2018年10月22日

PrudentialがSIFI指定解除され、米国におけるノンバンクSIFIがゼロに-FSOCの公表内容と関係者の反応等-

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1―はじめに

米国のFSOC(Financial Stability Oversight Council:金融安定監督評議会)は、10月17日にPrudential Financial Group(以下、Prudential)のSIFI指定を解除すると公表1した。

米国におけるSIFI指定を巡る動きについては、これまでも何回かのレポートで報告してきた。ここ1年では、AIGのSIFI指定解除に関しては、保険年金フォーカス「AIGのSIFI指定解除について-FSOCの公表内容と関係者の反応-」(2017.10.11)で、財務省のSIFI指定プロセスの見直しに関する覚書については、保険年金フォーカス「米国財務省がノンバンクSIFIの指定プロセスに関する覚書を公表-ノンバンクSIFI指定プロセスの改善方法を勧告-」(2017.12.4)で、それぞれ報告した。

AIGのSIFI指定解除については、先のレポートで報告した通りであるが、MetLifeのSIFI指定についても、2018年1月18日にMetLifeのSIFI指定解除を求める訴訟がMetLifeの勝利で終了したことから、確定した。これにより、2013年から2014年にかけてSIFIに指定された保険会社3グループの中では、Prudential のみがSIFIに指定されたまま取り残された形になっていた。

今回のFSOCのPrudential のSIFI指定解除の決定により、結果的に3社ともSIFI指定が解除されたことになる。また、これにより、米国において、ノンバンクのSIFI指定会社は存在しなくなった。

今回のレポートでは、このPrudentialのSIFI指定解除に関して、FSOCの公表内容及びこれに対する関係者の反応等を報告する。  

2―SIFI指定及びその解除を巡るこれまでの動き

2―SIFI指定及びその解除を巡るこれまでの動き

ここでは、これまでのレポートでも述べてきたように、SIFIの概念及び米国におけるSIFI指定及びその解除を巡る動きについて、報告する。

1|SIFIとは
SIFIとは、「Systemically Important Financial Institution」の略で、「システム上重要な金融機関」と呼ばれている。事業や取引規模が大きく、破綻すると金融システムに大きな影響を与える金融機関のことを示している。2008年9月のリーマンショック以降、新たな金融規制対象区分を表す言葉として使用されており、SIFIに指定されると、例えばより厳しい自己資本規制が課せられたりすることになる。

米国においては、SIFIはFSOCによって指定される。ドッド・フランク法により、連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社及びシステム上重要なノンバンク(ノンバンクSIFI)は、FRB(連邦準備制度理事会)による厳格な規制監督の対象となる。FSOCによってSIFIに指定されたノンバンクはFRBの監督下に置かれ、SIFIに指定された米国銀行と同様の健全性規制が課されることになる。

FSOCはこれまで、保険グループのノンバンクSIFIとして、2013年7月にAIG、2013年9月にPrudential 、2014年12月にMetLifeを指定してきた2

FSOCは、ドッド・フランク法の下で創設され、米国金融機関の安定性を確保するための包括的な監視を実施する。連邦金融監督者と州規制監督者、そして大統領によって任命された保険の専門家等で構成されているが、投票権を有するメンバー10名3とOFR(財務省金融調査局)及びFIO(連邦保険局)局長等の投票権を有しないメンバーに分かれ、財務長官が議長を務めている。

これに対して、国際機関であるFSB(Financial Stability Board:金融安定理事会)は、2011年11月から、経営危機に陥った場合に世界の金融システムに大きな混乱をもたらす恐れのある国際的な巨大金融機関をG-SIFIs(Global Systemically Important Financial Institutions:グローバルにシステム上重要な金融機関 )として指定し、より高い健全性を求める政策措置を課すこととしてきている。なお、G-SIFIsについては、2011年と2012年は、G-SIBs(Global Systemically Important Banks:グローバルにシステム上重要な銀行)のみだったが、2013年からは、G-SIIs(Global Systemically Important Insurers:グローバルにシステム上重要な保険会社)も、公表されてきている4
 
