2018年10月22日

PrudentialがSIFI指定解除され、米国におけるノンバンクSIFIがゼロに-FSOCの公表内容と関係者の反応等-

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説明資料のうちの「1.概要」と「2.3.年次再評価の結論のまとめ」の具体的な記載については、以下の通りとなっている。
 

1.概要
ドッド・フランク法の第113条(d)は、金融安定監督評議会に対して、年に1回以上、Prudentialの重大な財務的苦境が米国の金融の安定性を脅かす可能性があり、Prudentialが連邦準備制度理事会(理事会)の監督と強化された健全性基準に従わなければならない、という決定を再評価することを求めている。評議会は、Prudentialの分析を行う上で、Prudentialが提出する書面による資料、Prudentialとノンバンク金融会社指定委員会(ノンバンク指定委員会)のスタッフとの間の会合、ニュージャージー州銀行・保険局(NJDOBI)、コネチカット州保険局(CID)、アリゾナ州保険局、ボストン連邦準備銀行、理事会、連邦預金保険公社(FDIC)との協議を含む、この文書の中で引用した情報や書類に依存した。この文書の中に記載された理由により、評議会は、Prudentialの重大な財務的苦境が米国の金融の安定性を脅かす可能性があり、Prudentialが理事会の監督を受け、健全性基準の強化を受けるべきとの最終決定を撤回した。 

2.3.年次再評価の結論のまとめ
Prudentialは、米国最大の生命保険会社であり、その重大な財務的苦境は、市場参加者、取引相手方、規制当局に課題をもたらす可能性がある。これらの課題は、Prudentialの株式市場との高い相関性を考慮すると特に重要である。Prudentialの苦境は金融市場の低迷と同時に発生する可能性があることを示唆している。Prudentialの事業及び活動の特定の側面は2013年における会社に関する評議会の最終決定から、大きくは変化していない。しかしながら、評議会は、Prudentialの重大な財務的苦境が米国の金融安定性への脅威もたらす可能性の程度について、評議会の結論に重大な影響を及ぼすPrudentialに関する要因を特定している。以下は、Prudentialの重大な財務的苦境が、エクスポージャー、資産流動化、重要な機能又はサービスの伝達経路を通じて、米国の金融安定性に脅威を与える可能性についての評議会の主要な結論である。

エクスポージャー伝達経路に関して:
・Prudentialの総資本市場エクスポージャーは大きく変化していないように見える。Prudentialの長期借入金残高及び連邦住宅ローン銀行(FHLB)からの前払金は減少し、買戻契約及び有価証券貸付業務が増加した。Prudentialのデリバティブ及びデリバティブ負債の想定元本総額は増加している。Prudentialが参照企業であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の想定元本は減少している。

・グローバルにシステム上重要な銀行(G-SIB)及び他の大手銀行持株会社のPrudentialへの合計エクスポージャーは[•]であり、殆どは個人のエクスポージャーである。

・Prudentialの法人保険商品に関連するエクスポージャーは[•]である。Prudentialの重大な財務的苦境により、年金制度スポンサー、退職金制度参加者、年金制度参加者に損害を与える可能性があるが、これらの商品は、同社の重大な財務的苦境が米国の金融安定性に与える可能性のある脅威の重大な一因にはならないようにみえる。

資産流動化経路に関して:
・Prudentialは、保険契約者が要求に応じて現金を引き出すことを認めている[•]の米国一般勘定負債を有している。契約条件の下で、保険契約者による要求に応じて、2012年には現金で[•]に対して返金されえた[•]に比較して、これらの負債の約[•]は現金で[•]に対して直ちに返金されうる。米国の一般勘定負債の残りの[•]は、[•]に対して返金されうるが、しかしこれらの負債の[•]は 90日以内には支払われないため、Prudentialの資産の流動性リスクの大きな一因とはならない。

・Prudentialとのカウンターパーティの資本市場取引-特にPrudentialの短期借入金、買戻契約、有価証券貸付、デリバティブ取引-は、Prudentialの強制資産売却の規模を増加させる可能性がある。 Prudentialはこれらの活動から生じる200億ドルの負債を有している。

・Prudentialは、個別変額年金、退職及びその他の商品において、2012年末の2,530億ドルに対し、2017年末現在で3,070億ドルの分離勘定負債も有している。

・Prudentialの流動性ニーズが高まった場合に清算されるPrudentialの資産に関しては、会社の米国一般勘定投資ポートフォリオは、流動性の高い資産における[•]から[•]への増加を含めて、[•]から[•]に成長した。

・重大な財務的苦境が生じた場合におけるPrudentialの流動性ニーズを見積もるには不確実性は高いものの、リテール及び機関投資家や契約者の行動の過去の証拠と比較して、厳しい例を含む以下の分析は、Prudentialの強制資産清算が、主要市場における取引を混乱させたり、又は同様の保有持分を有する他の会社にとって重大な損失又は資金調達上の問題を引き起こすという重大なリスクではないことを示している。

・強制売却による影響分析は、他の大手金融機関と比較して、Prudentialの純資産に対する下方ショックの市場の影響が、大きくはPrudentialのレバレッジ比率の低下及び流動性の高い資産の保有の増加により、2012年から減少したことを示唆している。2017年12月31日現在、Prudentialは大手金融機関の中で、資産ショックで11位、株式ショックで16位にランクされた。

重要な機能又はサービス伝達経路に関して:
・主要事業におけるPrudentialの市場シェアは、Prudentialについての評議会の最終決定以来、安定している。

