2019年02月05日

政策保有株式に関するディスクロージャーの強化

東京理科大学経営学部 柳瀬 典由

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2018年11月2日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表した1。これは、同年6月に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」において、 (1)財務情報及び記述情報の充実、 (2)建設的な対話の促進に向けた情報の提供、 (3)情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組みに向けて、適切な制度整備を行うべきとの提言がなされたことを受けてのものである。そして、この改正案では、「有価証券報告書」における政策保有株式に関するディスクロージャーの強化も示されている。改正案にもとづく新たなディスクロージャーは、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から順次、適用が開始される。
 
1 改正案の詳細については、金融庁ホームページ(https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20181102_2.html)にて、同内閣府令に関する「新旧対照表」等が公開されているので、それらを参照されたい。なお、改正案に対する意見募集は、2018年12月3日の正午に締め切られている。
そもそも、政策保有株式とは、保有目的が純投資目的(専ら株式の価値の変動又は配当の受領によって利益を得ることを目的とすること)以外のものを指し、一般に、 (1)保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式(「特定投資株式」)及び、 (2)純投資目的以外の目的で提出会社が信託契約その他の契約又は法律上の規定に基づき「議決権行使権限」を有する株式(「みなし保有株式」)を意味する。特に、 (1)「特定投資株式」には、いわゆる「持ち合い株式」も含まれており、わが国特有の企業間関係を理解する上で、きわめて重要な情報をもつ。例えば、政策保有株式に関する情報には、取引先との中長期的な取引関係の継続・強化や企業グループにおける関連事業推進や関係強化等、個々の企業の財務諸表からはとらえきれない内容が含まれる。中長期的な企業価値向上という観点からは、こうした非財務情報は投資家の意思決定上、有用な情報を提供するものと考えられている。

こうした政策保有株式に関するディスクロージャーは、2010年3月31日に公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」において、本格的に導入された。具体的には、有価証券報告書の「株式保有の状況」において、政策保有株式の銘柄数および貸借対照表計上額の合計額は総額開示されるとともに、特に重要な銘柄については、銘柄ごとに、銘柄、株式数、貸借対照表計上額および具体的な保有目的が開示(銘柄別開示)されることになった2
 
2 銘柄別開示の条件は、(1)貸借対照表計上額が資本金額の1%を超えるもの、(2)当該銘柄の貸借対照表計上額の大きい順の30銘柄((1)が30銘柄に満たない場合)である。なお、2018年11月2日に公表された改正案では、個別開示の対象となる銘柄数が現状の30銘柄から60銘柄に拡大されることになった。さらに、開示項目についても、従来からの項目に加えて、(1)提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容およびセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合は、その旨)、(2)株式数が増加した理由(最近事業年度における株式数がその前事業年度における株式数より増加した銘柄)等、さらに詳細な情報が開示されることになった。
ここで、日本企業の政策保有株式(特に「特定投資株式」)の保有動向を簡単に確認しておこう。サンプル企業は、2010年3月期決算から2018年3月期決算までの3月末日決算の東証上場銘柄(外国会社、金融・保険業を除く)である(9年間)。図表は、各企業が保有する「特定投資株式」の銘柄数の増減(対前年度比)を計算し、その業種別平均を示したものである(サンプル数は12,666)。これによれば、業種によって差はあるものの、大半の企業において、「特定投資株式」を毎年、微減ではあるが、着実に減らしてきていることが確認できる。
図表:「特定投資株式」の銘柄数の増減(対前年比)
さて、今回公表された改正案では、従来の開示項目に加えて、 (1)保有目的が純投資目的である投資株式と純投資目的以外の目的である投資株式の区分の基準や考え方の記載、 (2)保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式については、提出会社の保有方針及び保有の合理性を検証する方法や個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証内容の記載などが追加される。また、最近の事業年度における株式数がその前事業年度における株式数から変動した銘柄については、株式数が増加(減少)した銘柄数、株式数の増加(減少)に係る取得(売却)価額の合計額および増加(減少)の理由についても、追加開示が求められる。

こうした政策保有株式に関する開示強化の方向性は、同年6月に初めての改訂が行われたコーポレートガバナンス・コードにおいても同様である。上場企業は、「有価証券報告書」のみならず、「コーポレートガバナンス報告書」においても、自社の政策保有株式に関するさらに詳細なディスクロージャーが求められる。これにより、中長期的な企業価値向上の観点から、株主・企業間の建設的な対話の促進がますます期待されることになる。
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東京理科大学経営学部

柳瀬 典由

研究・専門分野

(2019年02月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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