2018年10月30日

Brexitに向けての英国政府の対応-No-deal(合意なし)シナリオも踏まえた保険監督当局等の検討状況-

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(2-3) 個人及び法人顧客- EEAで事業展開している英国会社の(海外在住の英国市民を含む)EEA顧客
これとは対照的に、EUからの行動がない場合には、現在EEAにパスポート権で事業展開している英国会社のEEAベースの顧客は、EEAに居住している英国の市民を含めて、英国の会社がEEAにパスポート権で事業展開する権利を失うため、既存の貸付や預金サービス、保険契約(生命保険契約及び年金保険のような)に対してアクセスすることができなくなるかもしれず、これは、これらの会社が既存の商品のサービスを継続する能力に影響を与える可能性がある。

例えば、英国の投資銀行は、EU全体の法人顧客に対して、資本市場を通じて、投資サービスや資金調達を提供しており、英国は欧州の投資銀行の主要な中心地である。EUの行動がない場合、EEA顧客はもはや英国の投資銀行のサービスを利用することができなくなり、英国の投資銀行は既存の国境を越える契約に対応できなくなる可能性がある。

政府は、必要に応じて、これらの問題をできる限り英国側で解決するために、一方的な行動をとることにコミットしている。例えば、政府は、英国がEUを離脱してからの期間も含まれる場合を含めて、承認日から12ヶ月間の残りの期間有効であるように、離脱前に英国で有効な目論見書(異なるEU加盟国の管轄当局によって承認されたものを含む)を引き続き取り扱うことをコミットしている。

しかし、英国当局は、現在金融サービスパスポートを使用してEEAにサービスを提供している英国会社のEEA顧客に対するリスクに完全に対処する一方的な行動はできない。政府は、こうしたリスクを特定し対処するために、EUパートナーと協力することにコミットしている。

現在EEAにパスポート権で事業展開している多くの英国の金融サービス会社は、新しいEU認定子会社を設立するなど、離脱後も引き続き事業を継続できるように対策を講じている。これにより、英国会社はEEA子会社を通じて離脱後に新しいサービスを提供することができ、場合によっては既存契約を新しい会社に移転することができる。

(3) 金融サービス会社とファンド
財務省は、英国がEUを離脱する時点で、完全に機能する金融サービス規制の枠組みが存在することを確実にするために、EU(離脱)法2018に基づき、法律を制定する際にステークホルダーとの関わりを続けている。

この段階では、会社は、移行期間が2019年3月から2020年12月までになるとの前提で計画し、規制当局からの指針に引き続き従い続けるべきである。

規制当局は、EEAパスポートを使用して現在英国で事業展開又はマーケティングを行っているEEAの会社やファンドがどのような行動を取る必要があるのかを規定し、今後詳細を提供する予定である。

英国で規制された活動を続けることを望まないか、又は認可の申請に失敗した会社については、彼らが英国で規制された活動を規則正しく中止するように規定がなされている。

EUが継続性を維持するために行動しない限り、EEAにパスポート権で事業展開している英国の金融サービス会社は、離脱時にそれを行う能力を失うことになる。これは、EEAの許可がなく、そうすることが、関連する加盟国の規則及び第三国に適用される適用可能なEU規則に違反することになる場合に、EEAベースの顧客との契約上の義務を果たす能力に影響を及ぼす可能性がある。

政府は、必要ならば、英国側でこの問題を解決するために一方的な行動をとることにコミットしている。しかし、これはリスクに十分対処するには不十分であり、EUとの協調行動が必要である。その一例は、英国とEUの金融会社間のデリバティブ契約であり、サービス提供の継続性を支持するために、両方の監督当局から許可が必要となる可能性がある。政府は、こうしたリスクを特定し対処するために、EUパートナーと協力することにコミットしている。

EUの法律に基づき、ファンドマネージャーは、EU以外の国を含む他の国の第三者にポートフォリオ管理サービスを委任することが可能である。関連するEU法の下で認可されたファンドと管理者に関しては、関連EU加盟国の監督当局と関連する非EU加盟国との間の協力のための要件が​​ある。英国当局は可能な限り速やかにEU相手国との協定に同意する用意ができており、これは英国を他の第三国と連動させるための技術的訓練である。そのような取り決めを整えるつもりがないとEUが確認しない限り、資産管理会社は委任モデルが継続することを前提として引き続き計画を立てることができる。

(4) 金融市場インフラ(FMI
英国清算機関(CCP)を使用している英国に拠点を置く清算メンバー(例えば、英国清算メンバーの英国に拠点を置く顧客)は、EU離脱の結果として何らかの行動を取る必要はない。

