2018年08月08日

高齢者を直撃する物価上昇~世代間で格差~

基礎研REPORT(冊子版)8月号

白波瀨 康雄

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物価上昇に直面する高齢者

2017年の消費者物価指数( 持家の帰属家賃を除く総合、以下も同じ)は前年比0.6%となった。この上昇率は平均的な世帯が消費する財・サービスが基準になっている。しかし、世帯属性によって消費構造が違うため、直面している物価変動は異なってくる。

世帯主の年齢別に消費者物価指数の動きをみると、7年間(2011~17年)の物価上昇率は、39歳以下は3.8%だが、40~50歳代は4.7%、60歳以上は5.8%となった[図表1]。
 
若年層は、消費税率引き上げのあった2014年こそ物価が大きく上昇したものの、その後の物価水準は概ね変わっていない。一方、高齢者は増税後も基調は変わらず物価上昇に直面している。

物価上昇率に差が出る要因

「60歳以上」と「39歳以下」の10大費目の支出ウェイトと物価上昇率から、物価上昇率(2014~17年の4年間)の差(1.7%pt)の要因を分析すると、10大費目の支出ウェイトの差による影響(ウェイト要因)が0.6%pt、残り1.1%ptは10大費目ごとの物価上昇率の差による影響(品目選択要因)となった[図表2]。
ウェイト要因については、総合の物価上昇率を上回った食料のウェイトが60歳以上は高いこと、総合の物価上昇率を下回った交通・通信のウェイトが60歳以上は低いこと等から発生している[図表2赤枠]。
 
品目選択要因は、食料、住居、交通・通信の影響が大きかった[図表2青枠]。食料については、60歳以上は約21%を生鮮食品の支出に充てており(39歳以下は約11%)、生鮮食品の物価は18.3%と大幅に上昇している。また、外食(物価上昇率:5.9%)は食料の中で物価上昇率が低位の品目だったが、60歳以上は約12%しか支出に充てておらず(39歳以下は約26%)、物価上昇率に差が出た。住居については、39歳以下は支出の約92%を占める家賃の物価上昇率がマイナスとなり、住居全体でもマイナスになった。一方、60歳以上は持家率が高く、支出の約75%が住宅リフォームを含む設備修繕・維持(物価上昇率:6.1%)に充てられており、住居の物価上昇率が大幅なプラスとなった。交通・通信については、固定電話通信料は物価が5.0%上昇した一方で、移動電話通信料は▲6.9%下落した。固定電話通信料は60歳以上の方がウェイトが高く(60歳以上:約9%、39歳以下:約3%)、移動電話通信料は39歳以下の方がウェイトが高い(60歳以上:約16%、39歳以下:約28%)ことが、差の広がる要因となった。
 

最後に

消費支出の増減率(2014~17年の4年間)は、名目では39歳以下の減少幅が最も大きいが、年齢別の消費者物価指数を用いて実質化すると、60歳以上の減少幅が最も大きくなった[図表3]。
所得面でみても、年金給付額は、年金財政健全化に向けた特例水準の解消やマクロ経済スライドの発動を受けて抑制されている。厚生労働省の国民生活基本調査によれば、公的年金を受給する高齢者世帯の半数以上は所得が年金のみであり、高齢者世帯の経済環境は厳しい状況に置かれている。デフレではない状況に達した日本だが、世帯の属性別に直面している物価上昇にもより注意を払っていく必要があるだろう。
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白波瀨 康雄

研究・専門分野

(2018年08月08日「基礎研マンスリー」)

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