる開発
a.リスク評価の枠組みとプロポーショナリティ
b.内部モデルを管理する共通のベンチマーク
c.コンダクトリスクの監督上の評価
d.グループ監督
2.監督上の裁定4につながる国内市場や公平な競争環境に対するリスク
a.保険契約準備金の計算
b.国境をまたぐ(クロスボーダー)事業
c.内部モデル使用の評価の違い
d.実務的な認可基準や手続きの違い
e.欧-米間の整合的なカバードアグリーメント(再保険協定)
3.エマージングリスクへの対応
a.サイバーリスク、ICT関連リスクの監視
b.インシュアテック
c.ブレグジットへの対応
4 地域による監督方針の違いを利用して、規制のより緩い地域で事業を行う傾向(弊害)という語感と思われる。
2018年の監督活動については、以下の通り報告されている(カッコ内は上記計画への対応箇所)。
・リスク評価の枠組みとプロポーショナリティの適用(1-a)
各国の監督者のセミナーの開催などにより、監督ツールの開発や共有化を図ってきた。プロポーショナリティに留意しながら継続的にこうした「監督テクノロジー」を開発していく。
・内部モデルの監視のための共通のベンチマーク(1-b)
内部モデルの適切な指標を開発し、標準的な方法との違いを監視してきた。ゆくゆくは、これがソルベンシー資本要件の改善につながることを意図している。
・コンダクトリスクの監督上の評価(1-c)
消費者保護のため、保険・年金商品の加入から満了までに起こりうるコンダクトリスクを、
共通の基準で評価できるような検討を行ってきた。
・クロスボーダー事業(2-b)
保険契約準備金(特に10年以上の長期の損害保険や医療過誤保険に焦点が当てられている。)については全ての保険会社が適切かつ保守的な算出を行っているとは限らない。そのまま放置すれば保険料や準備金不足により契約者に損失を被るおそれもある。こうしたことを防止するための適切な法的規制を検討し、統一した監督手法を確立するよう検討中。
・内部モデルの研究(2-c)
2018年には、損害保険引受リスクの研究と市場・信用リスクの研究を行った。
・EUと米国のカバードアグリーメントの整合的な整備(2-e)
各国監督者との協力により、再保険協定の実態を調査し、必要であれば協約の改定あるいは各国の法律の改定などを検討した。
・データおよびICT関連リスクの監視(3-a)
サイバーセキュリティに関するガバナンスとともに、サイバー攻撃を受けた場合の回復力テストなどの研究や検討が、銀行や証券の監督局とも協力して進められている。
・インシュアテック(3-b)
特にビッグデータの、販売、保険引受け、価格設定、マーケティング、支払管理などの各領域における利用と分析などに関し調査し、ESAs(欧州の銀行、証券、保険の3つの監督局)の報告書作成にも協力した。
・ブレグジット(3-c)
ブレグジットに対しては、2018年に2つの監督意見を公表した。ひとつはブレグジットの影響についての顧客への情報開示についての意見であり、もう一つは、英国との再保険事業に関する事業内容の変更や、その後の支払能力の確保についてである。
2019年についても、2018-2019計画が引き続き進められることになっている。優先事項としては「2018~2019計画」の3つの柱がそのまま継承されるが、それぞれについて今回、以下のような新たな小項目(上記a、b、c、・・・なる小項目に相当)が追加されている。
1の監督の統一とそのツールの開発の中では、
・キャプティブ5の種類やリスクの種類を調査し、監督方法を確立すること
・各国統一した監督を効率的に行なうために、保険会社等への共通質問を決めて情報を収集し、各国監督者間で共有すること
2の監督の裁定が行われるリスクを防止する策としては
・リスクの軽減手法や、ソルベンシー資本要件を緩和するための金融工学的な仕組みの取扱の分析
3のエマージングリスクの監督では
・ランオフ契約6の評価、具体的にはそのビジネスモデル、ガバナンス、アウトソーシングなどとそれぞれの抱えるリスクを評価し、各国が行っている監督手法を統一すること
・金融商品の評価に際し、使用金利をIBOR(銀行間調達金利)からリスクフリーレートへ移行する問題7に関して、リスクフリーレートや流動性リスク、信用リスクなどの諸問題を、様々な視点からあらためて評価することで、保険会社等に対する移行の影響を評価すること
また報告書本文中では読み取れないようだが、EIOPAのニュースリリースをみると、以前より検討が進められている職域年金基金の監督手法の統一(年金版ソルベンシーIIとでもいうべきもの)の促進も含まれている8。
5 自社グループ内のリスクを引き受ける、再保険子会社といったような仕組み
6 ランオフ契約とは、(1)保険期間終了後も支払責任が残存している契約(裁判を伴う賠償責任保険などに多い)を指す場合、あるいは(2)新規契約獲得がなく既存契約のみとなった保険契約群団をさす場合があるが、ここでは特にどちらという限定はないようだ。
7 このテーマだけで、相当詳しく説明する必要があると思うが、今回は省略。
8 NEWS EIOPA reports about its 2018 supervisory activities and sets out the 2019 priorities (2019.4.26 EIOPA)
3――おわりに~ECAによる評価など
内部要因としては、これまで紹介したような監督ツールの開発が発展途上であること、また外部要因としては、ブレグジットへの対応、インシュアテックの発展、サイバーリスクへの新しい対応など状況の変動もあることから、こうした評価となることは自然なことで、保険・年金監督の進展が比較的順調であることを示すものと思われる。
保険年金分野の動向を、主に監督といった視点から見ていくのに、こうしたEIOPAの報告書等は有効であろう。
(2019年05月28日「保険・年金フォーカス」)
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- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
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