コラム
2019年01月29日

広がる物価の世代間格差~先行きは消費税率引き上げに伴い一段と拡大~

白波瀨 康雄

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止まらない物価格差

(図表1)年齢別の消費者物価指数(総合) 2018年の消費者物価指数(総合、以下CPI)は前年比1.0%と2017年の同0.5%から伸び率が拡大した。一方、世帯主の年齢別にみると、39歳以下は0.7%だが、40~50歳代は0.8%、60歳以上は1.1%と年齢が上がるにつれて上昇率が高くなっており、高齢者ほど物価上昇に直面している。この傾向は2014年以降から続いている。2011年から2013年までの3年間の年齢別上昇率は0.0~0.1%の間に収まったが、その後2014年から2018年までの5年間は3.8~5.4%と39歳以下と60歳以上では1.7%ポイントの差が生じた。これは、世帯属性によって消費構造が異なることに起因している。差が生まれる要因は、高齢者ほど、物価が大きく上昇している生鮮食品に対する消費支出に占める割合が高いことや、物価が下落している移動通信料の割合が低いことなどから生じている1

先行きは一段と差が拡大

2019年は10月に消費税率引き上げやそれに伴う軽減税率の導入、幼児教育の無償化など、物価に影響を与える政策が予定されている。軽減税率の対象品目である「飲食料品(酒類・外食を除く)・新聞」は、高齢者ほど消費支出に占める割合が高く、39歳以下は16%だが、60歳以上では23%となっている(図表2-左)。高齢者ほど軽減税率導入の恩恵を受けそうだ。一方、幼児教育無償化の恩恵を受けるのは若年層が多い(図表2-右)。これらのウェイトの違いにより、年齢別に物価を与える影響が異なってくる。

まず、全体のCPIに与える影響をみると、消費税率引き上げが課税品目にフル転嫁された場合、CPIを1.3%押し上げるが、軽減税率の導入により▲0.4%、幼児教育無償化により▲0.6%2押し下げられ、最終的に0.3%程度の押し上げに留まる(図表3)。
(図表2)年齢別のウェイト/(図表3)CPI(総合)の押し上げ幅・下げ幅
ただし、年齢別にみると、39歳以下は▲0.5%程度と増税にも関わらず幼児教育無償化が大きくCPIを押し下げマイナスとなった一方、無償化の影響が限定的な40~50歳代は0.7%程度の押し上げ、60歳以上は0.9%程度の押し上げとなった(図表4)。軽減税率導入による年齢別の押し下げ幅は60歳以上が最も大きくなったが、他の年齢との差はそれほど大きくない。軽減税率と幼児教育無償化を合わせると、39歳以下と40歳以上では1%ポイント以上CPI上昇率に差が生じており、世代間格差は一段と拡大する可能性が高いだろう。

2019 年度の公的年金額は4年ぶりの増額となったが、改定率は0.1%に留まっており実質所得の低下は避けられない。今回の増税時には他にも各種負担軽減策が講じられていることや引き上げ幅が前回より小さいことから、増税後の消費の落ち込みは限定的とみられているが、高齢者の消費動向に注意する必要があるだろう。
(図表4)CPI(総合)の押し上げ幅・下げ幅
 
2 幼児教育無償化は、全ての3~5歳児、住民税非課税世帯の0~2歳児を対象に、幼稚園・保育所・認定こども園等の費用が無償化される。影響を受けるCPIの品目は、幼稚園保育料(公立)(ウェイト:0.03%)、幼稚園保育料(私立)(0.27%)、保育園保育料(0.53%)の3品目(合計のウェイトは0.83%)と考えられる。0~2歳児の無償化は住民税非課税世帯に限られており、内閣府の試算によると今回の無償化に伴う公費負担額の1%に満たない(内閣府「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針―幼児教育の無償化に係る参考資料(平成30年12月28日)」)ため、保育園保育料に与える影響は限定的と考え、3~5歳児の無償化に伴う影響のみを考慮して推計した。
 
 

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(2019年01月29日「研究員の眼」)

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白波瀨 康雄

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