英国以外のCCPs(EEA のCCPsを含む)の英国ベースのユーザーが、EU離脱の結果として、大きな影響を受けないことを確実にするため、政府は、英国以外のCCPsが引き続き3年まで英国へのサービスを提供できるような暫定的な制度を提供している。暫定的な制度に入るために、英国以外のCCPsは、イングランド銀行に、離脱前に英国で清算サービスを提供し続けることを通知しなければならない。イングランド銀行はこれについての詳細な情報を適時に提供する予定である。しかし、EUの行動がなければ、EEAの清算メンバー及び取引所は、清算サービスを提供するために、もはや英国のCCPsを使用することができなくなる。さらに、EEAの顧客は、金利スワップなど、英国のCCPsによる清算によって清算義務の対象となる一部の商品について集中的に清​​算するための要件をもはや満たすことができなくなる。

英国証券集中保管機関(CSD)は、現在、英国及びアイルランドの両方の市場にサービスを提供している。英国の証券を英国CSDで決済する顧客の場合、離脱の結果として変更はない。EU当局及びEU諸国による措置が取られていない場合、EUの証券はもはや英国で直接決済することができなくなる可能性がある。

EU加盟国を含む英国以外のCSDsの英国顧客に重大な影響がないことを確実にするため、政府はこれらのCSDsに移行的な規定の恩恵を受ける法律を提出している。これらのCSDsは、同等性と認識の決定が下されるまで、英国にサービスを提供し続けることができる。この制度の詳細は、2018年9月に英国財務省とイングランド銀行が提供する予定である。

英国ファイナリティ規則(SFR)の下で、離脱日に既に指定されているFMIsに対しては、いかなる行動も取る必要はない。英国の破産に関しての指定は続く。

英国がEUを離脱すると、指定された金融市場インフラストラクチャー(FMIs)が破綻行為からの保護の恩恵を受けることを可能にするEUファイナリティ指令(SFD)枠組みの一部ではなくなる。政府は、SFDを実施するSFRによって付与された保護を継続するための立法を進める意向であると発表した。この法律は、英国以外の金融市場インフラストラクチャー(FMIs)の指定を可能にし、イングランド銀行にこれらのFMIsを指定する権限を与えるものである。この法律は、一部の英国以外のFMIsが現在EUファイナリティ指令によって提供されている英国の保護から恩恵を受けることを可能にする暫定的な制度を提供する。

英国のFMIsを指定するEUの行動がなければ、英国のFMIsに対するEUのファイナリティ保護は中止される。これは、EU顧客がこれらのFMIsに高いリスクを提示し、もはやそのサービスにアクセスできなくなる可能性があることを意味する。

EUの行動がなければ、英国がEUを離脱すると、英国の取引所はもはやEUの取引所の資格を失うだろう。これは、彼らの国内法の下では、EEA会社が英国の会場のメンバーに加わることができない可能性があることを意味する。英国の会場はまた、EEA会社が特定のエクイティ及びデリバティブ取引を行う会場にもならない。これは、EEA会社が特定のデリバティブで取引することを妨げる可能性があり、EU内で代替可能な場は存在しない。これにより、英国とEUの市場流動性が低下する。

英国に現在パスポートを有しているEUの市場運営者は、英国の会社を彼らの市場に参入させるためにFCAによって認知される必要はない。しかし、英国で規制された活動を行うEU市場運営者は、認知された海外投資取引所としての認定を求めるべきである。さらに、英国に本拠を置く会社は、もはや、EEA取引所で一定のエクイティ及びデリバティブ取引を引き受けることができなくなる可能性がある。しかし、代替の英国及び国際的な会場が存在し、英国の市場参加者に利用可能となるだろう。

政府は、離脱後に英国及び英国以外の信用格付け機関(CRAs)及びトレード・リポジトリ(TRs)の両方を認可し、規制する権限をFCAに与える予定である。政府は英国のCRAsとTRsに彼らの既存のEU認可を英国の認可に転換できる権限をFCAに付与する予定であり、転換する英国のCRAsとTRsの英国顧客は何らの行動も起こす必要はない。

EUが何らの措置も講じないと、EEA会社はこれらの英国会社にアクセスできなくなる。

EUが、英国ベースのCRAsを同等と承認する行動を取らなければ、英国ベースのCRAsの格付けは、英国がEUを離脱すると、もはや規制目的のためにEUで使用することはできなくなる。

政府は、EU のCRAsとTRsの英国の顧客への影響を最小限に抑えるために、暫定的な制度を導入することを法制化しようとしている。TRs及びCRAsの制度の詳細は、2018年9月に財務省が提供する予定である。

