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インド経済の見通し~農家支援策により消費は持ち直しへ向うも、輸出の停滞色が強まり、緩慢な成長が続く(2019年度+7.2%、2020年度+7.5%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:緊縮財政で政府部門が落ち込み

民間消費は同8.4%増となり、高水準だった前期の同9.8%増から低下した。雨量不足を背景に今年度のラビ期の作付け面積が6,360万ha(前年度比1.86%減)と昨年を下回り、農家の収穫見通しが悪化したこと、昨年の金融引き締めに伴う金利上昇がラグを伴って消費に悪影響を及ぼしたとみられる。また政府消費が同6.5%増(前期:同10.8%増)と低下した。今年度の財政赤字目標の超過を背景に政府が歳出を急速に抑制したことが影響したとみられる。10-12月期の経常支出は同4.1%増(前期:同23.9%増)と大きく鈍化した(図表2)。

純輸出については、まず輸出が同14.6%増と、前期の同13.9%増から小幅に上昇し、3期連続で二桁成長を記録した。通関ベースの財貨輸出が鈍化したことを踏まえると、サービス輸出が好調だったとみられる。また輸入は同14.7%増(前期:同21.4%増)と、内需の減速や油価下落を受けて増勢が鈍化した。結果として、純輸出の成長率寄与度は▲0.6%ポイント(前期:▲2.2%ポイント)と改善した。
経済見通し:2019年度は+7%程度の勢いを欠いた成長へ


以上の結果、実質GDP成長率は高額紙幣廃止とGST導入に伴う混乱からの回復により18年度が+7.3%(17年度:+7.1%)と上昇するが、19年度が輸出と投資が伸び悩んで+7.2%の勢い欠いた成長を予想する。しかし、20年度は新政権の経済政策を背景に投資が拡大して+7.5%の堅調な成長ペースに戻るだろう。
直近では、カシミール地方で起きたテロ事件をきっかけにパキスタンとの関係が急激に悪化、2月末には両国の戦闘機が交戦する事態へと発展した。パキスタンのカーン首相は事態収拾を狙い、拘束したインド軍兵士を3月1日に引き渡したが、総選挙を控えたモディ首相はテロ支援の疑いのかかるパキスタンに対する強硬姿勢を崩すことはないだろう。このまま両国首脳の対話が進まなければ、カシミールの治安部隊の衝突に歯止めがきかなくなる恐れがある。パキスタンとの対立が激化すれば、いかにインド経済が中国を超える高成長を遂げていても外国人投資家が離れていきかねない。この場合、投資や通貨ルピーに短期的な下押し圧力がかかる可能性が高い。
1 農家支援金の直接給付(通称:PM―Kisan)は総額7,500億ルピーを予算計上しており、1,000万を超える小規模農家に対し1世帯当たり年間6,000ルピーを3回に分けて支給される。昨年12月から遡って適用され、一回目の支給は3月末までに完了する見通し。
(為替の動向)来年度には再びルピー安へ


(物価の動向)来年度は緩やかに上昇

先行きのインフレ率は、年明け頃から再び上向く展開を予想するが、RBIの物価目標の範囲内で落ち着いて推移するだろう。足元のCPI上昇率は低下傾向にあるが、今後はラビ期の収穫量の伸び悩みによって食品価格が底打ちするほか、政府の農業支援による消費需要の改善が見込まれて再び上向きに転じるだろう。しかし、現在インドではGST導入に伴う輸送効率の改善や国家農業市場(e-NAM)の拡大を背景に構造的なインフレ要因が解消に向っており、インフレ高騰に悩まされる可能性は低そうだ。従って、CPI上昇率は直近の+2%から19年度末には+4.4%へと緩やかに上昇すると予想する。
(金融政策の動向)4月に追加利下げ

しかし、12月には政府との不仲が伝えられたパテル総裁が辞任し、モディ首相に近いとされるダス元財務官が新総裁に就任すると風向きが変わった。政府が2月1日に選挙対策色の強い来年度予算案を発表すると、RBIは2月7日の会合で政策金利を従来の6.50%から6.25%へと引き下げると共に、当面の金融政策のスタンスを「引き締め」から「中立」に戻した。市場予想は据え置きが優勢であり、ややサプライズの利下げとなった。
その後公表された10-12月期のGDP統計で景気減速を確認、また2月のCPI上昇率が前年比+2.0%まで低下したことで2月のRBIの金融緩和は正当化された。むしろ追加的な利下げ余地さえ生まれたかにみえる。RBIは今後、金融スタンスを「中立」としつつ、4月の会合では追加利下げを実施、その後は緩やかな物価上昇を背景に政策金利は据え置かれると予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年03月04日「基礎研レター」)

03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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