2019年04月03日

EC(欧州委員会)がソルベンシーIIに関する委任規則改正最終案を採択-今後、議会と理事会の精査期間を経て、施行へ-

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4―ソルベンシーII委任規則改正最終案を受けての保険業界の反応

今回の欧州委員会によるソルベンシーII委任規則改正最終案を受けて、欧州の保険業界団体である保険ヨーロッパ(Insurance Europe)は、声明を公表2している。

これによれば、今回の最終案に関して、大きな失望を表明しており、特に、具体的な項目として、欧州保険業界の重要な関心事であった「リスクマージン」と「ボラティリティ調整」に関して、何らの対応もなされなかった点を挙げている。さらに、「繰延税金の損失吸収能力」に対する不必要な制限についての懸念も表明している。また、「株式への長期投資の較正」に関しては、保険会社が投資に対して長期的なアプローチをとることができる場合には、資本費用が現在高すぎるという欧州委員会の認識を歓迎しているが、欧州委員会の提案が実際にどのようにワークするのかは今後の課題である、としている。

なお、「リスクマージン」と「ボラティリティ調整」に関しては、2020年のレビューで見直しが検討されることになるが、2020年末に完成が予定されている次のレビューでは遅すぎるとし、ソルベンシーIIの改善が可能な分野を特定し、優先順位を付けるという点で、もっと意欲的である必要がある、とした。さらに、それは、保険業界が顧客に提供できるものに直接影響を与えるだけでなく、欧州の成長と投資に対する欧州委員会の長期目標を支援する能力にも影響を及ぼす、と述べた。

2019年3月8日
失望させるEC提案は、ソルベンシーIIを改善する機会を逃している
ソルベンシーIIの委任規則を改正する欧州委員会の最終的な委任規則の採択に応答して、保険ヨーロッパの副局長であるOlav Jones氏は次のように述べている。
「保険ヨーロッパは、いくつかの非常に必要とされる改善と簡素化が達成されているが、これらは長期的な商品と投資を維持し発展させる業界の能力に影響を与える重要な問題に関する進歩の欠如によって打ち消されている。」

具体的には、業界は次のような懸念を抱いている。
・リスクマージン:業界がリスクマージンを安全に減らすことができるという広範な証拠を提供したという事実にもかかわらず、欧州委員会は行動を起こさなかった。EIOPAによると、リスクマージンは、全ての顧客の要求と高い水準のソルベンシー資本を満たすために業界が保有する必要がある資本の額に加えて、2,000億ユーロを追加する。残念ながら、これは特に長期商品に影響を与える。

・ボラティリティ調整:長期契約のために人為的なボラティリティを減らすように設計されているこの調整が意図したように機能しないという証拠がある。このレビューの下で、国固有の要素に関する最初のステップが議論された。残念ながら、欧州委員会の本文には何も含まれていない。

さらに、業界は、繰延税金の損失吸収能力に対する不必要な制限について懸念を抱いている。

株式への長期投資の較正に関して、保険ヨーロッパは、保険会社が投資に対して長期的なアプローチをとることができる場合には、資本費用が現在高すぎるという欧州委員会の認識を歓迎する。欧州委員会の提案が実際にどのようにワークするのかは、今後の課題である。

Jones氏は、次のように述べている。
「次のレビューは、2020年末までに完成する予定だが、遅すぎる - ソルベンシーIIの改善が可能な分野を特定し、優先順位を付けるという点で、もっと意欲的である必要がある。それは保険業界が顧客に提供できるものに直接影響を与えるだけでなく、欧州の成長と投資に対する欧州委員会の長期目標を支援する能力にも影響を及ぼすだろう。」

なお、保険ヨーロッパは、前回のレポートで報告したように、2018年3月27日付けのInsight briefingにおいて、ソルベンシーIIにおける見直し項目について、(1)現在変更すべきもの(リスクマージンと長期株式較正)、(2)変更すべきでないもの(金利リスクとLAC DT)、(3)後ほど変更が必要なもの、の3つに分類していた。  

5―まとめ

5―まとめ

今回のソルベンシーII委任規則改正最終案に関しては、今後、欧州議会(European Parliament)と欧州理事会(European Council)による3ヶ月の精査期間に入ることになる。これらの期間に異議申し立てがない場合、最終的にこの新たな委任規則が施行されていくことになる。具体的には、この改正委任規則は「EU官報(Official Journal of the European Union)」に公表された日に続く20日目に発効し、これまで述べてきたように2020年1月1日から適用されることになる一部の項目を除けば、その時点から新たな改正内容が適用されていくことになる。

今回の欧州委員会の決定内容は、当初2018年12月までに最終決定が予定されていたソルベンシーIIの第1段階のレビューに関するものである。ソルベンシーIIの枠組みに関する第2段階のレビューについては、遅くとも2021年1月1日までに見直されることになっている。これに関して、欧州委員会は、2月11日付けでEIOPA宛に技術的な文書3を送付することで、ソルベンシーIIの第2段階の見直しを開始している。

これによれば、欧州委員会は、EIOPAに対して、以下の項目についての技術的助言を求めている。

・長期保証(LTG)措置及び株式リスクに関する措置(第77f条)
・ソルベンシー資本要件(SCR)の標準式を計算する際に使用される特定の方法、仮定及び標準パラメータ(第111条(3))
・第129条(最低資本要件の計算)の適用に関する規則及び監督当局の慣行
・グループ内での保険及び再保険会社の監督(第242条第2項)
・保険及び再保険会社の監督に関連するその他の項目

なお、この技術的助言は、2020年6月30日までに欧州委員会に提出されることを要求している。

これらの項目のうち、ソルベンシー資本要件(SCR)の算出に関係する具体的な事項としては、リスクフリー金利期間構造の補外、ボラティリティ調整とマッチング調整、移行措置、リスクマージン、ボラティリティ調整の動的モデリング、標準式(例えば、金利リスクの評価)、長期的な投資リスクの調整、外部信用格付けへの依存の低減等、数多くの事項が挙げられている。

さらに、それ以外の項目に関しての具体的な事項としては、最低資本要件(MCR)、マクロプルデンシャル問題、再建・破綻処理、保険保証スキーム、サービスを提供する自由と設立の自由、グループ監督、報告とディスクロージャ―、比例原則と臨界値、最良推定値、単体レベルでの自己資本等の事項が挙げられている。

ソルベンシーIIの改正を巡る動きについては、グローバルベースで資本規制の見直しが重要な課題になっている中で、世界各国の保険監督当局や保険会社等の保険関係者が注目している。その意味において、今後も、欧州委員会及びEIOPAを巡るソルベンシーIIの改正の動き等については、大変関心が高いものであることから、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年04月03日「基礎研レポート」)

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