2019年04月25日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2018年決算数値等に基づく現状分析-

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2-2.営業利益の状況
次に、保険事業の営業利益の地域別内訳を見てみる。地域別の利益配分等にも各社の考え方が反映されているが、各国における子会社毎や各社間の収益状況の差異等も一定程度比較できるものと考えられる。なお、一般的には、国際部門や再保険関係の損益が「その他」地域に含まれていることから、グループによっては「その他」の構成比が、特に損保事業を中心に大きくなっており、その数値も比較的大きく変動している。

また、地域別の営業利益の分布の数値を得るために、Prudentialの営業利益については、2ページの図表とは異なるベースの数値を使用している。

(1)2018年の結果
営業利益ベースでも、各社の地域別の構成比の状況は、保険料と基本的には変わらないが、地域別の収益状況や各地域での深耕度等を反映して、若干異なる傾向となっている。
欧州大手保険グループの保険事業の営業利益等の地域別内訳(2018年)
各社別の概要は、以下の通りである。

AXAの生保は、アジア・太平洋の構成比が21%と高くなっており、米州の26%と合わせた2つの地域で47%となっている。

Allianzの生保は、米国が22%と高くなっているが、アジア・太平洋は構成比を高めてきてはいるものの、依然7%程度にとどまっている。

Generaliの生保は、イタリアが42%、イタリア以外の欧州が54%と、それぞれ保険料の構成比よりも若干高くなっており、営業利益ではより欧州に依存した形になっている。

Prudentialは、アジアの構成比が39%となり、2015年の30%、2016年の35%、2017年の39%に比べて、さらに高くなってきている。

Avivaは、英国での営業利益が75%を占めており、殆どの営業利益は欧州からである。

Aegonは、オランダの構成比は29%で、米国及び中南米を含む米州の営業利益が57%と極めて高くなっている。

Zurichの生保は、アジア・太平洋の構成比が12%であることに加えて、中南米を中心とした米州が23%と高くなっている。

このように営業利益ベースでみると、例えば、米国事業を有する会社においては、そのグループ内での位置付けがさらに高いものとなっている傾向がみてとれる。

アジア・太平洋については、Prudentialにおいて、39%の構成比で圧倒的に高い位置付けを有しているが、AXAも21%の構成比と高くなっており、Zurichの構成比も12%となっている。これらの会社に比べて、AllianzやGenerali、さらにはAvivaやAegonについては、一定の保険料水準を計上し、その会社全体における位置付けを高めてきてはいるものの、そのグループ全体における営業利益の構成比はいまだ一桁台に留まっている。

(2)2017年との比較
2017年との比較では、生保については、AXAとZurichが二桁台の進展となっているが、他の会社はほぼ横ばいないしは若干の増加となっている。ただし、地域別の状況は様々である。例えば、アジア・太平洋ではAXA以外が生保において二桁進展を果たしている。なお、前年との比較を見る上においても、保険料の項目で述べたように、為替レートの影響を考慮する必要がある。
欧州大手保険グループの保険事業の営業利益等の地域別内訳(2017年から2018年に向けての増加額と進展率)

3―欧州大手保険グループ各社の地域別の事業展開状況

3―欧州大手保険グループ各社の地域別の事業展開状況

ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、保険料、営業利益に加えて、資産、EV(Embedded Value)7及び新契約価値等の状況を地域別に報告する。

さらに、各社の地域別の事業展開に関係するトピックについても報告する。
 
7 欧州大手保険グループは、これまでEEV(ヨーロピアンEV)とMCEV(市場整合的EV)のいずれかに基づくEV(Embedded Value:エンベデッド・バリュー)を地域別や各国別に公表してきていたが、2017年以降は公表しない会社やグループ全体又は地域別の数値のみの公表に留めた会社もある等EVの開示の見直しを行っている。
1|AXA
(1)地域別の業績-2018年の結果-
AXAは、世界の60カ国以上で保険事業と資産管理事業を展開している。

AXAの生命保険事業の営業利益は、1) 自国のフランス、2) 自国以外の欧州、3) 米国、4) 日本を含むアジア、の4地域でそれぞれ重要な水準を確保してきている。
保険事業の地域別内訳(2018年)/うち 欧州の主要国別内訳
Annual Reportによれば、その生命保険事業(生命・貯蓄・医療)に関して、収入保険料や新契約保険料等の規模で、自国のフランスでのシェアは8.9%で第3位であるものの、最大の米国市場では、AXAの子会社グループは、生命保険では1.6%のシェアで第19位、変額年金では10.5%のシェアで第3位となっている。また、2018年末の認容資産では、生命保険・健康保険グループで第12位(2017年末は第14位)となっており、その営業利益のグループ全体における構成比は26%となっている。