(5) データ共有
政府は、英国とEUの間での個人データの転送に関する技術的な通知を公表する予定である。英国とEUの間で個人情報を受け取り、又は譲渡する組織(金融機関を含む)が、合意なしで英国がEUを離脱することに対して準備する場合のさらなる詳細については、この文書を参照すべきである。
(6) さらなる情報提供
財務省は、EU(離脱)法 2018に基づく金融サービス法へのアプローチ7の詳細を公表している。法案と政策ノートのドラフトも、議会に提出されている法律へのリンクと共に、以下のサイトで見つけることができる。

https://www.gov.uk/government/collections/financial-services-legislation-under-the-eu-withdrawal-act

FCAは、Brexitに向けた準備8に関する会社の指針を公表した。

イングランド銀行は、EU(離脱)法2018に基づく金融サービス法へのアプローチ9を定めた文書を発行している。

FCAは、会社やFMIs(Financial Market Infrastructure:金融市場インフラ)がどのような行動を取るべきかを含む暫定的許可制度10についての情報を公開している。

PRAは、会社やFMIsがどのような行動を採るべきかを含む暫定的許可及び暫定的認識制度11についての情報を公開している。

この技術的な通知は、必要に応じて更新される。

この通知は、指針のためだけのものである。具体的な準備をする前に専門的な助言が必要かどうかを検討する必要がある。

これは、全ての可能な結果を計画するための政府の進行中のプログラムの一環である。英国政府は、EUとの成功した取引交渉が行われることを期待している。
5|今回のガイダンスに対する反応
EUの監督者、英国の保険会社及びその他の金融会社は、今回の技術的なNo deal通知に対して、様々な反応を示している。

(1)EIOPA(欧州保険年金監督当局)
Brexitに関しては、EIOPAは、2018年5月に「英国のEUからの離脱を踏まえた保険及び再保険会社のソルベンシー・ポジションに関する意見(Opinion on the solvency position of insurance and reinsurance undertakings in light of the withdrawal of the United Kingdom from the European Union)」を公表12して、各国監督当局が、Brexitに伴う、保険及び再保険会社のソルベンシー・ポジションに対するリスクに適切に対処することを確実にすることを呼びかけた。この内容については、保険年金フォーカス「Brexit(英国のEU 離脱)に伴う14のソルベンシーリスク-EIOPA が保険会社のソルベンシー・ポジションに関する意見書を公表-」(2018.6.26)で報告した。

この中で、EIOPA会長のGabriel Bernardino氏は、「リスク管理において、特に保険会社は、英国が第三国になり、内部市場を離れるというシナリオに備えるべきである。国家監督当局が各国の市場へのリスクを監視し評価し、タイムリーで効果的な監督を行うことが重要である。」と述べた。
(2)ABI(英国保険会社協会)
ABIの規制担当ディレクターであるHugh Savill氏は、「Brexitの契約問題に対処するための規制上の取引に緊急の合意が必要」とのコメントを公表13した。

さらに、「今日のペーパーでは、保険会社が来年3月末以降にEUに拠点を置く顧客に対して支払いを行うことができないリスクを強調している。」とし、さらに「明らかに保険会社は顧客に対する約束を守りたいが、この問題は海外の英国の年金受給者を含む何百万人もの保険顧客に影響を与える可能性がある。EU当局がそうしたいと望むならば、英国とEUの規制当局間の協力によって解決することができる。保険会社はもちろん、今、自社の事業のためのコンティンジェンシー・プラン(Contingency Plan)を何ヶ月も作ってきているが、この契約上の問題は、保険会社自身が対処できるものではない。」と述べた。

(参考)Brexitに向けた英国保険会社の対応
英国保険会社のいくつかは、No deal Brexitの(好ましくない)結果を緩和するために、EU子会社を設立する努力を強化している。

現在、EUのビジネスにアクセスするためにパスポート権を使用している英国の保険会社は、Brexit後には、既存のEUの契約に対する請求に対応できないという潜在的な問題について、より真剣に受け止めており、これへの政府レベルでの緊急の対応を求めている。
(3) TheCityUK
英国に拠点を置く金融及び関連するプロフェッショナルサービスを代表する業界主導の団体であるTheCityUKの最高経営責任者のMiles Celic氏は、コメントを公表14して、政府の行動を歓迎した。

「今日のペーパーは、英国政府が潜在的な混乱のリスクを最小限に抑えるために取っている、賢明で実践的な行動をまとめたものである。我々は、欧州委員会とEU加盟国に対し、できるだけ早く自らのコンティンジェンシーを導入するように促す。」と述べた。

さらに、「緊急の課題リストのトップは、契約の継続性の未解決の問題に取り組む必要性である。業界も英国もこれを自分たちだけで解決することはできない。これは、顧客やクライアントに影響を与える現実的な問題である。EU当局がそれに取り組む時が来た。」と述べた。
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中村 亮一

研究・専門分野

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