2018年11月19日

インドにおけるリスクベースの監督(Risk-based Supervision)を巡る動向-IMFのFSAPでの指摘等を受けてのIRDAIの動き-

保険研究部 取締役 研究理事   中村 亮一

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3―IRDAIによる今回の通達の内容(2018年10月)

IRDAIが、10月4日に公表した通達「保険部門の『リスクに基づく監督』への移行(Moving towards ‘Risk Based Supervision’of the Insurance Sector)」1は、今後のインドにおける「リスクベースの監督枠組み」についての検討の考え方等を示した。

この中で、IRDAIは、現在のコンプライアンスベースの監督アプローチから、リスクベースの監督(RBS)に向かって移行するための計画を策定し、現在の規制・監督体制の見直しに着手する、と説明した。
1|今回の通達の内容
まずは、インドにおける保険業界全体の監督のために「リスクベースの監督枠組み」(以下、RBS又はRBSFと呼ぶ)を採用する過程にあるとし、当局は、現在の規制及び監督体制の見直しを行い、リスク管理の仕組みを保険監督に組み入れ、全体的な監督のための適切な枠組みを準備するための「RBS」への移行計画全体を策定する予定である、とした。

IRDAIは現在コンプライアンスに基づく監督アプローチを採用しているが、新しいRBSの下では、規制されている各会社は、その「リスクプロファイル」とそのリスク全体に基づいて評価される。リスクプロファイルは、固有リスクのレベルとその周辺の制御メカニズムに基づいて、企業がさらされている重要なリスクを決定することによって生成される。これらのリスクは合計され、利用可能な資本、流動性及び収益に照らしてリスク格付けが決定される。

これにより、当局は、他よりもリスクの高い会社にもっと集中できるようになる、と述べた。また、これにより、当局はその資源を効率的に使用し、効果的な監督を達成することができる、とした。

通達では、「保険監督のためにRBSフレームワークを採用する利点」及び「RBSに向かう過程で、規制された会社の機能に想定される一定の変化」についても述べている。

IRDAIは、選択された会社についてパイロットプロジェクトを実施した後、保険会社や仲介業者から段階的に実施すると述べた。また主要な段階で、継続的に業界プレイヤーとの協議が行われる、とした。

また、IRDAI内では、RBSの実施アプローチを提案し、円滑な移行を達成するための実施委員会が結成された。さらに、当局は、RBSの開発段階において、継続的に業界に最新の情報を与え続け、必要に応じて業界を適切に関与させる、とした。

加えて、保険会社や仲介業者は、遂行する各活動のリスクの特定に重点を置き、そのようなリスクを組織文化の中で軽減するために、そのようなリスクの内部評価と対応する管理メカニズムを可能にするフレームワークを構築する措置を開始しなければならない、と述べた。

通達の具体的な内容は、以下の通りである。

保険部門の「リスクに基づく監督」への移行

1.インドの保険監督当局(以下「当局」という)は、インドにおける保険業界全体の監督のために「リスクベースの監督枠組み」(以下、RBS又はRBSFと呼ぶ)を採用する過程にある。当局は、現在の規制及び監督体制の見直しを行い、リスク管理の仕組みを保険監督に組み入れ、全体的な監督のための適切な枠組みを準備するための「RBS」への移行計画全体を策定する予定である。

2.現在、当局は、主にコンプライアンスに基づく監督アプローチに焦点を当てている。 20年の期間にわたって、監督される会社の数は増加している。コンプライアンスアプローチを監督するには、規模、ビジネスモデル、重要な活動の性質にかかわらず、全ての規制対象企業に同じ基準を適用する必要がある。代わりに、RBSの下で、規制されている各会社は、その「リスクプロファイル」とそのリスク全体に基づいて評価される。これにより、当局は、他よりもリスクの高い会社にもっと集中できるようになる。その範囲内で、当局はその資源を効率的に使用し、効果的な監督を行う立場にある。

3.RBSフレームワークは、保険者が自己や金融システム全体に及ぼす様々なリスクを考慮する。 各会社のリスクプロファイルは、特定の監督行動計画に関連して、事業所外のモニタリング、現場検査、会社との構造化された会議を含む監督行為計画を決定する。

4.典型的なリスクベースの監督におけるリスクの評価には、一定の基準に基づく重要な活動の識別、すなわち固有のリスクの特定、重要な各活動に関わる正味のリスクの理解につながるリスク周辺に構築された管理メカニズムの検査が含まれる。異なる重要な活動に対する純リスクの集計は、「総純リスク」をもたらす。資本、流動性及び収益の形で企業に利用可能な追加的な支援は、企業の全体的なリスク評価を反映するために、総純リスクに対して適切に調整される。

