2018年07月02日

日銀短観(6月調査)~大企業製造業の景況感は2期連続で悪化、貿易摩擦の影響はまだ限定的

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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3.需給・価格判断:国内需給はやや悪化、仕入価格上昇が採算を圧迫

(需給判断:国内需給はやや悪化、海外需給は変化なし)
大企業製造業の国内製商品・サービス需給判断D.I.(需要超過-供給超過)は前回比2ポイント低下、非製造業は横ばいとなった。特に素材業種で需給の悪化が目立つ。一方、製造業の海外需給は前回から横ばいで推移している。

先行きについては小動きの見込みに。国内需給は製造業が1ポイント上昇、非製造業が1ポイント低下している。製造業の海外需給も1ポイントの低下が見込まれている。

中小企業の国内需給については、製造業、非製造業ともに1ポイント低下。製造業の海外需給は横ばいとなった。

先行きについては、国内需給は製造業、非製造業ともに1ポイント低下、製造業の海外需給も1ポイントの低下が見込まれており、大幅な変化は予想されていない(図表4)。
(価格判断:仕入価格上昇が採算を圧迫)
大企業製造業の販売価格判断D.I. (上昇-下落)は前回から1ポイントの上昇、非製造業も1ポイントの上昇となった。仕入価格判断D.I.は製造業で4ポイント上昇、非製造業で横ばいとなっているため、差し引きであるマージンは製造業で悪化している。大企業製造業では、原料高等に伴う仕入価格の上昇分を製品価格に十分転嫁できていない形に。

販売価格判断D.I.の3ヵ月後の先行きは、製造業、非製造業ともに横ばいが見込まれている。企業の値上げ意欲の高まりはうかがわれない。一方、仕入価格判断D.I.の先行きは製造業で6ポイントの低下、非製造業で2ポイントの上昇となっていることから、製造業のマージンは改善に向かう見通しが示されている(図表5)。
 
中小企業の販売価格判断D.I.は製造業で2ポイント上昇、非製造業では3ポイント上昇した。しかしながら、仕入価格判断D.I.は製造業で4ポイント上昇、非製造業で5ポイントと販売価格以上に上昇しており、差し引きであるマージンは圧迫された。

先行きの販売価格判断D.I.は、製造業が3ポイント上昇している一方、非製造業は1ポイント低下している。仕入価格判断D.I.はそれぞれ1ポイントの上昇が見込まれているため、製造業ではマージンの改善が見込まれている一方、非製造業では悪化が見込まれている。
 
(図表4)製商品需給判断DI(大企業・製造業)・製商品需給判断DI(中小企業・製造業)/(図表5) 仕入・販売価格DI(大企業・製造業)・仕入・販売価格DI(中小企業・製造業)

4.売上・利益計画: 2018年度収益は実質的に小幅な上方修正

4.売上・利益計画: 2018年度収益は実質的に小幅な上方修正

17 年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年度比4.4%増(前回は3.5%増)、経常利益は12.0%増(前回は7.1%増)へとそれぞれ上方修正された。特に経常利益については、もともと保守的に見積もられた後、事業環境が悪化しなければ徐々に上方修正されていくクセがあり、今回も上方修正となった。前年比12.0%増という伸び率は、異次元緩和により円安が進行した13年度以来の高い水準になる。

なお、想定為替レート(大企業製造業)は110.79円と前回調査時点(110.67円)からわずかな修正に留まった。前回調査時点で既に実績(17年度平均110.84円)に近い想定になっていたためである。
 
また、18 年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比1.5%増(前回は1.0%増)、経常利益が5.1%減(前回は1.5%減)となった。経常減益幅は拡大しているが、比較対象となる前年度収益が上方修正されているため、実質的には小幅な上方修正となる。例年6月調査にかけては、企業が利益を保守的に見積もり、減益計画となる傾向が強い。

