2019年03月26日

日本が直面する、脱プラスチック問題

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

中村 洋介

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1――はじめに

ウミガメの鼻に刺さったプラスチック製のストロー、クジラの胃から出てきた大量のプラスチックごみ。海に大量に流入するプラスチックが大きな問題になっている。国際会議の場でもプラスチックの問題が議題となっている他、ストロー等の使い捨てプラスチックの使用を取りやめる企業も出てきている。日々プラスチックに囲まれて暮らしているだけに、その利用を取りやめれば、企業活動や消費生活への影響も大きい。本稿では、こうした脱プラスチックに関する議論を概観するとともに、論点や課題について整理していきたい。
 

2――何が問題になっているのか

2――何が問題になっているのか

1海洋プラスチック問題
プラスチックごみが世界中の海洋を汚染しているという海洋プラスチック問題が1つの契機となって、世界中で脱プラスチック議論が進んでいる。冒頭のようなウミガメやクジラの痛ましい姿の画像や映像がインターネットや報道で広まったこともあり、市民や企業レベルでの意識も高まっている。

2016年1月開催の世界経済フォーラム年次総会(通称・ダボス会議)において発表された報告書1によれば、2014年の世界のプラスチックの生産量は3億1,100万トンであり、それまでの50年間でその量は20倍に急増、今後20年間で更に倍増すると指摘している。また、少なくとも毎年800万トンもの廃プラスチックが海洋に流れ出ており、このまま行くと2050年には海洋中のプラスチックの量が、魚の量を凌駕する(重量ベース)とも言及された。

マイクロプラスチックも問題視されている。マイクロプラスチックは、洗顔料や歯磨き粉等に使われているスクラブ等に活用されているマイクロビーズや、プラスチック製品が風化や破損で粉々になった破片(発泡スチロール片等)のような微細なプラスチックのことだ。こうしたマイクロプラスチックが海洋等に流出し、食物連鎖の中に取り込まれてしまう等、生態系への影響が懸念されている。
 
1 “The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics”(2016年1月)
2動き出した国際社会
こうした課題を前に、国際社会も対策に向けて大きく動き出している。

2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において、2030年までの国際開発目標として掲げられたSDGs(Sustainable Development Goals)においても、持続可能な消費や生産、海洋資源の保護等が目標として設定された(図表1)。
(図表1)SDGs<抜粋>
上述の2016年1月のダボス会議のように、プラスチックの問題が国際会議の場でも議題として取り上げられるようになっている。2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットの共同宣言においても、資源効率性、3R(リデュース,リユース,リサイクル)、そして海洋ごみ問題について言及がなされた。2017年6月には、海洋プラスチック問題等、海洋の持続可能性をテーマにした初の国連会議である国連海洋会議が開催された。当会議で採択された「行動の呼びかけ(Call for Action)」においては、SDGsの目標14(海洋問題)の重要性を強調しつつ、プラスチックとマイクロプラスチックの利用減に向けた長期的、本格的な戦略の実施を謳っている。そして、2017年12月の第3回国連環境総会においては、大気、土地及び土壌、淡水並びに海洋の環境汚染への対策に向けた閣僚宣言「汚染のない地球へ向けて」が採択された他、海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチック問題に関する専門家グループ会合を招集することを決定した。

この問題に対して、更に踏み込んだ目標や規制も出てくるようになった。2017年12月には、各国から多くの廃プラスチックを資源として輸入していた中国が、非工業由来の廃プラスチックの輸入禁止措置を実施した。(2018年12月には工業由来の廃プラスチックにも拡大した。)2018年1月には、欧州委員会が「欧州プラスチック戦略」を公表する。2030年までに全てのプラスチック製容器包装を再利用可能なものとし、使い捨て(ワンウェイ)プラスチック製品を削減していく目標を掲げた。2018年6月のG7シャルルボワ(カナダ)サミットにおいては、具体的な数値目標が盛り込まれた「G7海洋プラスチック憲章」(図表2)が、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、EUにより承認された。一方、米国と日本は同憲章に署名せず、国内外から批判的な声も上がった。サミット閉幕後の中川環境大臣(当時)の記者会見では、その理由に関して、市民生活や産業への影響を慎重に検討する必要があったこと、(カナダから案の提示を受けてから)産業界や関係各省庁との調整を行う十分な時間がなかったことに触れている。
(図表2)G7海洋プラスチック憲章
欧州では取り組みが更に加速している。2018年10月には、欧州議会でレジ袋やストロー等の使い捨てプラスチック製品の流通を2021年から禁止する法案が賛成多数で可決された。国際社会での議論をリードし、ルール見直しや規制による「ゲームチェンジ」を通じて域内企業の競争力を高めていく目論見もあるようだ。

