2018年09月18日

ドイツの生命保険会社の状況(2)-BaFinの2017年Annual Reportより(ドイツの生命保険監督のトピック(その2))-

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|国際監督(International supervision
国際監督の中の「8.1、金融監督制度の見直し」の中で、BaFinは欧州金融監督システム(European System of Financial Supervision :ESFS)のレビューの提案内容について説明するとともに、これに対するBaFinのスタンスを明らかにしている。

欧州委員会の提案は、例えば以下の通りである。

・EU内の監督上のコンバージェンスを促進するために、欧州監督当局(ESAs)に追加の任務と権限を移転する。これにより、将来的にEU全体の戦略的監督計画を立てて、管轄する当局を評価することになる。さらに、EUに本拠を置く会社が第三国への重要なアウトソーシングを計画している場合には、ESAsを関与させ、ESAsは、承認手続に関する意見を出すことが認められる。

・保険監督については、欧州保険年金監督局(EIOPA)が内部モデルの承認プロセス及び継続的な監督において意義深くタイムリーなやり方で関与すべきである。

・欧州証券市場局(ESMA)に中央カウンターパーティー(CCPs)に対する直接監督権限を導入する。

・ESMAには、承認、監督(市場及び広告の監督を含む)及び特定の種類の目論見書の制裁に関する主たる責任が与えられるべきである。

・ESMAは、将来、データ報告サービスプロバイダーの承認と監督、特定のファンドとそれらの投資管理者の承認、登録、監督を担当する。

・各国の権限のある当局の長で構成される監督理事会(Boards of Supervisors(BoSs))が、ESAsの主要な意思決定機関であることが望ましい。執行理事会が導入され、既存の管理理事会に置き換わる。理事会のメンバーにはESA議長と欧州銀行局(EBA)とEIOPAからの各3名のESA代表者とESMAからの5名のESA代表者が含まれる。

・ESAへの資金供与に関して、各国の権限ある当局の寄付を民間部門からの寄付に置き換えるべきである。

こうした提案に対して、BaFinは、「EU内で監督上のコンバージェンスと共有監督文化を創出することに関して、ESAsに対するより積極的な役割を強く支持している。しかし、『監督者の監督者』を作ることや、各国の権限を持つ当局に属する情報力をESAsに与えることは反対である。BaFinはまた、ESAsが各国の承認手続きに介入できるようにする計画も拒否している。さらに、BaFinは当初から、補完性原則を考慮して、法的な制限が犯されないように、ESMAに新しい責任を移転する際には、節度を持って行うべきである、と主張してきた。」としている。

なお、この件に関して、BaFinのFelix Hufeld長官は、5月3日の会見1で、「ESAsに国家監督当局の監視をさせる事実上の理由はない。とりわけ、ESAsを強化したい人は、既存のスキルをより有効に活用できるはずである。誰も重複する権限と複雑な手続きを有する官僚的な怪物は必要としていない。」と述べ、欧州の統合に対して慎重さを求めている。

こうしたスタンスは、BaFinだけでなく、EIOPAのメンバーの意見と共通したものとなっている。

なお、こうしたEIOPAの考え方については、欧州保険業界団体であるInsurance Europeも「EIOPAがプルデンシャルとビジネス監督の両方を担うスタンドアローンの強力な保険監督当局であることをサポートする。」とのポジションペーパーを公表2している。

8.1.金融監督制度の見直し
欧州金融監督システム(ESFS、61ページの情報ボックス)は現在レビュー中である。当初の目的は、ESFS、それゆえに欧州監督当局(ESAs)がいかに効果的に運営されているかをテストし、必要に応じて改革することだった。2017年3月、欧州委員会は協議のための改革案を提出し、それが9月のESA規制の改正案につながった。この改正案は、EUの既存の監督機関の広範な集中化、したがって根本的な変更を想定している。