なお、18年度想定為替レート(大企業製造業)は107 .26円(上期107.27円、下期107.26円)と、前回(109.66円)から円高方向に修正されている。足元の実勢に対してもやや円高水準だが、為替は3月に一時105円を割り込むなど不安定な動きを示しただけに、より保守的に設定し直した企業があったためと考えられる。また、貿易摩擦が激化すれば、リスク回避的に円高が進むと考えられることも保守的な設定を促した可能性がある。今後、為替が現状の110円程度もしくは円安方向で推移した場合、想定為替レートの円安方向への修正を通じて、収益計画の上方修正圧力となる。

米国発の貿易摩擦については、今のところ収益への影響が限定的であり、今後の動向も流動的であるため、現段階では収益計画にも殆ど反映されていないものとみられる。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備投資・雇用:人手不足感は季節要因で一服、18年度設備投資計画は強い

5.設備投資・雇用:人手不足感は季節要因で一服、18年度設備投資計画は強い

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で前回から横ばいの▲5となった。底堅い生産動向を反映して、不足感が続いている。一方、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)は▲32と前回から2ポイント上昇し、人手不足感が若干緩和した。ただし、例年3月調査から6月調査では人手不足感が一服する傾向が強い。この間に多くの企業で一斉に新入社員が配属されることに伴う季節的な要因に過ぎないとみられる点は留意が必要だ。
 
上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)は前回から1.3ポイント上昇し(▲23.3ポイント→▲22.0ポイント)、マイナス(不足超過)幅がやや縮小している。
 
なお、雇用人員判断D.I.はマイナス幅がやや縮小したとはいえ、人手不足感が極めて強い状況に変化はない。内訳を見ると、これまで同様、製造業(全規模で▲24)よりも、労働集約型産業が多い非製造業(全規模で▲36)で人手不足感が強い。また、企業規模別で見ると、人材調達力や収益力・賃金水準の違いが反映されているとみられるが、中小企業が▲35と大企業の▲21を大きく下回っている。

人手不足は製造業・非製造業や企業規模を問わず幅広く共有されているが、特に中小企業において深刻な経営課題になっていることは疑いがない。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.(1ポイント低下)、雇用判断D.I.(4ポイント低下)とも低下が見込まれており、両者を反映した「短観加重平均D.I.」も低下する見込み。先行きにかけて、設備、人手の不足感は強まるとの見通しが示されている(図表9,10)。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2017年度の設備投資額(全規模全産業)は、前年比4.4%増と前回調査時点(4.0%増)から小幅に上方修正された。

一方、2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比7.9%増と前回調査時点の前年比0.7%減から大幅に上方修正された。前回調査時点でも例年と比べて高めの伸び率であったが、今回の修正の結果、例年に比べて大幅に高い伸び率となった。

例年6月調査では、計画が固まってくることで上方修正される傾向が強いというだけでなく、良好な収益状況を受けた投資余力の改善や、投資家による資金の有効活用を求める圧力、人手不足に伴う省力化投資などが追い風となり、実勢としても強い投資スタンスが示されたとみられる。

なお、貿易摩擦への懸念は設備投資意欲に影を落とす要因だが、事態は未だ流動的であり、企業としてもその影響を設備投資判断に織り込みづらい状況にある。ただし、今後、報復関税の応酬などから貿易戦争の様相が強まり、世界経済に悪影響が出てくれば、設備投資計画が慎重化する恐れが高い。また、そうでなくても、貿易摩擦に対する強い懸念が長期化すれば、悪影響が顕在化してくる可能性が高いため、楽観視はできない。
 
なお、17年度計画(全規模全産業で4.4%増)は事前の市場予想(QUICK 集計3.4%増、当社予想は3.7%増)をやや上回る結果であった。一方、18年度計画(全規模全産業で7.9%増)は事前の市場予想(QUICK 集計3.8%増、当社予想は4.2%増)を大幅に上回る結果であった。
(図表11)設備投資計画と研究開発投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)
(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年07月02日「Weekly エコノミスト・レター」)

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