生命保険の市場シェア及びボジションについては、さらに以下の通りとなっており、欧州やアジアの国々で高いプレゼンスを確保している。

・スイス    : 26.0%のシェアで第2位
・ベルギー   : 8.0%のシェアで第5位
・インドネシア : 7.7%のシェアで第2位
・フィリッピン : 13.7%のシェアで第3位
・タイ     : 10.9%のシェアで第4位
・ドイツ    :2017年ベースで、生命保険が3.7%のシェアで第8位、医療保険は7.8%のシェアで第4位

AXAは、2016年までは、生保と損保別に保険料等の詳細なデータを開示していたが、2017年以降は、一部の数値について、生保(生命・貯蓄・医療)と損保の区分をすることなく、国別の数値等の公表を行っている。

新契約価値ベースでみると、日本を含むアジアが36%の構成比となっている。日本でのシェア(かんぽ生命除きベース)は、生命保険は2.8%で第15位、医療保険では2.3%で第14位としており、その市場の規模から、AXAグループ全体の営業利益(生命・貯蓄・医療)の中で13%と高い位置付けを有している。

なお、かつては国別に開示されていたEEVの値も2017年以降は地域別のみの開示となっている。

(2)地域別の業績-2017年との比較-
2017年との比較では、営業利益(生命・貯蓄・医療)ベースでは、欧州では10%進展、米国では67%進展となったが、アジアでは経費の増加等でマイナス進展となっている。ただし、基礎利益(生命・貯蓄・医療)ベースでは、米国の進展は5%となり、アジアもプラス進展になっている。また、2017年との比較では、AXA XLがその他に含まれていることによる影響も大きくなっている。

欧州において、保障と医療商品の販売好調等により、営業利益は増加した。アジアでも、香港や日本で保証と貯蓄商品の牽引が貢献したとしている。

なお、図表にはないが、純利益については、AXA Equitable Holdingsからの暖簾やSwiss Group Life の 事業に関連した無形資産に関連した減損、さらにAXA Equitable HoldingsのIPOやAXA XL Groupの買収に関連した各種経費や手数料、金融資産やデリバティブの公正価値変動の影響を受け66%減少した。
保険事業の地域別内訳(2017年から2018年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2017年から2018年に向けての増加額と進展率)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
AXAは、2018年に以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2018年2月21日 アゼルバイジャンにおける損害保険会社AXA MBask Insurance Company OJSCをMr. Elkhan Garibliに売却する契約を締結
・2018年2月 Maestro Healthの買収の完了
・2018年4月 AXAのスイスのグループ生命保険事業を変革
・2018年4月 米国のIPO前のIPO再編取引完了から、AXA S.Aによる32億ドルを受領
・2018年5月 AXA Equitable Holdings Inc.のIPOが正常に完了し、XL Groupの買収資金を確保
・2018年8月 欧州の変額年金のキャリアであるAXA Life Europeを独占的に処分
・2018年9月 XLグループの買収の完了及びナンバーワンのグローバル損害保険コマーシャルライン保険プラットフォームの創設
・2018年10月 ウクライナでのAXAの事業の売却
・2018年11月 AXA Equitable Holdings Inc.の発行済普通株式の売買完了及び関連する自社株買い
・2018年11月 AXA Tianpingの残りの50%の株式の取得

AXAは、収益の80%を占める10の市場に最も焦点を当てていくとしていた。

一方で、AXAは、中国、インドネシア、フィリピン、タイ、ブラジル、メキシコを「High Potentials(ハイ・ポテンシャル)」として位置付けており、インドネシアやタイでは既に高いプレゼンスを有しているが、他の国々でも高成長に伴うシェア拡大を目指しているとしていた。

なお、AXAは2018年3月に、XL Groupを153億ドルで買収し、年間保険料総額300億ユーロを有する世界的な損害保険会社を構築することを公表したが、この買収について、AXAのThomas Bubert CEOは、当時「L&S(生命及び貯蓄保険)事業中心から、P&C(損害保険)事業中心に、そのビジネスプロファイルを移行していく独特の戦略的機会である。」とし、「将来のAXAのプロファイルは、金融リスクから離れて、保険リスクに向かって大きくリバランスされていくことになる。」と述べていた。

 さらに、当時、「AXAの現在の収益は、33%が貯蓄及び資産管理、39%がP&C事業から来ているが、XLの買収及び米国の生命保険事業の売却により、その割合はそれぞれ18%及び50%になると想定されている。」と述べていた。

今回の決算発表においては、「10年前には、約2/3のビジネスが生命、貯蓄、退職であった。米国での生命保険活動を完全に売却することにより、損害保険、医療、保障がAXAのビジネスの80%を占めることになる。」と述べた。
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中村 亮一

研究・専門分野

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