定義
欧州金融監督システム
3つの欧州監督機関(ESAs)は、2011年初めに設立された。ESAsは、欧州銀行局(EBA)、欧州保険年金監督局(EIOPA)、欧州証券市場局(ESMA)で構成されている。その少し前の2010年末に、欧州システミックリスク理事会(ESRB)が業務を開始した。ESAsとESRBは共に、欧州金融監督システム(ESFS)を構成している。欧州における監督慣行の調和と、マクロプルデンシャル分析とマイクロプルデンシャル監督の統合を改善することを目的としている。

ESAsの新しい力
欧州委員会は、EU内の監督上のコンバージェンスを促進するために、ESAsに追加の任務と権限を移転することを提案している。この提案によれば、将来的にEU全体の戦略的監督計画を立てて、管轄する当局を評価することになる。さらに、欧州委員会は、EUに本拠を置く会社が第三国への重要なアウトソーシングを計画している場合には、ESAsを関与させる予定である。ESAsは、承認手続に関する意見を出すことが認められる。ESAsの権限はまた、第三国の同等性の決定を準備する上で欧州委員会を助けるときに拡大される予定である。

保険監督については、欧州委員会は、EIOPAが内部モデルの承認プロセス及び継続的な監督において意義深くタイムリーなやり方で関与すべきであることを提案している。この文脈でEIOPAに二重の役割を与える計画がある。即ち、第一に意見を出し、次に影響を受ける監督当局間の意見の不一致を解決するための支援を行うことができることになる。

最も広範に提案された変更は、ESMAに関するものである。計画では、まず、中央カウンターパーティー(CCPs)に対する直接監督権限を導入する予定である。この目的のために、欧州委員会は、6月に欧州市場インフラ規制(EMIR)の改正案を発表した。第二に、ESMAには、承認、監督(市場及び広告の監督を含む)及び特定の種類の目論見書の制裁に関する主たる責任が与えられるべきである。さらに、ESMAは、将来、データ報告サービスプロバイダーの承認と監督、特定のファンドとそれらの投資管理者の承認、登録、監督を担当する予定である。

ESAの内部ガバナンスの観点から、欧州委員会の提案は、会員主導の組織の原則から部分的に離脱することを主張する。各国の権限のある当局の長で構成される監督理事会(Boards of Supervisors(BoSs))は、特に規制のために、ESAsの主要な意思決定機関であることが望ましい。しかし、さらに執行理事会が導入され、監督理事会と同様に現在は監督当局の長で構成されている既存の管理理事会に置き換わる予定である。欧州委員会の提案によると、理事会のメンバーにはESA議長とEBAとEIOPAからの各3名のESA代表者とESMAからの5名のESA代表者が含まれる。彼らの機能は、意見を出して、全てのBoSの決定を準備することにある。さらに、重要なコンピテンシー(ストレステストや前述の新しい課題や権限など)を執行理事会に移す計画もある。

欧州委員会は、ESAへの資金供与に関して、各国の権限ある当局の寄付を民間部門からの寄付に置き換えるべきであると提案している。欧州連合(EU)の拠出額は将来的に変動する可能性があり、ESA予算の40%をカバーする。欧州理事会は、現在、欧州委員会の提案を議論している。

BaFinは計画に批判的である
BaFinは、コンサルテーション段階で既に欧州委員会が計画していた改正を批判していた。欧州金融監督システム(「欧州金融監督システム」の情報ボックスを参照)は、特に2010年に国家及び欧州の監督当局のネットワークとして創設され、この役割を証明している。

もちろん、BaFinは、EU内で監督上のコンバージェンスと共有監督文化を創出することに関して、ESAsに対するより積極的な役割を強く支持している。しかし、「監督者の監督者」を作ることや、各国の権限を持つ当局に属する情報力をESAsに与えることは反対である。BaFinはまた、ESAsが各国の承認手続きに介入できるようにする計画も拒否している。さらに、BaFinは当初から、補完性原則を考慮して、法的な制限が犯されないように、ESMAに新しい責任を移転する際には、節度を持って行うべきである、と主張してきた。Felix Hufeld長官はまた、2018年2月27日に開催された欧州金融監督システム(FSF)の見直しに関する欧州議会のヒアリングで、BaFinの立場を説明した。

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中村 亮一

研究・専門分野

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