そして直近、2019年3月には第4回国連環境総会が開催され、2030年までに使い捨てプラスチックを大幅に削減することを盛り込んだ閣僚宣言が採択された。原案では、2025年までに使い捨てプラスチックの全廃を目指す内容であったが、具体的な削減目標設定に対して反対を表明した米国に譲歩した形となり、欧州と米国のスタンスの違いが改めて認識される結果となった。6月に開催されるG20大阪サミットでもプラスチック問題が議題になると見られ、議長国となる日本の対応に注目が集まっている。
3日本の対応
国連環境計画(UNEP)の報告書によれば、日本は人口1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量は、米国に次いで多いとされている。欧州中心に国際社会で進んでいる脱プラスチックに向けたルールや規制の動向からすると、日本はやや後手に回った感がある。また、それ以外にも中国の廃プラスチック輸入禁止措置という難しい問題にも直面している。禁止措置以前、日本は年間約150万トンもの廃プラスチックを資源として輸出しており、その約半分を中国に輸出していた。東南アジアが代替先になったものの、輸出は全体として減少しており、行き場を失った廃プラスチックが国内で滞留してしまうという問題に直面している。国内の処理能力にも限界があり、国内処理業者の中には受入制限を実施、もしくは検討している先もあるようだ。また、輸出代替先となっている東南アジアの国でも、廃プラスチックの輸入制限の動きがある。世界で起きている大きなうねりの中、日本は国内での資源循環体制の再構築の必要に迫られている。

そうした背景もあり、日本も動きを加速させている。2018年6月には、第4次循環型社会形成推進基本計画を閣議決定した。資源生産性2、循環利用率3、最終処分量4等についての数値目標が示されるとともに、海洋ごみ対策、不法投棄対策、そして「プラスチック資源循環戦略」を策定する方針等が盛り込まれた。

2018年8月からは、環境省の有識者会議5において、上述のプラスチック資源循環戦略の策定に向けた議論がスタートした。G20大阪サミットまでに当戦略を策定し、世界のプラスチック対策の議論をリードしていくことを狙っている。
(図表3)プラスチック資源循環戦略(案)主な数値目標 2月の有識者会議で議論されたプラスチック資源循環戦略(案)では、3R+Renewableが基本原則とされ、重点戦略としてレジ袋有料化の義務付けや、中国等の禁輸措置を受けた国内資源循環体制構築、途上国への対策支援等が掲げられた。また、2030年までに使い捨てプラスチックを累積25%排出抑制する等の具体的な数量目標も盛り込まれている(図表3)。現状を考えれば、それなりにハードルもある目標設定と言えようが、欧州の打ち出している目標等と比較すると踏み込み不足との指摘もある。G20大阪サミットに向け、国内で更なる議論や対策が進んでいくことが期待される。
(図表4)日本企業の取り組み例 こうした流れを受けて、日本企業も動き出している。外食チェーンの一部では、プラスチック製ストローの提供廃止を進めている。また、プラスチック廃棄をゼロにする目標を掲げたり、ラベルレスのペットボトル飲料の販売を進めている企業もある(図表4)。SDGsや、ESG投資(環境、社会、コーポレート・ガバナンスの観点を組み込んだ投資手法)が浸透しつつあることも、日本企業の背中を押している。使い捨てプラスチック使用の抑制、紙等の代替製品の開発等、取り組みが進んでいくことが見込まれる。
 
2 GDP÷天然資源等投入量。2025年度目標としてとなる約49万円/トン(2000年度の約2倍)が掲げられた。
3 入口側:循環利用量÷(天然資源等投入量+循環利用量)、出口側:循環利用量÷廃棄物等発生量。2025年度目標として、入口側約18%(2000年度の約1.8倍)、出口側約47%(2000年度の約1.3倍)が掲げられた。
4 廃棄物の埋立量。2025年度目標として約1,300万トン(2000年度から約77%減)が掲げられた。
5 中央環境審議会 循環型社会部会 プラスチック資源循環戦略小委員会
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