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2018年10月09日
EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-カバード・アグリーメント署名後のNAICにおける検討状況-
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1―はじめに
「欧州連合(EU)と米国の対話プロジェクト(EU-US Dialogue Project)」及びそこで協議されていた「カバード・アグリーメント(Covered Agreement)」の締結を巡る動きについては、これまで、何回かのレポートで報告し、1年前の基礎研レポート「EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-カバード・アグリーメントがついに署名された-」(2017.9.26)において、米国財務省及びUSTRが、2017年9月22日に「カバード・アグリーメントに署名」し、併せて「政策声明」も公表したことを報告した。
その後、再保険担保規制の撤廃等の具体的な実施方法等については、NAIC(全米保険監督官協会)が検討を進めてきている。今回のレポートでは、NAICにおける再保険規制に関する最近の検討状況について報告する。
その後、再保険担保規制の撤廃等の具体的な実施方法等については、NAIC(全米保険監督官協会)が検討を進めてきている。今回のレポートでは、NAICにおける再保険規制に関する最近の検討状況について報告する。
2―カバード・アグリーメントと2017年9月22日の合意の内容
カバード・アグリーメントについては、これまでのレポートで、その定義や意味合い等について報告してきたが、その内容を繰り返しておく。
1|カバード・アグリーメントとは
カバード・アグリーメントとは、「米国と1つ以上の外国政府、当局又は規制主体との間で締結され、州の保険又は再保険規制の下で達成される保護レベルと『実質的に同等』である保険又は再保険の消費者のための保護レベルを達成する保険又は再保険の事業に関するプルデンシャル(健全性)措置の認識に関連する、書面による二国間又は多国間の合意」として、ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)のTitle Vに定義された特殊なタイプの国際的合意である。
2|今回のカバード・アグリーメントの概要
今回のカバード・アグリーメントにより、米国で活動するEUの再保険会社の担保要件が排除され、米国の再保険規制をソルベンシーIIと同等のものとして認識することで、EUで活動する米国の再保険会社に課せられる障壁が取り除かれることになる。
より、具体的には、今回のカバード・アグリーメントは、健全性保険監督の3つの分野、(1)再保険、(2)グループの監督、(3)監督者間の情報交換、をカバーしている。
「(1)再保険」に関しては、消費者保護が強化され、EU及び米国の市場で事業を展開するEU及び米国の再保険会社に対する担保及び現地のプレゼンス要件の廃止につながることになる。
「(2)グループの監督」に関しては、米国とEUの保険会社は、自国の管轄地域の監督者による世界的な健全性保険グループ監督のみの対象となり、米国及びEUのそれぞれの監督当局の自国の監督の優位性が保持されることになる。ただし、各監督者は、その監督領域における保険契約者の利益や金融の安定性を損なう可能性のある世界的な活動についての情報を要求し入手する資格は保持する。
「(3)監督者間の保険情報の交換」に関しては、米国とEUの保険監督当局は、米国及びEU市場で活動する保険会社及び再保険会社に関する監督情報を引き続き交換することを奨励し、このような情報交換を支援するためのモデル覚書の規定を含めている。
1|カバード・アグリーメントとは
カバード・アグリーメントとは、「米国と1つ以上の外国政府、当局又は規制主体との間で締結され、州の保険又は再保険規制の下で達成される保護レベルと『実質的に同等』である保険又は再保険の消費者のための保護レベルを達成する保険又は再保険の事業に関するプルデンシャル(健全性)措置の認識に関連する、書面による二国間又は多国間の合意」として、ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)のTitle Vに定義された特殊なタイプの国際的合意である。
2|今回のカバード・アグリーメントの概要
今回のカバード・アグリーメントにより、米国で活動するEUの再保険会社の担保要件が排除され、米国の再保険規制をソルベンシーIIと同等のものとして認識することで、EUで活動する米国の再保険会社に課せられる障壁が取り除かれることになる。
より、具体的には、今回のカバード・アグリーメントは、健全性保険監督の3つの分野、(1)再保険、(2)グループの監督、(3)監督者間の情報交換、をカバーしている。
「(1)再保険」に関しては、消費者保護が強化され、EU及び米国の市場で事業を展開するEU及び米国の再保険会社に対する担保及び現地のプレゼンス要件の廃止につながることになる。