5.保険監督のためにRBSフレームワークを採用する利点は、以下のように要約できる。
a.会社内部と外部環境の両方で様々なリスクを評価するのに役立つ構造化アプローチ。
b.RBSはフォワードルッキングで実績ベースであり、財務健全性を確保するために取締役会及び企業の上級管理職の責任を重視している。
c.企業の全体的なリスクプロファイルに応じてタイムリーな規制介入が可能となるよう、早期に市場行為及びプルーデンスの側面に関連する様々なリスクの特定を容易にする。

6.IMFと世界銀行は、2017年の最近の金融セクター評価プログラムの報告書において、当局がリスクベースの監督アプローチへの移行することを勧告した。 IAISの保険基本原則では、監督当局は、オフサイトモニタリングとオンサイト監査の両方を使用して各保険会社の業務を調査し、その状況、リスクプロファイル、コーポレートガバナンスの品質と有効性を評価する監督に「リスクベースアプローチ」を採用するよう要求している。

7.近年、国際的な金融のスペクトルは、グローバリゼーションと統合に向けての傾向を目の当たりにしている。金融システムの安定性は、規制当局にとって世界的な課題となっている。インドでも、保険業界はリスクに基づく監督アプローチを要求するために過去20年間にわたる発展の段階に達している。

8.RBSに向かう過程で、規制された会社の機能に一定の変化が想定される。 主な変化は次のとおりである。
a.規制当局は、責任と説明責任の概要を明確に示すために、ガバナンスの明確な基準と、文書化された方針、手続、慣行を、整備する必要がある。
b.RBSの要件に合わせて組織構造を再検討する。
c.リスク管理文化の再検討
d.リスクに基づく内部監査の採用
e.リスク評価に必要な様々な要素を捕捉し報告するためのITとMISの改善
f.監督当局が監督行動計画の一部として随時提案する迅速な是正措置を講ずるための「コンプライアンス部門」の構築
g.スキルセットのレビュー、スタッフの広範な訓練と再配置、才能保持; 単なる遵守の代わりにリスク評価に移行する必要があるかもしれない。

9.選択された企業に対してパイロットプロジェクトを実施した後、保険会社及び仲介業者から段階的にRBSプロセスを段階的に展開し、実施の有効性及び効率をテストし、もしあればギャップを特定することを意図している。このプロセスでは、開発と実施プロセスの異なる段階で、継続的に業界プレイヤーとの協議が行われる。

10. IRDAI内では、RBSの実施アプローチを提案し、円滑な移行を達成するための実施委員会が結成された。

11.このような背景から、保険会社や仲介業者は、遂行する各活動のリスクの特定に重点を置き、そのようなリスクを組織文化の中で軽減するために、そのようなリスクの内部評価と対応する管理メカニズムを可能にするフレームワークを構築する措置を開始しなければならない。

12.局は、RBSの開発段階において、継続的に業界に最新の情報を与え続け、必要に応じて業界を適切に関与させる。

2|今回の通達を受けてのその後のアップデート
通達の中では、今回の改革のタイムラインは明言されておらず、さらには、資本要件の改革については言及されていなかった。

これに関連して、10月4日 の通達の公表後に、IRDAIはアップデートを行っている。

IRDAIは、リスクベースの監督の枠組みを策定し実施するためのプロセスが3年かかると予測している、と述べた。IRDAIは、このイニシアチブをインドの全ての保険会社に展開することを提案している。

また、IRDAIは、リスクベースの監督の枠組みがリスクベースの資本体制に移行するかどうかについては、「リスクベースの資本とリスクベースの監督の両方を導入することを検討している」と述べた。

さらに、インドの保険会社の資本要件を改革する予定及び時期については、今後検討していく、と述べた。
 

4―まとめ

4―まとめ

ここまで、今回のレポートでは、インドにおけるRBS導入を巡る動きについて報告してきた。

インドの保険市場自体は、未だ発展途上にあるが、会計基準や資本基準に関しては、IRDAIは、グローバルベースでの大きな検討の流れを見据える中で、決して拙速に走ることなく、インドの保険市場の置かれているポジションや現在の発展段階に応じて、必要な対応を行っていこうとしているように見える。

インドの保険市場は今後の大きな進展が期待されている市場であり、世界各国の保険会社が注目している。その意味で、インドにおけるRBS導入を巡る動きについては、今後も引き続き注視していくこととしたい。
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保険研究部   取締役 研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2018年11月19日「保険・年金フォーカス」)

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