2018年09月07日

2017年度生命保険決算の概要

基礎研REPORT(冊子版)9月号

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―保険業績(全社)

生命保険協会加盟41社全社が、2017年度決算を公表した。これらを、伝統的生保(14社)、外資系生保(16社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(6社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した[図表1]。41社合計では、新契約高は▲21.9%減少、保有契約高は▲1.8%減少となった。
 
基礎利益は、6.6%増加(前年度は1.7%増加)した。41社のうち27社で基礎利益は増加している。
[図表1]業績の概要(全社)2017
[図表2]新契約年換算保険料(2017年度) 新契約年換算保険料は、かんぽ生命を除く40社合計でみると、個人保険は▲3.0%減少した。また個人年金は、▲51.3%減少となった。低金利下で貯蓄型の保険の販売を停止する会社があったり、保険料値上げにより貯蓄としての魅力がなくなったりしたことによるものであろう。第3分野は3.0%と引き続き増加した[図表2]。













 

2―大手中堅9社の収支状況

1|基礎利益は増加
2017年度までの資産運用環境は図表3の通りである。
[図表3]運用環境
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社で見ると、国内株式の含み益が1.5兆円増加したものの、国内債券の含み益が▲0.1兆円、外国証券含み益も▲0.6兆円それぞれ減少し、有価証券合計では0.9兆円増加した[図表4]。
[図表4]有価証券含み損(大手中堅9社計)
基礎利益は23,332億円、対前年度8.1%増加となった[図表5]。逆ざやについては、2013年度に9社合計で利差益に転じた後、拡大し続けていたが、ほぼゼロ金利の状況が長引いている影響もあり、2016年度の利差益はいったん減少に転じた。しかし、2017年度は再び増加して、逆ざや解消後最高水準となった。危険差益・費差益は、引き続き減少しており、これは保有契約の減少に伴うものと考えられる。
[図表5]基礎利益の状況(大手中堅9社計)
2|利差益は逆ざや解消以降最高水準
利差益について、さらに詳しく分析した[図表6]。

2008年度を底として、2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2017年度は6,150億円と回復後最高水準となった。

「平均予定利率」は、過去の高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在、多くの新規契約の予定利率は1%未満であることから、今後もしばらく低下は続くだろう。

一方、「基礎利回り」は、超低金利にもかかわらず、外貨建債券へのシフトなどにより0.07ポイント上昇した。
 
ただし、現在の経済環境からすると、次年度以降の利差益ひいては基礎利益については、決して楽観できない状況にあるとの見方も強い。
[図表6]利差益(逆ざや)状況の推移(9社計)
[図表7]当期利益とその使途(大手中堅9社計) 3|当期利益は増加~引き続き内部留保に重点をおくが、配当も安定的な水準
基礎利益、キャピタル損益とも増加し、合計22,408億円と対前年度+2,643億円の増加となった[図表7]。

2017年度は「実質的な利益」の69%が価格変動準備金、危険準備金、追加責任準備金など内部留保等に、残り31%が配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれている。

配当還元は、対前年684億円増加している。9社中7社が、危険差益関係で増配する一方で、1社が利差関係の配当を減配した。

 
4|ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
ソルベンシー・マージン比率(9社合計)をみたものが図表8である。9社計で903.4%から922.0%へと上昇し、引き続き高水準にある。国内株式などの含み益は増加したが、一方で、外貨建資産へのシフトによるものか、資産運用リスクも増加している。

また、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)は引き続き積み増されている。

なお、現在経済価値ベースのソルベンシーの検討が進められているところであり、近い将来算出方法が大きく進化するものと予想される。
[図表7]ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)

3―低金利による各方面への影響

1|標準利率、死亡率の改定の影響
2017年4月の標準利率の引き下げに続いて、2018年4月には、標準死亡率が11年ぶりに引き下げられた。これらは直接には、責任準備金の充分な積立を意図した制度であるが、実際には保険料水準も間接的に影響を受ける。

標準利率の引き下げの際には、多くの会社が保険料を値上げしたので、特に貯蓄性商品は魅力ないものになった。あるいはそれでもなお保険会社の資産運用が追いつかないために、一時的に売り止め、という対応も目立った。このことが、2017年度決算においては新契約・保険料収入の大幅減少、となって現れている。

標準死亡率の引き下げに対しては、これまでの改定時と同様に、既に2018年4月前後の新契約から保険料を値下げした会社もある。その他に、大手を含むいくつかの会社は、今後、健康増進型商品(健康診断の結果や運動などの健康への取り組み状況を、新契約時や契約途中で反映した保険料や還元を行う商品)の発売時にあわせて、死亡率を引き下げるようである。
2|外債投資、外貨建保険へのシフト
引き続き各社の外債投資は増加する方向にある。収益性も重視して国内株式投資も増加の兆しがあり、これらは運用リスクを高めることになる。

しかし、リスク管理については、顧客・経営層の関心も高まり、手法も高度化してきた。また先に見たように、各種準備金など実質的な自己資本が以前よりも充実しているので、多少のリスクが顕在化しても、ある程度しっかりした対応が可能となっているものと思われる。

販売面では、引き続き外貨建保険の好調が期待されるが、例えば以前の変額保険の例もあるように、今度は為替変動リスクを顧客が負っていることが、悪い形で顕在化しなければいいのだが、と心配されるところでもある。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2018年09月07日「基礎研マンスリー」)

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