「(2)グループの監督」に関しては、米国とEUの保険会社は、自国の管轄地域の監督者による世界的な健全性保険グループ監督のみの対象となり、米国及びEUのそれぞれの監督当局の自国の監督の優位性が保持されることになる。ただし、各監督者は、その監督領域における保険契約者の利益や金融の安定性を損なう可能性のある世界的な活動についての情報を要求し入手する資格は保持する。
「(3)監督者間の保険情報の交換」に関しては、米国とEUの保険監督当局は、米国及びEU市場で活動する保険会社及び再保険会社に関する監督情報を引き続き交換することを奨励し、このような情報交換を支援するためのモデル覚書の規定を含めている。
3―米国のNAICの対応
NAICのWebサイトにおける「カバード・アグリーメント」に関する説明1においては、カバード・アグリーメントを巡る状況及び今回の合意等について、以下の説明が行われている。
1|カバード・アグリーメントとは
カバード・アグリーメントは、必要に応じて、再保険の消費者保護の担保要件などの、米国州保険法又は規制が米国以外の保険会社を米国の保険会社と異なる方法で扱う領域に対処するために、米国財務省及び米国通商代表部(USTR)事務所に待機権限を提供する。カバード・アグリーメントは、州法に基づく消費者に与えられた保護と実質的に同等の措置に関連する場合に限り、州法の優先権の基礎となることができる。
2|9月22日の合意について
2017年9月22日、米国財務省、USTR及び欧州連合(EU)は、正式にカバード・アグリーメントに署名したことを発表した。この合意では、州は5年以内に再保険担保を撤廃するか、又は優先権のリスクを負うことが求められる。代わりに、EUは、EU内で活動する米国企業に現地でのプレゼンス要件を課すことはなく、EUに拠点を置く米国企業に対しては、米国のグループ資本規制を事実上尊重しなければならない。
3|米国における再保険規制の現状
歴史的に、米国の州の保険監督当局は、米国以外の再保険会社に、米国の保険会社から想定されるリスクに対して100%の消費者保護担保を米国内に保有することを要求している。外国の再保険会社の規制当局と政治家は、この要件を他の目的のために利用可能な資本を減少させると主張している。州の保険監督当局は、州を超えての違いは、消費者保護担保責任の計画をより不確実なものとし、潜在的にはより高価にする、と認識している。そのため、NAICは、再保険者の財務力及びそれを監督する規制制度の質に相応して、消費者保護の担保要件を一貫した方法で削減するために、取り組んできた。
2011年、NAICは、再保険モデル法(#785)及び再保険モデル規制(#786)の改正を可決した。採択州では、認定外国再保険者は、米国の請求について100%よりもはるかに少ない消費者保護担保の差し入れが認められることになる。現在までに48州が、改正モデル#785とモデル#786を実施する法律を成立させ、2019年1月1日から認証要件2となる。
(参考)2011年のNAIC再保険担保規制改革の概要3,4
1.米国外の再保険会社は、一定の資本要件や報告要件を満たせば、再保険担保の減額(信用格付に応じ0%、10%、20%、50%、75%、100%の6段階)が認められる。
2.再保険担保減額の適用を受けるには、以下の2つの条件が満たすことが求められる。
1) 当該再保険会社の所在国(管轄区域)が、認定管轄区域(Qualified Jurisdiction:QJ)として認定されていること。
2) 当該再保険会社がモデル法導入州に申請し、信用リスクの審査を受け、再保険担保減額の適用が適切であるとの評価(認定再保険者(Certified Reinsurer)の認定)を受けること。
2 各州の遵守状況が評価される「Accreditation Program(認証プログラム)」の対象となる。
3 日本損害保険協会「EU・米国カバードアグリーメント締結を受けた 全米保険長官会議(NAIC)による再保険担保の撤廃に向けた検討について」を参照して作成 http://www.sonpo.or.jp/efforts/international/regulations/usa/pdf/qj/2018_0206.pdf
4 これに基づいて、2015年1月に、7つの管轄区域(日本、バミューダ、フランス、ドイツ、アイルランド、スイス、英国)がQJに認定されている。
カバード・アグリーメントは、必要に応じて、再保険の消費者保護の担保要件などの、米国州保険法又は規制が米国以外の保険会社を米国の保険会社と異なる方法で扱う領域に対処するために、米国財務省及び米国通商代表部(USTR)事務所に待機権限を提供する。カバード・アグリーメントは、州法に基づく消費者に与えられた保護と実質的に同等の措置に関連する場合に限り、州法の優先権の基礎となることができる。
2|9月22日の合意について
