2018年08月06日

相続プランを考えてみよう-2018年度成立改正相続法の解説

保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任   松澤 登

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1――はじめに

民法(相続法)の改正案が2018年7月6日の参議院本会議で可決・成立した。筆者は相続法改正の中間試案について以前、紹介したことがある1が、今回、それがついに立法化された。

相続法の改正の背景にあるのは、超高齢社会および大相続時代である。たとえば内閣府の高齢白書によれば、75歳以上人口は1,691万人(男性658万人、女性1,033万人、性比63.6)で、総人口に占める割合は13.3%となっている 。また、国税庁のHPを見ると、平成28年中に亡くなった方は約131万人(平成27年約129万人)となっている 。

現在では核家族化が進み、また相続が以前よりも高齢で行われることから、高齢の配偶者の保護や介護の寄与等に対する配慮等が必要となった。我々も改正相続法の内容を理解し、相続プランを考えてみることに意義があると思われる。

本稿では主な改正項目である、(1)配偶者の居住権の創設、(2)財産分配の諸制度の創設、(3)自筆証書遺言の取扱の見直し、(4)遺留分減殺請求権制度の見直しの4つを特に取り上げ、順に説明する。  

2――配偶者の居住権の創設

2――配偶者の居住権の創設

今回の改正により配偶者短期居住権と配偶者居住権の二つの権利が創設された。

1|配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が、被相続人の建物に相続開始時(被相続人が亡なった時)に無償で居住していた場合には、居住していた建物の全部又は一部を無償で使用できる権利を有する(改正民法1037条)とするものである。具体例としては、夫名義の自宅に同居していた妻は当面の間、夫の死亡後も引き続き自宅に居住し続けられるという権利である。

ただし、居住できる期限があり、遺産分割する場合においては、遺産分割協議によって建物の帰属が確定した日、または相続開始時より6ヶ月を超過する日のいずれか遅いほうまでである。また、遺言などで建物の帰属が相続時点で定まっている場合には、その建物の権利者から退去の申し入れを行われてから6ヶ月を超過する日までである。いずれにせよ、6ヶ月は最低でも配偶者は自宅に住み続けることができる。この権利は遺言や相続人の協議も不要であり、当然に発生する権利である。

配偶者短期居住権により配偶者は建物を無償で使用できるとされているだけであり、第三者に使用させようとする場合は建物の所有者の承諾がいる(改正民法1038条2項)。また、使用できる範囲は従前から使用してきた部分だけであり、建物の一部のみしか使用できないということもありうる。なお、配偶者短期居住権によって受けた利益については配偶者の具体的相続分からその価額を控除しなくてもよい2。要するに相続財産ではないと考えてよい。

そもそも配偶者短期居住権は相続開始後、落ち着くまでに被相続人の配偶者が住むところがないという状況を回避することが眼目である。配偶者の継続的な居住問題については、次に述べる配偶者居住権か、自宅をそもそも配偶者に相続させる(次章で解説)ことによる解決が必要となる。
 
2 民法(相続関係)等の改正に関する要綱案p3参照。また、配偶者居住権の価額の簡易な評価方法については、http://www.moj.go.jp/content/001222142.pdf を参照。
2|配偶者居住権
配偶者居住権は混乱しがちだが前述した配偶者短期居住権とは異なる。そもそも法制審議会の審議段階では配偶者長期居住権と仮称されてきた。法律では配偶者居住権となっている。

この権利は、被相続人の配偶者が被相続人の建物に相続時に居住していた場合において、その建物の全部について無償で使用及び収益する権利である(改正民法1028条)。夫死亡後において、妻が夫名義だった建物に原則として終身居住できる権利である。配偶者短期居住権と似ているが、比較すると配偶者居住権は(1)権利の存続期間が終身である(遺言等で期間の定めをした場合を除く)(改正民法1030条)、(2)建物の全部について権利が及ぶ、(3)権利は当然に発生するのではなく、何らかの設定行為が必要である、等が挙げられる。

配偶者が配偶者居住権を取得した場合には、その財産的価値に相当する価額を相続したものとして扱われる3。また配偶者短期居住権と異なり、上記(3)の通り、設定行為が必要である。

まず、遺言による設定が考えられる。これはたとえば「配偶者居住権を遺贈する」といった遺言書を書いておくことで設定ができる。遺贈による設定の場合、その財産的価値を相続の分配に当たっての相続財産に加算(特別受益の持ち戻しという)をしないことを原則とする(改正民法1028条3項で準用する改正民法903条4項)ため、配偶者の全体としての取り分が増加する可能性がある(特別受益の持ち戻しとは、相続人の間に贈与や遺贈で別途財産を得た者があるときは、具体的相続額算定にあたっては、その贈与・遺贈財産分を加算して算出するというルールである)。遺言件数はまだ少ないようであるが、配偶者の将来のことを考えれば検討しておく価値がある。

