- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 中国経済 >
- 最近の人民元と今後の展開(2019年春季号)~近づく米中首脳会談、人民元に関する合意に注目!
1――最近の人民元
2――今後の展開
米中経済を概観すると、米国では景気の堅調を背景に利上げが実施されてきたが、19年に入り先行きに対する警戒感が高まって長期金利は低下、遅かれ早かれ利下げ局面に入ることを織り込み始めた。他方、中国では18年に景気の減速が鮮明となったが、中国政府の景気テコ入れ策で底割れは回避できる上、債務圧縮(デレバレッジ)の方針も堅持したため、長期金利の低下は止まった(図表-5)。したがって、米中長期金利差の縮小は止まった可能性が高く、人民元は横ばい圏での推移を予想している。
その後の米中貿易協議の進捗状況を見ると、米中覇権争いのもうひとつの側面(安全保障)と密接に結びつく「サイバー攻撃の停止」の問題を今回は棚上げした上で、4月末までには「技術移転の強要」、「知的財産権の保護」、「非関税障壁の是正」、「サービス業の市場開放」、「農業分野の市場開放」、「貿易不均衡の是正」の6項目で合意し、米中首脳会談を開催して一旦の手打ちとなる可能性が高いと見られる。しかし、中国が政府主導で米国からの輸入を拡大しても、一時的に貿易不均衡が縮小するだけで、いずれは息切れし再び貿易不均衡が脚光を浴びることになるだろう。というのは、米中貿易不均衡が生じた背景には、前述の構造的問題に加えて、“米国の過剰消費”と“中国の過剰生産”という根本的な経済構造があるからだ1。そして、その背後には購買力平価(PPP)基準で見た人民元の絶対的な割安がある(図表-6)。新興国の通貨は一般に、金利水準は高いものの国際的信用が低いため割安に放置されるが、世界第2位の経済大国で大幅貿易黒字の中国もその例外ではない。現下のこうした環境は、1985年のプラザ合意前に、米国の貿易赤字が拡大していたにも拘らず、高金利を背景に米ドル高が進んだ局面を想起させる。今後設置が見込まれる定期会合で合意の履行状況を定点チェックしていく過程では、貿易不均衡の是正が思わしくなければ、いずれ購買力平価(PPP)基準で見た人民元の絶対的な割安に焦点が当たり、「現代版プラザ合意」のようなことが起きて、人民元が上昇するという流れになる可能性がある点には注意が必要である。その点、米中貿易協議の中盤(19年2月下旬)に報道されていた「人民元安誘導の制限」とは何を指すのかに注目したい。今回の合意でその一端が垣間見られる可能性があるからだ。当時、米国のムニューシン財務長官は「通貨における最も強力な合意の一つ」と評価していた。
1 米中貿易不均衡の根本的な原因に関しては「図表でみる世界経済(米中関係編)~米中貿易戦争はどうなるのか?」基礎研レター2018-10-19を参照
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
このレポートの関連カテゴリ
三尾 幸吉郎
研究・専門分野
(2019年04月10日「基礎研レター」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年03月29日
晩年に関する不安~老後とその先の不安には「近居」が“程よい距離感” -
2024年03月29日
急速に導入が進むインドの再生可能エネルギー~2030年の国際公約達成を狙える位置に -
2024年03月29日
身体活動基準2023~座位行動時間、筋トレに関する指針が追加 -
2024年03月29日
鉱工業生産24年2月-不正問題の影響で自動車生産が一段と落ち込む -
2024年03月29日
管理職志向が強いのはどんな女性か~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(6)
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
-
2023年04月27日
News Release
【最近の人民元と今後の展開(2019年春季号)~近づく米中首脳会談、人民元に関する合意に注目!】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
最近の人民元と今後の展開(2019年春季号)~近づく米中首脳会談、人民元に関する合意に注目!のレポート Topへ