2017年9月22日、米国財務省、USTR及び欧州連合(EU)は、正式にカバード・アグリーメントに署名したことを発表した。この合意では、州は5年以内に再保険担保を撤廃するか、又は優先権のリスクを負うことが求められる。代わりに、EUは、EU内で活動する米国企業に現地でのプレゼンス要件を課すことはなく、EUに拠点を置く米国企業に対しては、米国のグループ資本規制を事実上尊重しなければならない。
3|米国における再保険規制の現状
歴史的に、米国の州の保険監督当局は、米国以外の再保険会社に、米国の保険会社から想定されるリスクに対して100%の消費者保護担保を米国内に保有することを要求している。外国の再保険会社の規制当局と政治家は、この要件を他の目的のために利用可能な資本を減少させると主張している。州の保険監督当局は、州を超えての違いは、消費者保護担保責任の計画をより不確実なものとし、潜在的にはより高価にする、と認識している。そのため、NAICは、再保険者の財務力及びそれを監督する規制制度の質に相応して、消費者保護の担保要件を一貫した方法で削減するために、取り組んできた。
2011年、NAICは、再保険モデル法(#785)及び再保険モデル規制(#786)の改正を可決した。採択州では、認定外国再保険者は、米国の請求について100%よりもはるかに少ない消費者保護担保の差し入れが認められることになる。現在までに48州が、改正モデル#785とモデル#786を実施する法律を成立させ、2019年1月1日から認証要件2となる。
(参考)2011年のNAIC再保険担保規制改革の概要3,4
1.米国外の再保険会社は、一定の資本要件や報告要件を満たせば、再保険担保の減額(信用格付に応じ0%、10%、20%、50%、75%、100%の6段階)が認められる。
2.再保険担保減額の適用を受けるには、以下の2つの条件が満たすことが求められる。
1) 当該再保険会社の所在国(管轄区域)が、認定管轄区域(Qualified Jurisdiction:QJ)として認定されていること。
2) 当該再保険会社がモデル法導入州に申請し、信用リスクの審査を受け、再保険担保減額の適用が適切であるとの評価(認定再保険者(Certified Reinsurer)の認定)を受けること。
2 各州の遵守状況が評価される「Accreditation Program(認証プログラム)」の対象となる。
3 日本損害保険協会「EU・米国カバードアグリーメント締結を受けた 全米保険長官会議(NAIC)による再保険担保の撤廃に向けた検討について」を参照して作成 http://www.sonpo.or.jp/efforts/international/regulations/usa/pdf/qj/2018_0206.pdf
4 これに基づいて、2015年1月に、7つの管轄区域(日本、バミューダ、フランス、ドイツ、アイルランド、スイス、英国)がQJに認定されている。
4|NAICの方針
州規制当局は、財務省とUSTRが最近、資本、グループ監督、再保険、合同委員会などのいくつかの主要分野において、カバード・アグリーメントの解釈を明確にする米国の政策声明を発表したことを喜んでいる。これらの明確化は、州規制の優位性を裏付けるものである。
さらにNAICは現在、カバード・アグリーメントの条項と調和するように#785及び#786のモデルを改定している。年末までに改定版を完全に採択する予定である。
5|NAICのこれまでの取組み
カバード・アグリーメントに関する合意を受けて、再保険担保撤廃の具体的な実施方法等については、NAICが検討することとなる。これを受けて、NAICでは、2017年12月21日に、再保険規制の改定に関する意見募集(2018年2月6日締切)を行い、2018年2月20日にパブリックヒアリングを実施した。
さらに、意見募集及びパブリックヒアリングの結果を踏まえて、2018年6月21日に、再保険モデル法・モデル規制の改正案を公表し、同案に対する意見募集(7月23日締切)を実施している。
州規制当局は、財務省とUSTRが最近、資本、グループ監督、再保険、合同委員会などのいくつかの主要分野において、カバード・アグリーメントの解釈を明確にする米国の政策声明を発表したことを喜んでいる。これらの明確化は、州規制の優位性を裏付けるものである。
さらにNAICは現在、カバード・アグリーメントの条項と調和するように#785及び#786のモデルを改定している。年末までに改定版を完全に採択する予定である。
5|NAICのこれまでの取組み
カバード・アグリーメントに関する合意を受けて、再保険担保撤廃の具体的な実施方法等については、NAICが検討することとなる。これを受けて、NAICでは、2017年12月21日に、再保険規制の改定に関する意見募集(2018年2月6日締切)を行い、2018年2月20日にパブリックヒアリングを実施した。
さらに、意見募集及びパブリックヒアリングの結果を踏まえて、2018年6月21日に、再保険モデル法・モデル規制の改正案を公表し、同案に対する意見募集(7月23日締切)を実施している。
(2018年10月09日「保険・年金フォーカス」)
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