2 ノンバンクSIFIとしては、これらの3社以外に、GE Capitalが2013年7月に指定されていたが、2015年4月の金融事業からの撤退表明以後の金融資産の売却により、2016年6月に指定解除されている。
3 財務長官に加えて、連邦準備制度理事会(FRB)、通貨監督庁(OCC)、証券取引委員会(SEC)、商品先物取引委員会(CFTC)、連邦預金保険公社(FDIC)、連邦住宅金融庁(FHFA)、全米信用組合管理庁(NCUA)、消費者金融保護局(CFPB)の長と保険の専門性を有する独立メンバー
4 FSBによる最新の公表リストによれば、G-SIBsは30行(2017年)、G-SIIsは9社(2016年)となっている。
2|SIFI指定のプロセス
このSIFI指定のプロセスについては、以前の手法について、保険年金フォーカス「AIGのSIFI指定解除について-FSOCの公表内容と関係者の反応-」(2017.10.11)で、そのSIFI指定プロセスの見直しについては、保険年金フォーカス「米国財務省がノンバンクSIFIの指定プロセスに関する覚書を公表-ノンバンクSIFI指定プロセスの改善方法を勧告-」(2017.12.4)で報告しているので、これらのレポートを参照していただきたい。

3|SIFI指定解除を巡るこれまでの動き
AIGのSIFI指定については、2017年9月のFSOCによって解除が決定されているが、この動きについては、保険年金フォーカス「AIGのSIFI指定解除について-FSOCの公表内容と関係者の反応-」(2017.10.11)で報告した。

MetLifeは、FSOCによるSIFI指定に対して、2015年1月に、SIFI指定の撤回を求めてFSOCを提訴し、2016年4月にワシントンDCの連邦地方裁判所が、FSOCのSIFI指定を無効にする判決を出したが、これに対して、オバマ政権下でのFSOCは「我々の決定は合理的である。」と主張して、上訴していた。

MetLifeは、2017年4月に、ワシントンDCの控訴裁判所に、FSOCの控訴を保留することを求めたが、米国政府も、60日間の審理の一時停止を要請し、裁判所もこれを認める等の動きがあり、その後、さらなる審理の延長が行われていた。

結局この裁判は、トランプ政権下の2018年1月18日に、MetLifeとFSOCがMetLifeのノンバンクSIFIとしての指定解除に関する地方裁判所の決定に対するFSOCの控訴を棄却するとの共同申立てを行うことで、最終決着し、MetLifeのSIFI指定が解除された。
 

3―今回のPrudentialのSIFI指定解除の公表

3―今回のPrudentialのSIFI指定解除の公表

1|FSOCの公表内容
FSOCは、10月17日に、PrudentialのSIFI指定の解除を満場一致で承認した、と公表1した。

Steven T. Mnuchin財務長官は、「評議会の決定は、同社(Prudential)の広範な関与と、同社が金融の安定性を脅かす可能性のある重大なリスクはないことを示す詳細な分析に基づいている。」とし、「評議会は、正当な理由のない指定を取り除くために断固として行動し続けている。」と述べた。

2018年10月17日
金融安定監督評議会は、ノンバンク金融会社の指定を解除すると発表
ワシントン -金融安定監督評議会(評議会)は本日、Prudential Financial Inc. (Prudential)での重大な財務的苦境が米国の金融安定性に脅威を与える可能性があり、Prudentialは連邦準備制度理事会の監督と強化された健全性基準に従わなければならない、との決定を撤回した、と発表した。 

Steven T. Mnuchin財務長官は、「評議会の決定は、同社の広範な関与と、同社が金融の安定性を脅かす可能性のある重大なリスクはないことを示す詳細な分析に基づいている。」「評議会は、正当な理由のない指定を取り除くために断固として行動し続けている。」と述べた。

ドッド・フランクのウォールストリート改革及び消費者保護法の第113条(d)は、評議会に対し、少なくとも年に1回はノンバンク金融会社の判断を再評価するように求めている。

