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ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しを巡る動き-財務省が改正法案を提示-
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4―今回の見直し案による影響
今回の見直し案による参照利率やZZR積立額への影響については、前回のレポートでドイツの格付会社アセクラータ(Assekurata) による結果を報告しているので、ここでは概略を説明する。
10月に入って、ドイツ連邦銀行(Deutsche Bundesbank)が9月のユーロの10年スワップレートを0.988%と公表したことで、2018年1月~9月の9ヶ月平均として、2018年の現行方式による参照利率は1.88%となった。
一方で、財務省によって提案されているドラフト法案による新たな回廊法による参照利率は、2.09%又は2.10%(端数処理方法による)になる。
これらに基づいて、ドイツの格付会社アセクラータ(Assekurata) の計算によると、2018年のZZRの積立額は、現行方式による約220億ユーロから、新たな方式による約70~80億ユーロへと、約140億ユーロ程度は軽減されることになる、と想定されている。
さらに、前回のレポートで報告したように、アセクラータは長期の参照利率の推移やZZR 積立額の推移を予測しているが、それによれば、今後のZZR積立額については、現行法式による2023年に約1,500億ユーロに達するとの予測に比べて、そのピークが数年間は先延ばしにされ、より緩やかな形で長期にわたって、平準的に積み立てられていく形になる。
(1)ZZR積立のための投資評価準備金の取崩の抑制
回廊法の適用により、参照利率の低下速度が極めて緩やかになることから、ZZR積立に必要な財源が大きく減少することになる。これにより、多くの保険会社が、債券等の含み益である投資評価準備金の取崩に依存せずに、基本的には通常の業務収益からZZR積立のための財源を確保していくことが可能になると期待されている。
(2)毎年の財源圧迫による保険契約への配当への影響
回廊法の適用により、現行方式によるここ数年の多額のZZRの積立とその後の取崩という大きな変動が回避されることになる。これにより、ZZRの積立が長期的に安定化・平滑化され、各保険年度における個々の保険契約者の負担が軽減されることになる。また、毎年の剰余への影響が平準化されることで、世代を超えた保険契約者間の公平性の確保が可能になることが期待されることになる。
(3)新契約者にも恩恵
新しい方式の採用によるプラスの影響は、投資評価準備金の不均衡な取崩が抑制され、会社の長期の投資収益の安定化をもたらすことになるため、既契約者だけでなく、今後の新規契約者も恩恵を受けることになる。
5―今回の見直し案(ドラフト法案)に対するコメント
1|GDV(ドイツ保険協会)
GDVは、今回の改正を歓迎するコメントを公表3している。
これによれば、GDVは、「変更された方法論は、準備金の進展、予定利率の削減及び資金調達要件の改善をもたらす。被保険者は、より公平な利益参加の恩恵を受ける。」と述べている。
また、現在の金利のままで推移した場合に、今回の改正が無ければ、ZZRは2023年に1,350億ユーロとなり、その後直ぐに再び取り崩されていくことになるが、新しい方式によれば、2024年までにZZRは約800億ユーロに増加していくことに留まり、安全クッションとしての役割を保持しつつ、不必要に加速して積み立てられることなく、適度に成長していくことになる、と述べている。
さらに、「提案された調整は、2018年の法的及び計画の確実性を保証するために、できるだけ早く実施されるべきである。」として、法案の早期成立を要望している。
2018年9月28日
保険業界は追加責任準備金(ZZR)に対する提案された改正を歓迎する
ドイツの保険業界は、追加責任準備金(ZZR)の計算の変更に関する連邦財務省の提案を明白に歓迎する。結果として、変更された方法論は、準備金の進展、予定利率の削減及び資金調達要件の改善をもたらす。被保険者は、より公平な利益参加の恩恵を受ける。