・同社は保険及び退職商品の主導的な提供者だが、これらは非常に競争の激しい市場である。Prudentialは、年金リスク移転や安定価値商品においてより、大きな市場シェアを有しているが、Prudentialのこれらのサービスの提供は、米国経済や金融システムの機能にとって重要ではない。

Prudentialの法的構造は、何百もの法人が存在しており、複雑なままである。Prudential及びその子会社は、引き続き相当な金額の業務上及び金融上の相互接続性と相互依存性を有している。これらの複雑さは、会社の破綻処理の実行可能性に障害を与え続けている。Prudentialは、その複雑さと破綻処理の実行可能性に影響を与える可能性のある規制上の枠組みにおける一定の変更及び取られた一定の措置を特定した。これらには、内部組織の変更、キャプティブ再保険会社の創設と解散、閉鎖ブロック事業の再構築、会社の資本及び流動性管理の変更、その内部負債の再編が含まれる。

NJDOBIによるPrudentialの規制における多くの変更が2012年以降に行われた。NJDOBIはニュージャージー州法の下でのPrudentialのグループ全体の監督当局であり、全社的リスクの評価を実施し調整する権限、Prudentialの保険会社子会社のリスクに関するPrudential及び関連会社の検査及びPrudentialがグループの保険会社に対する重大なリスクを認識し軽減することを保証するための措置を講じる権限を含む、いくつかの新しい権限を実施してきている。ニュージャージー州法の変更は、NJDOBIが適切と考えるときに、NJDOBIにグループ全体の監督活動を行う権限を付与している。

ここに記載された理由により、評議会は、Prudentialの重大な財務的苦境が米国の金融の安定性を脅かす可能性があり、Prudentialが理事会の監督を受け、強化された健全性基準に従わなければならない、との最終決定を撤回した。

3|FSOCのメンバーの意見
FSOCは、メンバーの意見を公表7している。

これによると、FHFA(連邦住宅金融庁)のMelvin Watt長官は、以下の見解を公表している。
評議会は、(1)ノンバンク金融会社の重大な財務的苦境は、米国の金融安定性を脅かす可能性がある、又は (2).ノンバンク金融会社の性質、範囲、規模、スケール、集中度、相互接続性又は活動のミックスは、米国の金融安定性を脅かす可能性がある、という2つの法定基準のいずれかが満たされている場合、ノンバンク金融会社に連邦制度理事会の監督と健全性基準を課さなければならない。

ところが、Prudentialの指定を取り消すための評議会の決定が明確に述べているように、「ドッド・フランク法第113条(a)に基づく第1の基準の下で、Prudentialの重大な財務的苦境は米国の金融安定性に脅威となる可能性がある、という最終決定を行った。」結果として、Prudentialが第2の基準を満たしているかどうかの評価は行われてこなかった。

Melvin Watt氏は、Prudentialが第1の基準の下で指定の基準を満たさなくなったため、その基準に基づいて撤廃されるべきであるという理事会の決定に同意する、と述べている。さらに、「私は、Prudentialが第2基準の下で評価された場合にも、Prudentialが指定解除に適格であると考えているので、本日Prudentialの指定を解除することに賛成する。」と述べている。

一方で、「FSOCは、ドッド・フランク法の第113条の規定を公正に遵守するために、会社を指定するか又は指定解除するかを決定する過程において、両方の基準を独立して見なければならない義務を負っている。」という見解を示した。

連邦住宅金融庁長官の見解
ドッド・フランク法第113条に基づき、評議会は、以下を決定した場合には、ノンバンク金融会社が連邦準備制度理事会の監督を受け、強化された健全性基準に従わなければならない、との決定を行わなければならない。

1.ノンバンク金融会社の重大な財務的苦境が、米国の金融安定性を脅かす可能性がある。 又は
2.ノンバンク金融会社の性質、範囲、規模、スケール、集中度、相互接続性又は活動のミックスが、米国の金融安定性を脅かす可能性がある。

評議会は、この2つの法定基準のいずれかが満たされている場合、ノンバンク金融会社に連邦制度理事会の監督と健全性基準を課さなければならない。

Prudentialの指定を取り消すための評議会の決定が明確に述べているように、「ドッド・フランク法第113条(a)に基づく第1の基準の下で、Prudentialの重大な財務的苦境は米国の金融安定性に脅威となる可能性がある、という最終決定を行った。」 結果として、Prudentialが第2の基準を満たしているかどうかの評価は行われてこなかった。

私は、Prudentialが第1の基準の下で指定の基準を満たさなくなったため、その基準に基づいて撤回されるべきであるという評議会の決定に同意する。しかしながら、私は、第2の基準の下で、FSOCによって何らの独立した評価がなされていないことを懸念し続けている。 AIGの反対意見で述べたように、「議会は、明らかに第2の基準を第1の基準と同等の法的根拠とみなすことを意図し、会社がたとえ第1の基準に定められているテストに合格し、財務的苦境を経験していなかったとしても、『失敗するには大きすぎる』可能性があると理解していた。」

私は、Prudentialが第2の基準の下で評価された場合にも、Prudentialが指定解除に適格であると考えているので、本日Prudentialの指定を解除することに賛成する。しかし、私は、私が以前に述べた、FSOCは、ドッド・フランク法の第113条の規定を公正に遵守するために、会社を指定するか又は指定解除するかを決定する過程において、両方の基準を独立して見なければならない義務を負っている、という見解を書面で再度述べることが重要であると信じている。

2018年10月16日
謹んで提出します。

なお、Melvin Watt氏は、この見解の中でも述べられているように、2017年6月のAIGのSIFI指定解除決定のFSOCにおいては、今回の見解で述べられているのと同様の意見を述べて、指定解除に反対していた。
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中村 亮一

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