評議会は、満場一致で、Prudentialの指定の解除を承認した。Jay Clayton証券取引委員会(SEC)委員長は、この件について忌避され、議決権をElad Roisman SECコミッショナーに委任した。

2|FSOCの説明
FSOCは、今回の決定の基礎となる説明資料5を公開している。

これによれば、FSOCは、まずはPrudentialの重大な財務的苦境が米国の金融安定性に脅威を与える可能性の程度について、評議会の結論に重大な影響を及ぼすPrudentialに関する要因を特定した、としている。次に、Prudentialの重大な財務的苦境が、(1)エクスポージャー、(2)資産流動化、(3)重要な機能又はサービス、の3つの伝達経路を通じて、米国の金融安定性に脅威を与える可能性について、評価し、評議会の主要な結論を述べている。

(1)エクスポージャー伝達経路」に関しては、「Prudentialの総資本市場エクスポージャーは大きく変化していないように見える。」とし、さらに、例えば「Prudentialの重大な財務的苦境により、年金制度スポンサー、退職金制度参加者、年金制度参加者に損害を与える可能性があるが、これらの商品は、同社の重大な財務的苦境が米国の金融安定性に与える可能性のある脅威の重大な一因にはならないようにみえる。」としている。

(2)資産流動化経路」に関しては、「負債の[•]6は 90日かかるため、Prudentialの資産流動化リスクに大きく寄与していない。」とし、「財務的苦境が生じた場合にPrudentialの流動性ニーズを見積もるには不確実性は高いものの、リテール及び機関投資家や契約者の行動の過去の証拠と比較して、厳しい例を含む以下の分析は、Prudentialの強制資産清算が、主要市場における取引を混乱させたり、又は同様の保有持分を有する他の会社にとって重大な損失又は資金調達上の問題を引き起こすという重大なリスクではないことを示している。」とし、さらに「強制売却による影響分析は、他の大手金融機関と比較して、Prudentialの純資産に対する下方ショックの市場の影響が、大きくはPrudentialのレバレッジ比率の低下及び流動性の高い資産の保有の増加により、2012年から減少したことを示唆している。」としている。

(3)重要な機能又はサービス伝達経路」に関しては、「主要事業におけるPrudentialの市場シェアは、Prudentialについての評議会の最終決定以来安定している。」とし、「同社は保険及び退職商品の主導的な提供者だが、これらは非常に競争の激しい市場である。Prudentialは、年金リスク移転や安定価値商品においてより大きな市場シェアを有しているが、Prudentialのこれらのサービスの提供は、米国経済や金融システムの機能にとって重要ではない。」としている。

さらには、Prudentialは、「内部組織の変更、キャプティブ再保険会社の創設と解散、閉鎖ブロック事業の再構築、会社の資本及び流動性管理の変更、その内部負債の再編等の、その複雑さと破綻処理の実行可能性に影響を与える可能性のある規制上の枠組みにおける一定の変更及び一定の措置を行ってきた。」と述べた。

加えて、Prudentialのグループ全体の監督当局であるNJDOBI(ニュージャージー州銀行・保険局)は、2012年以降に、「全社的リスクの評価を実施し調整する権限、Prudentialの保険会社子会社のリスクに関するPrudential及び関連会社の検査及びPrudentialがグループの保険会社に対する重大なリスクを認識し軽減することを保証するための措置を講じる権限を含む、いくつかの新しい権限を実施してきた。」としている。

以上の分析等の結果を踏まえて、「評議会は、Prudentialの重大な財務的苦境が米国の金融の安定性を脅かす可能性があり、Prudentialが理事会の監督を受け、強化された健全性基準に従わなければならない、との最終決定を撤回した。」としている。
 
 
5 https://home.treasury.gov/system/files/261/Prudential-Financial-Inc-Rescission.pdf
6 今回の設営資料においては、機密情報保持の観点から、一部の数値等に該当する箇所において、この記号が使用されている。

(2018年10月22日「保険・年金フォーカス」)

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