追加責任準備金(ZZR)は、新興の低金利フェーズにおいて、被保険者の保証給付の長期資金調達のための追加バッファーを構築するための有効な手段として、2011年に導入された。合計で、2017年末にZZRに約600億ユーロが留保された。変更がなければ、ZZRの構造は今後数年間に一定の金利において不必要に加速することになる。それは2023年に倍増して1,350億ユーロとなり、その後直ぐに再び取り崩されていくことになる。
安全クッションは保持される
このハンプバックは、保証を融資するために不必要な支出を生み出し、異なる世代の被保険者に不均衡な負担をもたらす。金利回廊の導入が提案されたことで、2024年以降のZZRのさらなる発展と予想される削減は、被保険者の保証給付のキャピタルゲインと資金調達要件とよりよく調整されることになる。これまでに構築された安全クッションは維持され、又は適度に拡張される。変化のない金利環境では、新しい方法論は、2024年までにZZRが約800億ユーロに成長することを可能にする。その時、保険会社は、全ての保証に対して約1.25%の利息を得なければならなくなる。
提案された調整は、2018年の法的及び計画の確実性を保証するために、できるだけ早く実施されるべきである。
DAV(ドイツ・アクチュアリー会)は、以下のコメントを公表4している。
これによれば、DAVは、「法案で提案されている保険数理上の引当金繰入額の改正は、保険契約者に付与された金利保証を確保するために保険会社の資金を持続的に使用することを可能にする。DAVは、現在の金利環境を踏まえた対応が急務であることを踏まえて、改訂された手続きが2018年の財務諸表に適用されることを非常に肯定的なことであると考えている。」と述べて、GDVと同様に、財務省の法案に賛意を示すとともに、2018年での対応の必要性を強調している。
2018年9月24日
2018年9月14日のVAGに従って命令を改正する第3の命令のドラフトについて
追加責任準備金(ZZR)の変更
2011年に導入された追加責任準備金は、ドイツ・アクチュアリー会(DAV)の観点から、近年の生命保険の安定化に大きく貢献している。しかし、低金利の継続的な期間において、責任準備金命令(DeckRV)及び年金基金監督命令(PFAV)に定められた基準金利の決定方法は、新たな金利の状況に適応されるべきであることが明らかになった。
したがって、DAVは、基準金利の年次変動が将来制限されるべきであるという事実を明確に歓迎する。その結果、追加責任準備金の設定と償還の両方が、従来の方法よりも現在の金利状況により適した適切なステップで行われる。これは、2011年と比較した現在の金利状況に適用されるだけでなく、可能な将来の金利の可能性の非常に広い範囲にも適用される。法案で提案されている保険数理上の引当金繰入額の改正は、保険契約者に付与された金利保証を確保するために保険会社の資金を持続的に使用することを可能にする。
DAVは、現在の金利環境を踏まえた対応が急務であることを踏まえて、改訂された手続きが2018年の財務諸表に適用されることを非常に肯定的なことであると考えている。
6―まとめ
保険業界は、今回の法律改正が、例えば夏までにというような形で、より早期に行われることを期待していたが、実際には2018年の第3四半期末を迎えても最終的には決着していない状況になった。ただし、今回の財務省のドラフト法案の提示及びそれに対する関係団体からの反応を受けて、一定の決着が図られ、年内に改正が実現されていくことが想定されている。
生命保険各社の間では、2018年決算に向けて、今回の改正を一定程度織り込んで、投資評価準備金の実現化等の対応を抑制してきた会社が多いようであるが、一方で既に改正前の現行方式に基づいた財源計画を立てて、財源の実現化を図ってきた会社もあるようである。その意味では、まさにGDVやDAVが要望しているように、各社の決算対策に関係する不確実性の解消に向けて、今後できる限り早期に法案が成立していくことが望まれることになる。
ドイツのZZR制度については、日本の生命保険会社等にとっても非常に関心の高いテーマであることから、今後のZZR制度を巡る法案の動向等については、引き続き注視していくこととしたい。
(2018年10月15日「保険・年金フォーカス」)
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