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具体化しつつあるデジタル・プラットフォーマー規制

総合政策研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
中村 洋介
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1――着々と進む規制の議論
2――公正取引委員会によるアンケート調査結果
オンラインモールやアプリストアを利用する事業者へのアンケートでは、その運営者であるデジタル・プラットフォーマーへの不満が浮き彫りになった(図表1)。
例えば、オンラインモールに関しては、規約が一方的に変更されることや検索結果の順位等を決める基準が不透明であることについて不満が示されている。独占禁止法上で禁じられている圧倒的な地位を盾にした「優越的な地位の濫用」や、取引条件の不透明さが論点になりそうだ。また、米国勢と同様に、日本勢に対しても根強い不満があることも分かった。「GAFA規制」という言葉が強調されてきたが、この流れで行けば日本のデジタル・プラットフォーマーに対しても、政府や世の中の風当たりが厳しくなりそうだ。
2|デジタル・プラットフォーマーと消費者との関係
事業者だけでなく、消費者にも不満や懸念の声があることも示唆された(図表2)。
約3分の1が自身の個人情報や利用データに経済的な価値を持っていると思うと回答している。個人情報や利用データを勝手に利用することはやめてほしいという回答も多いが、サービスが便利になるのであれば積極的に活用してほしい、活用されても仕方がないという回答も多い。
そして、個人情報や利用データの収集、利用、管理等について、約75%が懸念ありと回答している。データ収集や情報管理等への懸念が示されている一方、懸念はあるもののサービス利用を止めるほどでもないという回答も多い。また、約15%は具体的に何らかの不利益を受けたと感じたことがあるとの回答だが、約67%は不利益を受けたと感じたことはないと答えている。
巨大プラットフォーマーが圧倒的な市場シェアを持ち、他の競合サービスという選択肢がない中で、自らのデータと引き換えに、サービスを利用せざるを得ない状況に消費者が追い込まれているのであれば問題だ、というのが公正取引委員会のスタンスだ。公正取引委員会は、この調査結果も踏まえつつ、対消費者に対する優越的地位の濫用の適用について、引き続き検討を進めていくとしている。今後、この調査結果がどのように評価されるのか、注目されるところだ。
3――規制の具体化に向けた動き
あわせて、消費者(利用者)のサービス乗り換えを容易にし、競争を促進するための「データポータビリティ(自由に個人のデータを他のサービスに移せる仕組み)規律も検討される。こちらも、サービスやデジタル・プラットフォーマー、対象となるデータの範囲は一定限定されることが示唆されており、今後より詳細な検討が進められるものと見られる。
規制強化の方針は6月の成長戦略に盛り込まれる予定だ。新しい規律として検討される法案が、早ければ来年の通常国会に提出されるとも報じられている。規制の具体化が着々と進められている状況だ。
1 デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会
4――イノベーションとのバランス、健全なデータ活用促進に向けて
今回の規制の話は、GAFAに限った話ではなく、日本勢にも影響してくる。そして、IT企業だけでなく、今後デジタル領域でのビジネスを拡大していこうと目論む企業であれば、この議論の動向には留意しておく必要があろう。AIやIoT等の先端技術の発展によって、「リアル」と「デジタル」が融合していくことが考えられる。米国のアマゾンは高級食品スーパーマーケット・ホールフーズマーケットを買収し、中国のアリババもスーパーマーケット・フーマーを手掛けている。反対に、日本の製造業や小売業等がリアル領域からデジタル領域に手を広げ、消費者のデータを収集し、活用することで商機を拡大していくことも選択肢の一つになる。モノのシェアリングサービスや、サブスクリプション(定額利用)サービス等でも、それぞれの消費者の好みや利用状況を分析して、最適化されたサービスを提供することが消費者の利便性向上、差別化に繋がる。また、消費者(個人)のデータを活用して、それぞれの興味や関心に合うよう最適化された広告や情報を配信するようなインターネット広告、ウェブマーケティングは、既に多くの企業が活用している。今回の規制は、その情報の集め方や利用、管理の方法について、一石を投じることになる。たとえ、今回の新たな規制の直接的な影響が及ばなかったとしても、新しいビジネスモデルやマーケティングを考える上では、個人情報やプライバシーへの配慮、規制の方向性には留意しておく必要があるだろう。
今夏にまとめられる成長戦略に向け、詳細な検討が進められる。デジタル・プラットフォーマーの取引慣行に関して、透明性や公正性の向上を通じて健全な競争環境が整えられるとともに、イノベーションとのバランス、健全なデータ活用促進にも配慮した議論となることを期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年04月25日「基礎研レター」)

中村 洋介
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