2018年10月12日

貸出・マネタリー統計(18年9月)~銀行貸出に2つの底入れ感

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 貸出の伸び率は底入れ

(貸出残高)
10月11日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.33%と前月(同2.16%)から上昇した(図表1)。上昇は2ヵ月連続となる。

地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.4%(前月は3.5%)と前月からやや低下したが、都銀等の伸び率が前年比1.1%(前月は0.7%)と大きく上昇したためだ(図表2)。規模別に見ると(8月分まで)、大・中堅企業向けの復調が鮮明であり、M&A向けが回復している可能性がある(図表3)。貸出の伸び率は今年7月にかけて低迷ぎみであったが、底入れ感が出てきた。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)個人による貸家業向け貸出
次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を確認すると、直近判明分である8月の伸び率は前年比2.28%と7月の2.16%から0.13%上昇した。見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率はこの間に0.19%上昇していたが、外貨建て貸出における為替変動の影響が残高の押し上げに働いていたため、特殊要因調整後の伸びは見た目よりもやや限定的となった。

9月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、同月のドル円レートの前年比円安幅(見た目の伸び率の押し下げ要因)は8月からほぼ変わっていないため、特殊要因調整後の伸び率も見た目の伸び率と同程度上昇し、前年比2.4%台に乗せたと推測される。
 
なお、今後はアパートローン(投資用不動産向け融資)の動向が注目される。昨年来、市場の過熱感が問題視されたことで新規貸出が減速していたが、今後はさらにスルガ銀行問題の影響が懸念される。銀行貸出全体への影響は限定的とみられるが、多くの銀行で同分野での貸出スタンスが慎重化している模様であり、貸出伸び率の抑制に働く可能性がある。
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは8月分まで。
(図表5)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
8月の新規貸出平均金利は、短期(一年未満)が0.548%(7月は0.661%)と前月からやや低下したが、長期(1年以上)は0.885%(7月は0.792%)と上昇した(図表5)。もともと月々の振れが大きい統計である点には留意が必要だが、長期の伸び率は日銀がマイナス金利政策を適用開始した2016年2月以降で2番目に高い水準となった。

日銀が7月末の決定会合で長期金利誘導目標の変動幅拡大を許容して以降、長期金利は0.1%台へとやや上昇しており、このことが長期貸出金利の上昇圧力になった可能性がある。

2.マネタリーベース: 長期国債買入れペースは「めど」の半分に

10月2日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は5.9%と、前月(同6.9%)から低下した。伸び率の低下は4ヵ月連続で、伸び率の水準は安倍政権発足前の2012年11月(5.0%)以来の低さに。内訳の約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比6.5%と前月(7.8%)から低下したことが影響した(図表6・7)。
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表7) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
なお、9月末のマネタリーベース残高は前月末から3.0兆円の増加に留まった。さらに季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると前月比でほぼ横ばいに留まる(図表8)。日銀は長期国債買入れにおいて減額を段階的に実施しているため、買入れペースが前年比43兆円まで縮小しており、「80兆円」とする「めど」の半分程度しか買っていない状況になっている(図表11)。この結果、国債買入れの裏側にあるマネタリーベースの伸びも低下傾向にある。

日銀は今後もタイミングを見計らって国債買入れの減額を続けていくとみられるため、マネタリーベースの伸び率も低下基調が続きそうだ。
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減

3.マネーストック: マネーの伸びは低下基調

10月12日に発表された9月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨総量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.83%(前月は2.87%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.45%(前月は2.49%)とともに前月からやや低下した(図表10)。小数点第2位以下まで見た場合、M2・M3の伸び率低下はともに5ヵ月連続となる。原油高などの影響で経常黒字の伸びが低下していることが影響している可能性がある。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
M3の内訳を見ると、最大の項目であり、全体の約半分を占める預金通貨(普通預金など)の伸び率が前年比6.5%(前月は6.7%)と低下したほか、CDのマイナス幅がやや拡大した。一方、現金通貨の伸び率が3.9%(前月は3.8%)とやや上昇したほか、準通貨(定期預金など、前月改定値▲2.0%→当月▲1.9%)の伸びがマイナス幅をやや縮小したことが下支えとなった(図表11・12)。
(図表12)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 一方、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比2.26%(前月は2.19%)と、5ヵ月ぶりに上昇を見せた(図表10)。

内訳では、既述の通り、M3の伸び率が若干低下したものの、残高がそれなりに大きい金銭の信託(前月改定値3.8%→当月4.2%)の伸び率が上昇し、全体の押し上げに寄与した(図表12)。

なお、注目度の高い投資信託(元本ベース)は、前年比▲7.1%(前月改定値は▲7.6%)とマイナス幅こそやや縮小したものの、依然として大幅な前年割れが続いている(図表12)。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年10月12日「経済・金融フラッシュ」)

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