2018年09月07日

拡大する所有者不明土地-求められる対策とは?

基礎研REPORT(冊子版)9月号

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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1―所有者不明の土地、増加中

日本全国で所有者不明土地が増加している。所有者不明土地とは、不動産登記簿等の公簿情報などをもとに調査しても所有者が判明しない、または判明しても所有者と連絡がつかない土地のことだ。国土交通省の資料によると、2016年度の地籍調査をもとにした推計で私有地の約2割が所有者不明、その規模は九州の土地面積(約368万ha)を上回る約410万haに達しているという。
 
根本的な問題は、日本の土地制度が所有権や利用実態を補足するのに十分な体制を整備できていないことだ。所有権の把握には、不動産登記簿情報が通常使用される。しかし、権利登記は義務でなく任意であり、所有者情報が更新されないまま放置されることが少なくない。法務省の調査によると、50年以上登記が更新されていない土地は地方で26.6%、大都市圏でも6.6%存在している(図表1)。
情報が更新されないまま相続が発生すると複数の相続人が権利を継承し、相続が重なることで権利はさらに枝分かれする。さらに、日本の人口動態もこの問題を助長している。人口減少や高齢化は土地の利活用ニーズを減少させ、都市への人口流出が土地に対する権利意識を希薄化させる。また、登記にはコストも掛かるため、価格の低い地方の土地を相続しても、登記すればその分の費用が持ち出しとなってしまう。国税庁の統計では相続財産における土地の割合は約4割。2025年以降、人口の多い団塊の世代で相続が発生すれば、所有者不明の土地はさらに増加することが見込まれている。

2―災害復興、地域創生の障害に

所有者不明土地の増加は、災害復興や地方創生の妨げとなる。日本では、首都圏直下型地震や南海トラフ巨大地震など、大規模な災害の発生が指摘されている。所有者不明土地があることで、住宅や企業、避難所などの内陸移転が進まず、津波対策の高台利用ができないなど、危機管理体制の構築が遅れる事態も生じている。また、森林管理や農地集約など公共事業の妨げとなることで、住民サービスを低下させてもいる。課税面では徴税が難しく、税収が減少して地方財政の悪化にもつながる。これは、地方創生にとって明らかにマイナスだ。今後、団塊の世代で大量の相続が発生すれば、問題がさらに深刻化する可能性が高い。そうなる前に土地の所有権を明確化し、権利の移転を漏らさずに把握する仕組みを整えておく必要がある。

3―所有権を把握、管理する仕組み

1|第1弾となる対策法制が成立
政府も事態の打開に向けて動き出した。2018年6月、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が可決された。同法の施行により、公益性の高い事業における所有者不明土地の利用が可能となる。土地の収用手続きは簡素化され、最大10年間の土地等使用権の設定が可能だ。所有者が現れなければ、期間を延長することも認められる。所有者が現れた場合も、期間終了後に原状回復をして土地を返還すれば良い。同法は2019年6月までに施行される予定である。
 
同法成立により、公的分野の所有者不明土地の利活用が進んでいくことが期待される。再開発や復興事業などで障害が取り除かれれば、政府の進める地方創生やコンパクトシティの形成にもプラスとなるだろう。ただし、九州の土地面積よりも大きいと推計される所有者不明土地の利活用には、公的分野の開放だけでは不十分だ。民間の利活用を可能とする仕組みの構築も考える必要がある。今回の法案は、問題に対処するための第1歩(喫緊の取組み)と捉えるべきだろう。
 
2|抜本的な対策はこれから
公益確保の応急処置は、同法成立で可能となった。次は、所有者不明土地の根本的な問題に踏み込まなければならない。所有者不明土地の増加を防ぐには、土地の所有権移転を確実に捕捉する仕組みが必要だ。政府は、相続登記の義務化や登記官への所有者特定に関する調査権限の付与など不動産登記法や民法など関連法の改正を2020年までに進める方針である。また、土地の所有権を手放す際の要件設定(放棄制度)や手放された土地の受け皿作り(ランドバンク制度)などの検討も進んでいる。コスト面や課税面での課題は多いものの、導入されれば所有権の捕捉率が劇的に改善することが期待される。さらに、「行政手続きのデジタル化推進(2018年骨太の方針)」との絡みでは、所有者情報をマイナンバーと紐付けて電子化し、自治体間で相互利用できる体制の整備も行政コストの削減につながる可能性がある。既存の仕組みを強化するだけでなく、新たな仕組みを考え構築していくことも求められる。
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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
日本経済・金融

(2018年09月07日「基礎研マンスリー」)

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