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EIOPAが非流動性負債に関する方法論の検討に関するフィードバックを要求-LTG措置の検討をスタート-
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次にここでは、フィードバック要求の具体例として、「3.3ストレス下でのキャッシュフローの変動に基づく非流動性の測定」のうちの「3.3.1検討されるアプローチの説明」の内容を紹介することで、今回のEIOPAの報告書がどのような内容のものであるかを紹介する。
この項目においては、EIOPA(のPG)は、ストレスシナリオ適用後の非流動性を測定する2つのアプローチを紹介しており、ステークホルダーに対して、これらの負債の予測可能な部分を測定するためのアプローチに対する意見、及びもしあれば代替的なアプローチの提案等を求めている。
3.3ストレス下でのキャッシュフローの変動に基づく非流動性の測定
負債の流動性を判断する別の方法は、負債のどの部分が異なるストレスシナリオで影響を受けないかを決定することである。この節では、3.3.1において、いくつかのストレスシナリオ適用後の非流動性を測定する2つのアプローチと、適用可能ないくつかのストレスを概説する。読者は、これが探求されている可能性のあるアプローチのほんの1つであり、今後EIOPAがそれを追求しない可能性があることに注意する必要がある。
3.3.1検討されるアプローチの説明
非流動性にアプローチするもう1つの方法は、ストレス状態のキャッシュフローの変動性を見ることである。EIOPAは2つのアプローチを検討している。説明のために、いつでも解約できるオプションを備えた貯蓄契約を保有している生命保険会社を仮定する。簡素化のため、将来の保険料支払いは見込まれず、費用支払いは無視される。期待される給付支払額は、T = 1では100、T = 2では100、T = 3では100であると仮定される。この例では、割引率とリスクマージンを無視し、FDBを仮定しない場合、T = 0で300となる。
第1のアプローチでは、累積行は、T = t後のキャッシュフローの合計を示す。これは、ベースケースでは、T = 0、1及び2でそれぞれ300、200及び100の準備金が保持されることを意味する。
関連するストレス・キャッシュフローは、「ストレスケース」の行に記載されている(その決定については、「生命及び損害保険事業のストレスシナリオ」参照)。
ストレス条件下での給付支払を満たすために、T = 1、2及び3で、それぞれ325、250及び50の準備金が保持されるべきであると推測することができる。
従って、負債の予測可能な部分を、各年に保持される最低限の準備金、すなわち、各年の「ベースケース」及び「ストレスケース」における累積行の最小金額と定義することができる。従って、負債の予測可能な部分は、ベースとストレスケースで想定される給付支払額を満たすために保有される最小限の準備金に対応している。
第2のアプローチでは、累積行にはT = tまでのキャッシュフローの合計が含まれる。上記のように、関連するストレスがキャッシュフローに及ぼす影響は、「ストレスケース」の行の数字で把握される。
その結果、毎年の負債の非流動性部分は、T = 0(TP0)における技術的準備金から 今年までの最大累積期待給付支払額を差し引いたもの、即ち、(TP0)から、ベースとストレスケースの累積行の最大金額を引いたもの、と定義することができる。次に、負債の予測可能な部分は、保険契約者への支払後の元の技術的準備金(TP0)の最小残存額に相当する。
これらのアプローチにより、負債キャッシュフローが一定のストレスに対してあまり敏感でなくなる結果として、保証の影響が反映される。
今のところ割引は考慮されていない。遠い将来のキャッシュフローは、近くのキャッシュフローよりも、現在の負債の非流動性にあまり影響を及ぼさないだろう、ということが、割引に有利な論拠となる可能性がある。1つの反対議論は、負債キャッシュフローが金利に依存している場合に一貫性を確保する必要があることである。
ステークホルダーへの質問:
(15)負債の予測可能な部分を測定するために記載されたアプローチに関するご意見はありますか? 代わりのアプローチを奨励しますか? 説明してください。
(16)上記2つのアプローチの文脈における割引キャッシュフローの使用についてのあなたの意見は何ですか? 割引の場合は、どの割引率を使用すべきですか?
(17)負債の非流動性部分を決定するためのこの方法の運営上の困難性は何ですか?
4―まとめ
保険負債の非流動性及びそれに対応する資産に関係する問題は、極めて重要なテーマであり、今回のEIOPAによる各種の視点に基づく方法論の検討は、欧州の保険業界にとってのみならず、他の地域の保険業界にとっても、大変示唆に富んだものになっていると思われる。
今後は、今回のフィードバック要求への反応を踏まえて、まさに多くの人が注目しているLTG措置の見直しの議論等が行われていくことになる。
その意味で、今回のEIOPAによる報告書の中に盛り込まれている方法論に対する関係者の反応及びそれを受けての今後のEIOPAの検討状況等については、日本の保険業界関係者にとっても、極めて関心の高い事項であると思われることから、今後もこのテーマに関する検討の動きについては引き続き注視していくこととしたい。
(2018年11月26日「保険・年金フォーカス」)
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