2018年12月21日

中国経済:景気指標の総点検(2018年冬季号)~新たに開発した「景気インデックス」は6ヵ月連続低下し6.38%!

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)中国の実質成長率 2018年の中国経済は、党大会後の債務圧縮(デレバレッジ)による景気下押し圧力と、米中貿易戦争による先行き不透明感の強まりを背景に、経済成長の鈍化が鮮明となった。

党大会を間近に控えた15年、中国は輸出の減少と株価の相次ぐ急落で、景気が失速しそうになっていた。そこで、中国政府はインフラ投資の加速や小型車減税の導入で景気テコ入れを図った。そして、16年後半には景気が持ち直し17年に開催された党大会を無事に迎えた。しかし、インフラ投資を加速させた背後では、債務が膨張することとなった。そこで党大会後の17年冬、中国政府は「金融リスクの確実な防止・解消」に舵を切り、デレバレッジを進めたため、18年に入るとインフラ投資が急減速することとなった。それに追い打ちをかけたのが米中貿易戦争だった。米中対立が激しさを増す中で、それまで好調だった「中国製造2025」関連の投資にも先行き不透明感が強まり、陰りが見え始めた。そして、10月19日に中国国家統計局が公表した18年第3四半期(7-9月期)の経済成長率は実質で前年比6.5%増と、第2四半期(4-6月期)の同6.7%増を0.2ポイント下回り、2四半期連続の減速となった(図表-1)。なお、消費者物価は2%台前半で推移しており、18年の抑制目標「3%前後」を下回る水準で安定している。
その影響は株式・為替市場にも及んだ。経済成長の勢いが鈍り、米中貿易戦争で不透明感が強まる中で、中国株は大きく下落し、チャイナショック後の16年1月に付けた安値を割り込むこととなった(図表-2)。そして、株価下落は消費者マインドを直撃し、自動車販売は前年割れに落ち込んだ。また、人民元レート(対米ドル)も下落し、10年ぶりの7元台が視野に入ってきた(図表-3)。
(図表-2)上海総合の推移/(図表-3)人民元レート(対米ドル)の推移

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

【生産面の3指標】
工業生産(実質付加価値ベース)の動きを確認すると、18年1-11月期は前年比6.3%増と17年通期の同6.6%増を0.3ポイント下回った。業種別に見ると、米中貿易戦争の激化により「中国製造2025」の先行きに不透明感が浮上し、戦略的新興産業の隆盛に水を差した一方、景気悪化を受けた中国政府の景気対策で、構造不況産業は持ち直した。構造不況業種では石炭が前年比5.4%増、粗鋼が同6.7%増、セメントが同2.3%増と、低水準ながらも17年通期の伸びを上回る業種が目立った。一方、中国経済の新たな牽引役と期待される業種では、集積回路が前年比9.8%増、工業ロボットが同6.6%増と高水準の伸びを維持しているものの、その勢いは大きく鈍化しており、携帯電話は同2.4%減、自動車は同2.3%減と前年割れに落ち込んでいる(図表-4)。

他方、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)の動きを確認すると、18年5月の51.9%を直近ピークに低下傾向となり、11月は拡張・収縮の境界線となる50%まで低下した(図表-5)。また、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)も、18年9月の54.9%を直近ピークに、10月は53.9%、11月は53.4%と2ヵ月連続で低下した。ただし、非製造業PMIは、境界線を大きく上回る水準にある上、同予想指数は60.9%と高水準を維持していることから、さらに落ち込む可能性は今のところ小さい。なお、サービス業生産指数(価格要因調整後)は、18年3月の前年比8.3%増を直近ピークに低下傾向で、11月は同7.2%増まで低下した。
(図表-4)構造不況産業と新興産業の生産/(図表-5)製造業と非製造業のPMI
【需要面の3指標】
個人消費の代表指標である小売売上高の動きを確認すると、18年1-11月期は前年比9.1%増と17年通期の同10.2%増を1.1ポイント下回った。内訳を見ると、住宅販売の低迷を背景に家具類が同9.8%増、家電類が同8.3%増と17年通期の伸びを下回った。また、自動車も小型車減税撤廃の影響や、米中貿易戦争による株価下落で消費者マインドが悪化したことなどから同1.6%減と前年割れとなった。ただし、消費者信頼感指数は足元で持ち直しの動きが見られる(図表-6)。また、電子商取引(EC、商品とサービス)は、その勢いはやや鈍ったものの、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)などプラットフォーマーが新たな消費を生み出す流れは続いており、同24.1%増の高い伸びを維持した。

次に、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを確認すると、18年1-11月期は前年比5.9%増と17年通期の同7.2%増を1.3ポイント下回った。内訳を見ると、中国政府が「金融リスクの確実な防止・解消」を目的に債務圧縮(デレバレッジ)を進めたことから、インフラ投資が前年比3.7%増と17年通期の同19.0%増を大きく下回ることとなった。一方、構造不況業種とみられていた鉄精錬加工は前年比13.0%増と高い伸びを回復した。過剰生鮮設備を抱える鉄精錬加工の回復には違和感もあるが、環境対策関連の投資が加速したものと見られる。また、「中国製造2025」関連のコンピュータ・通信機器等は同19.1%増、科学研究等は同12.8%増と高い伸びを示し、消費主導への構造転換が追い風となっている文化・体育・娯楽は同22.2%増と伸びが加速し、不動産業も同8.2%増と17年通期の同3.6%増を上回る伸びを示した。

一方、もうひとつの経済の柱である輸出(ドルベース)の動きを確認すると、18年1-11月期は前年比11.8%増と17年通期の同7.9%増を大きく上回る伸びを示した。ただし、輸出先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)は低下傾向となっており、ここもと6ヵ月連続で50%を割り込むなど、輸出の先行きには暗雲が漂う。また、中国税関総署が発表してきた貿易輸出先行指数の公表が18年4月以降止まっている点も、輸出の先行きに対する不安を増幅させている(図表-7)。
(図表-6)消費者信頼感指数/(図表-7)輸出の先行指標
【その他の重要な4指標】
電力消費量の動きをみると、18年1-11月期は前年比8.5%増と17年通期の同6.6%増を1.9ポイント上回った。ただし、ここもと18年8月の前年比8.8%増をピークに低下、9月は同8.0%増、10月は同6.7%増、11月は同6.3%増と3ヵ月連続で低下してきた。貨物輸送量は前年比7.2%増と17年通期の同9.3%増を2.1ポイント下回った。輸送手段別にみると、水路貨物は同4.7%増と17年通期の伸びを上回ったものの、鉄道貨物、道路貨物、航空貨物が17年通期の伸びを大きく下回った。また、工業生産者出荷価格の動きをみると、ここもと18年6月の前年比4.7%上昇をピークに5ヵ月連続で低下、11月は前年比2.7%上昇に留まった。内訳をみると、18年11月にはエネルギーなど採掘工業が前月比1.3%下落したのに加えて、鉄鋼などの原材料も同1.1%下落、生産財の需給は緩んできたようだ。そして、金融面の代表指標である通貨供給量(M2)は、11月も前年比8.0%増と低い伸びが継続している。中国人民銀行が預金準備率を引き下げたことを受けて、商業銀行の融資姿勢には緩む兆しがあるものの、景気下支え効果は今のところ限定的である。
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三尾 幸吉郎

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