また、遺産分割により配偶者居住権を取得させることも出来る。この場合、配偶者居住権も分割すべき相続財産の対象となるので、配偶者の配偶者居住権をも勘案した相続分で取得することが原則になる。

以上の相違を具体的に考えてみよう。被相続人の財産が5000万円、うち配偶者居住権の価格を2000万円とし、相続人は配偶者とこども一人とする。遺贈により配偶者居住権を分与すれば、分割すべき財産に算入しない(特別受益の持ち戻しをしない)ので、相続で分割すべき財産は結局3000万円(5000万円-2000万円)となる。配偶者の法定相続分は1/2であることから、法定相続分通り分割するとすれば3000万円の半分の1500万円が配偶者の相続分となる。配偶者居住権とは別途1500万円の分割を得ることができるので、配偶者の年齢にもよるが夫死亡後の老後資金としては当てにできる金額であろう。

一方、遺産分割協議により配偶者居住権を設定し、相続財産を法定相続分で分割するとした場合には、5000万円の相続財産を分割することになるので、配偶者の法定相続分は2500万円である。うち配偶者居住権が2000万円であるので、そのほか500万円分の相続財産を得るのみになる。生活費としては少し不安かもしれない。

なお、家庭裁判所の審判による配偶者居住権の設定も可能である。可能となる場合は、(1)共同相続人の合意がある場合と(2)居住建物の不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要がある場合である。
 
3 前掲注2要綱案p7参照
 

3――財産分割の諸制度の創設

3――財産分割の諸制度の創設

1|配偶者への居住用不動産贈与等
法制審議会の中間試案の段階では、配偶者の財産形成に対する貢献分等を考慮するため、長期に婚姻関係にあった配偶者の相続割合を増やすという案が出されていた。しかし、パブリックコメントの結果、相続割合の増加案には反対が多く、この制度に落ち着いたという経緯がある4

本制度は、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が居住用建物・土地をその配偶者である相続人に遺贈または贈与したときは、その建物・土地は配偶者である相続人の特別受益の持ち戻しの対象外とするものである。

念のためであるが、配偶者居住権は建物を使用するだけの権利であるが、不動産の贈与・遺贈は建物の所有権自体を配偶者に与えるものである。

具体的に説明すると、先の例と同じく配偶者と子一人のケースで、財産5000万円、建物・土地が3000万円で夫が妻に建物・土地を遺贈したとする。この場合、相続分を算定するに当たって建物・土地を持ち戻す必要がないので、配偶者の相続分を遺産の法定相続分(1/2)通り相続するとなると、建物・土地を除いた遺産2000万円の1/2の1000万円である。そのほかに遺贈を受けた建物・土地の3000万円があるため、合計して4000万円を相続・受贈することになる5

財産持ち戻しの免除は原則であり、遺贈に際して別に定めることもできる(=遺言で持ち戻しとすることも出来る)。配偶者居住権も同様に別に定めることができる。
 
4 「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)の補足説明」p4参照
5 子の法定相続分は1/2なので1000万円を相続する。
2|特別の寄与
現行民法では、相続人のうち、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護等により、被相続人の財産の増加または維持について特別の寄与をした者がある場合は、その寄与した分を相続財産から控除したものを、分割すべき相続財産とする(民法904条の2)とされている。

たとえば、相続人が長男と次男二人のみとして、長男が被相続人である親の事業を手伝って財産の増加に寄与していた場合、別の仕事をしている次男との間で遺産分割を行うに当たっては、長男の貢献部分を控除して遺産分割を行う。具体的には、寄与分として1000万円を長男に分与し、そのほかの相続財産を長男と次男で折半するといったものである。このような寄与分は相続人のみに認められる。

今回の改正では、現行民法で寄与分を主張できるのは相続人に限られていたものを実態として被相続人の親族まで拡大するものである。ただし、財産の増加または維持についての特別の寄与は「無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」に限られている(改正民法1050条)。したがって、被相続人の子の配偶者など相続人ではない親族が、被相続人の介護を行って介護支出を減少させたなどの事情があれば寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)を請求することが出来る。

この特別寄与料は寄与した親族から請求できるものとされており、相続人間の協議により定めるか、または家庭裁判所に協議に代わる処分を行うことになる。家庭裁判所は寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、その額を定める (改正民法1050条3項)。
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保険研究部   取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
一般法務、企業法務、保険法・保険業法

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