2019年04月10日

最近の人民元と今後の展開(2019年春季号)~近づく米中首脳会談、人民元に関する合意に注目!

三尾 幸吉郎

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1――最近の人民元

19年3月末の人民元レート(対米ドル、基準値、中国外貨取引センター)は1米ドル=6.7335 元で取引を終えた。ここ数年の人民元の値動きを振り返ると、15年8月に人民元の切り下げが実施されて以降(人民元ショック)、中国では資金流出懸念が高まり、10年ぶりに1米ドル=7元の大台が視野に入り、17年1月には1米ドル=6.9526元まで下落した(図表-1)。しかし、17年5月に中国政府が基準値設定方法を変更したことや、相次ぐ資金流出に対する規制強化、それにユーロが上昇に転じたことなどから、18年春には人民元ショック前の水準(同6.2元台)まで値を戻すこととなった。その後、中国経済が減速し始めると、米金利上昇に伴う米中金利差縮小が嫌気されて、人民元は急落した。しかし、18年8月に中国政府が基準値設定方法を再び厳しくすると徐々に下値が堅くなり、米長期金利が18年11月(3.2%台)をピークに低下し始めると、人民元は上昇に転じた。但し、19年2月に1米ドル=6.6元台に上昇すると、次第に上値が重くなり、それ以降は同6.7元を挟んだ一進一退の展開となっている(図表-2)。
(図表-1)人民元レート(対米ドル)の長期推移/(図表-2)ここ数年の人民元レート(対米ドル基準値)
なお、19年初来の米ドルに対する変化率を見ると、新興国通貨が概ね堅調に推移する中、人民元は2.2%上昇した(図表-3)。ユーロや日本円などの主要通貨が軟調に推移したのとは逆の動きだったため、ユーロや日本円に対する人民元レートは3%前後上昇することとなった(図表-4)。
(図表-3)2019年の変化率(対米ドル、201/年末比)/(図表-4)日欧中の対米ドル・レートの推移

2――今後の展開

2――今後の展開

さて、19年末に向けての人民元レートは、米中長期金利差の縮小が止まる可能性が高いと見て、横ばい圏での推移を予想している(想定レンジは1米ドル=6.5~6.9元)。但し、米中貿易協議が手打ちとなっても、米中間に横たわる根本的な経済構造問題は残るため、貿易不均衡是正は一時的なものに留まり、いずれは購買力平価(PPP)基準で見た人民元の割安感に焦点が当たって、元高に振れる可能性がある点には注意が必要だと考えている。

米中経済を概観すると、米国では景気の堅調を背景に利上げが実施されてきたが、19年に入り先行きに対する警戒感が高まって長期金利は低下、遅かれ早かれ利下げ局面に入ることを織り込み始めた。他方、中国では18年に景気の減速が鮮明となったが、中国政府の景気テコ入れ策で底割れは回避できる上、債務圧縮(デレバレッジ)の方針も堅持したため、長期金利の低下は止まった(図表-5)。したがって、米中長期金利差の縮小は止まった可能性が高く、人民元は横ばい圏での推移を予想している。
(図表-5)米中の長期金利の推移
一方、米中両国は18年12月の首脳会談で、米国が19年1月1日に発動する予定だった追加関税(2000億ドル相当の製品に対する関税を10%から25%に引き上げる)を3月1日まで猶予した上で、中国が米国からの輸入を拡大することにより「貿易不均衡の是正」を図るとともに、中国の構造的問題(「技術移転の強要」、「知的財産権の保護」、「非関税障壁の是正」、「サイバー攻撃の停止」、「サービスと農業分野の市場開放」)の解決に関する議論を進めることとなった。

その後の米中貿易協議の進捗状況を見ると、米中覇権争いのもうひとつの側面(安全保障)と密接に結びつく「サイバー攻撃の停止」の問題を今回は棚上げした上で、4月末までには「技術移転の強要」、「知的財産権の保護」、「非関税障壁の是正」、「サービス業の市場開放」、「農業分野の市場開放」、「貿易不均衡の是正」の6項目で合意し、米中首脳会談を開催して一旦の手打ちとなる可能性が高いと見られる。しかし、中国が政府主導で米国からの輸入を拡大しても、一時的に貿易不均衡が縮小するだけで、いずれは息切れし再び貿易不均衡が脚光を浴びることになるだろう。というのは、米中貿易不均衡が生じた背景には、前述の構造的問題に加えて、“米国の過剰消費”と“中国の過剰生産”という根本的な経済構造があるからだ1。そして、その背後には購買力平価(PPP)基準で見た人民元の絶対的な割安がある(図表-6)。新興国の通貨は一般に、金利水準は高いものの国際的信用が低いため割安に放置されるが、世界第2位の経済大国で大幅貿易黒字の中国もその例外ではない。現下のこうした環境は、1985年のプラザ合意前に、米国の貿易赤字が拡大していたにも拘らず、高金利を背景に米ドル高が進んだ局面を想起させる。今後設置が見込まれる定期会合で合意の履行状況を定点チェックしていく過程では、貿易不均衡の是正が思わしくなければ、いずれ購買力平価(PPP)基準で見た人民元の絶対的な割安に焦点が当たり、「現代版プラザ合意」のようなことが起きて、人民元が上昇するという流れになる可能性がある点には注意が必要である。その点、米中貿易協議の中盤(19年2月下旬)に報道されていた「人民元安誘導の制限」とは何を指すのかに注目したい。今回の合意でその一端が垣間見られる可能性があるからだ。当時、米国のムニューシン財務長官は「通貨における最も強力な合意の一つ」と評価していた。
(図表-6)米ドルに対する割安度(米ドル=100とした場合)
 
1 米中貿易不均衡の根本的な原因に関しては「図表でみる世界経済(米中関係編)~米中貿易戦争はどうなるのか?」基礎研レター2018-10-19を参照
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2019年04月10日「基礎研レター」)

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