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2019年度の社会保障予算を分析する-費用抑制は「薬価頼み」「帳尻合わせ」が継続

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
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1――はじめに~2019年度の社会保障関係予算~
一方、歳出の約3分の1を占める社会保障関係費は同3.2%増の34兆587億円となり、6,000億円前後と想定されていた自然増を約4,800億円に抑制できたものの、ここ数年で見られる薬価頼みと帳尻合わせの傾向が続いた。本レポートでは、2019年度予算案の概要を把握するとともに、筆者の関心事である医療・介護分野を中心に、社会保障関係予算の内容を分析する。その上で、費用抑制における薬価頼みや帳尻合わせの実態を考察する1。
1 本レポートについては、財務省、厚生労働省の資料に加えて、『朝日新聞』『日本経済新聞』『毎日新聞』『読売新聞』『m3.com』『週刊社会保障』などを参照した。
2――2019年度予算案の状況
まず、一般会計総額は対前年度当初比3.8%増の101兆4,564億円(通常分は99兆4,285億円、臨時・特別の措置は2兆280億円)に膨らみ、史上初めて100兆円を突破した。歳出の内訳は図1の通りである。このうち、歳出の約30%に上る社会保障関係費は同3.2%増の34兆587億円、15%程度を占める地方交付税交付金等は同3.0%増の15兆9,850億円となり、いずれも3%台前半の伸びにとどまった。しかし、消費税引き上げの影響を緩和する2兆円規模の「臨時・特別の措置」が歳出増の要因となったほか、景気対策や維持更新などを目的とした公共事業関係費が同15.6%増の6兆9,099億円と大幅増になったことなどが歳出規模を膨らませた。

では、こうした中で社会保障関係費はどう変わったのだろうか。以下、(1)消費税増収分を活用した社会保障関係予算の充実、(2)消費税引き上げに対応する各種報酬の改定、(3)薬価削減など抑制策の内容、(4)その他に論点となった制度改正――の4点に整理しつつ、詳しく内容を見ていく。
3――社会保障関係予算の概要(1)~消費税増収分を活用した充実~
2019年度予算案では、2019年10月に引き上げる消費税収を財源とした社会保障関係費の充実が図られた。これは安倍晋三首相が掲げる「全世代型社会保障」と関係している。安倍首相は2017年10月、解散総選挙に踏み切る際、高齢者に重きを置き過ぎている社会保障の予算を若年世代などに振り向ける「全世代型社会保障」を打ち出すととともに、2019年10月に消費税を8%から10%に引き上げる際の財源を活用することを表明した。
これを受け、増収分の計8,110億円(国費ベースで7,157億円)が社会保障の充実に活用されており、具体的な使途については、表1の通り、①幼児教育・保育の無償化、②介護人材の処遇改善、③待機児童の解消(保育士の処遇改善を含む)、④低年金高齢者に対する年金生活者支援給付金の支給、⑤低所得高齢者の介護保険料負担軽減の強化、⑥地域医療介護確保総合基金の拡充、⑦医療ICT化促進基金の創設、⑧社会的養育の推進――となっている。
ここでは予算編成で焦点となった幼児教育・保育の無償化とともに、筆者の関心事である医療・介護分野を中心に、その概要を考察する。
表1の①で挙げた幼児教育・保育の無償化については、全ての3~5歳児と低所得世帯の0~2歳児について、幼稚園、保育所、認定こども園(幼稚園と保育所を一体化させた施設)、認可外施設に関する経費を無償化するための予算を計上した2。
この点は予算編成のプロセスで争点となり、全国市長会など地方団体が「必要な財源については、全額国費で確保すべきだ」「無償化に伴う待機児童対策のため、施設整備や保育士確保などに要する経費について、地方財源の安定的確保を図るべきだ」「質の担保について、劣悪な施設に対して公費を投入することは耐え難い」と主張し、国との調整が難航した。
最終的に、国・地方協議の場での調整を経て、2019年度予算案では初年度(半年分)の費用として消費税の増収分から計3,882億円を充当するとともに、国が「子ども・子育て支援臨時交付金」(2,349億円)という形で費用の全額を負担することになった。その一方、認可外施設などの質の確保については今後の検討課題とされた。
2 このうち認可外施設については、3~5歳児は認可保育所の保育料の全国平均額に相当する月3万7,000円、住民税非課税世帯の0~2歳児は同4万2,000円を上限に補助する。
医療・介護分野でも消費税収の一部を充当する形で、いくつか施策を拡充したり、新たな財政支援制度を創設したりしている。その一つとして、人材難が指摘されている介護職員の処遇を図る点が挙げられる。具体的には、2019年10月から勤続10年以上の介護福祉士について、月額平均8万円相当の処遇改善を行うとしており、トータルで421億円、国費ベースとして213億円を計上している。
介護職員の処遇改善については、自民党から民主党に政権交代する直前の2009年度第1次補正予算で「介護職員処遇改善交付金」が創設され、月額平均1万5,000円の給与引き上げを実施した。その後、交付金が3年間で期限切れを迎えたため、2012年度報酬改定に際して「例外的かつ経過的な取扱い」という判断3で報酬本体に取り込まれた後、2015年度、2017年度に相次いで加算措置が講じられており、現在は最大で月額3.7万円相当の加算措置を受けられる。2019年度予算案では、リーダー層である経験・技能を持つ職員の給与を他産業と遜色ない水準まで引き上げるとして、10年以上の勤務経験を持つ介護福祉士の配置状況に応じて、①事業所ごとに加算率を設定、②事業所における柔軟な配分――という2段階を通じて、ベテラン介護福祉士を中心に給与を引き上げるとしている。
このほか、障害者福祉サービスの人材についても2019年10月から処遇改善を実施するとしており、トータルで187億円、国費ベースで94億円を充当。保育士に関しても、2019年4月から月額3,000円相当の処遇改善を実施するとしており、総額206億円、国費ベースで103億円を充てる。
3 2011年12月の「平成24年度介護報酬改定に関する審議報告」では「(注:臨時的な財源である)交付金相当分を介護報酬に円滑に移行するために、例外的かつ経過的な取扱いとして設ける」としていた。
(2019年01月09日「基礎研レポート」)

03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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