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- 英国事例に見るLIBOR廃止の年金運用への影響
2018年07月04日
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2017年7月に英国の金融監督当局であるFCA(Financial Conduct Authority:金融行為規制機構)は、グローバルな金融取引において非常に重要な役割を担っている参照金利であるLIBOR(London InterBank Offered Rate)を2021 年末に廃止することについて言及した。LIBORは変動金利ローンや変動利付債、並びに、金利スワップなどのデリバティブの参照金利として用いられることが多く、LIBORの世界的な市場規模は370兆ドル程度とも言われている。
2012年頃からLIBORの不正操作問題に端を発して、LIBORの金利指標としての信頼性に疑義が生じたことから、世界的に改革が進められている状況にある。具体的には、LIBORは指定された銀行によって報告された金利データに基づいて決定される仕組みだが、可能な限り実取引のデータに基づいて決定される新金利指標に変更する方向で議論が進められている。例えば、LIBORに変わる新金利指標として、日本円では無担保コールレート(翌日物)やTIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)、米ドルではSOFR(Secured Overnight Financing Rate)、英ポンドではSONIA(Sterling Overnight Index Average)が候補して挙げられている。
LIBOR廃止による直接的な影響について考えると、資産サイドや負債サイドにLIBORを参照するような金融商品があるのかどうかが条件となる。この条件に該当する場合、LIBOR から新金利指標へ移行する際の契約面の再交渉にかかるコスト、資産と負債に関する時価評価やリスク管理への影響などが想定されることになる。LIBORを参照する金融商品は、金利変動リスクに対するヘッジ目的で利用されることが多いが、新金利指標を参照する金融商品への移行も含めて、代替的にどの金融商品を用いてリスクヘッジを行うかについても検討が必要になる。
FCAがLIBOR廃止について言及した2017年7月以降、例えば英ポンドの金利スワップ市場において、その影響が徐々に顕在化し始めている。図表は、英ポンドLIBORを参照するスワップレートとSONIAを参照するスワップレート(OIS:Overnight Index Swap)の差分(LIBOR/OISスプレッド)の推移を示したものである。全ての年限において拡大傾向にあるのが分かる。このスプレッド拡大の要因として、金利スワップ市場の市場参加者が、LIBORを参照する金利スワップではなく、SONIAを参照する金利スワップを選択するようになったことが指摘されている。つまり、LIBORを参照する金利スワップへの需要が低下するとそのスワップレートには上昇圧力がかかり、SONIAを参照する金利スワップへの需要が高まるとそのスワップレートには低下圧力がかかるため、両者の相反する需給環境に起因してLIBOR/OISスプレッドが拡大することになる。また、5年や10年といった中長期よりも、20年や30年といった超長期の方がLIBOR/OISスプレッドの拡大幅が大きいという特徴も見られるが、この背景として、英国の年金基金の投資行動の変化による影響が指摘されている。
2012年頃からLIBORの不正操作問題に端を発して、LIBORの金利指標としての信頼性に疑義が生じたことから、世界的に改革が進められている状況にある。具体的には、LIBORは指定された銀行によって報告された金利データに基づいて決定される仕組みだが、可能な限り実取引のデータに基づいて決定される新金利指標に変更する方向で議論が進められている。例えば、LIBORに変わる新金利指標として、日本円では無担保コールレート(翌日物)やTIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)、米ドルではSOFR(Secured Overnight Financing Rate)、英ポンドではSONIA(Sterling Overnight Index Average)が候補して挙げられている。
LIBOR廃止による直接的な影響について考えると、資産サイドや負債サイドにLIBORを参照するような金融商品があるのかどうかが条件となる。この条件に該当する場合、LIBOR から新金利指標へ移行する際の契約面の再交渉にかかるコスト、資産と負債に関する時価評価やリスク管理への影響などが想定されることになる。LIBORを参照する金融商品は、金利変動リスクに対するヘッジ目的で利用されることが多いが、新金利指標を参照する金融商品への移行も含めて、代替的にどの金融商品を用いてリスクヘッジを行うかについても検討が必要になる。
FCAがLIBOR廃止について言及した2017年7月以降、例えば英ポンドの金利スワップ市場において、その影響が徐々に顕在化し始めている。図表は、英ポンドLIBORを参照するスワップレートとSONIAを参照するスワップレート(OIS:Overnight Index Swap)の差分(LIBOR/OISスプレッド)の推移を示したものである。全ての年限において拡大傾向にあるのが分かる。このスプレッド拡大の要因として、金利スワップ市場の市場参加者が、LIBORを参照する金利スワップではなく、SONIAを参照する金利スワップを選択するようになったことが指摘されている。つまり、LIBORを参照する金利スワップへの需要が低下するとそのスワップレートには上昇圧力がかかり、SONIAを参照する金利スワップへの需要が高まるとそのスワップレートには低下圧力がかかるため、両者の相反する需給環境に起因してLIBOR/OISスプレッドが拡大することになる。また、5年や10年といった中長期よりも、20年や30年といった超長期の方がLIBOR/OISスプレッドの拡大幅が大きいという特徴も見られるが、この背景として、英国の年金基金の投資行動の変化による影響が指摘されている。
年金資産と年金債務を時価評価することが一般的になっている英国では、LDI(Liability
Driven Investment:債務に基づく運用)が広く普及している。2017年の調査では、英国では1,808もの年金基金でLDIが採用されており、その年金債務の合計は9,080億ポンド1と紹介されている。LDIでは年金債務の金利変動リスクとマッチングするように、資産サイドにおいても債券やデリバティブなどで金利変動リスクを保有することで、積立比率の変動を管理することを目的とする。LDIを採用している年金基金において、年金債務の金利変動リスクを、資産サイドにおいてLIBORを参照する金融商品を用いてマッチングさせている場合、新金利指標を参照する金融商品などに移行する必要性に迫られることになる。このような事情から、英国の年金運用では、超長期を中心にLIBORを参照する金融商品を早々に解約するなどして、SONIAを参照する金融商品に移行する動きが進められているのではないかと言われている。
1 “No end to growth in sight, The UK LDI Market,” KPMG, 2017年6月
Driven Investment:債務に基づく運用)が広く普及している。2017年の調査では、英国では1,808もの年金基金でLDIが採用されており、その年金債務の合計は9,080億ポンド1と紹介されている。LDIでは年金債務の金利変動リスクとマッチングするように、資産サイドにおいても債券やデリバティブなどで金利変動リスクを保有することで、積立比率の変動を管理することを目的とする。LDIを採用している年金基金において、年金債務の金利変動リスクを、資産サイドにおいてLIBORを参照する金融商品を用いてマッチングさせている場合、新金利指標を参照する金融商品などに移行する必要性に迫られることになる。このような事情から、英国の年金運用では、超長期を中心にLIBORを参照する金融商品を早々に解約するなどして、SONIAを参照する金融商品に移行する動きが進められているのではないかと言われている。
1 “No end to growth in sight, The UK LDI Market,” KPMG, 2017年6月
日本では、一定の取引規模があるTIBORを参照する金融商品にはLIBOR廃止の影響が及ばない方向で議論されているため、英国のように単一の新金利指標のみに移行するのに比べて、市場に与える影響は相対的に軽微なものになる可能性が高い。また、英国と比べてLDIの普及は進んでおらず、日本の年金運用全体に与える直接的な影響は限定的なものになると考えられる。
どちらかといえば、金融市場を通じた間接的な影響の方が不安要素である。LIBORはこれまでグローバルな金融市場において中心的な役割を果たしてきた金利指標である。大手金融機関を中心に取引規模が大きいこともあり、LIBORを参照する金融商品の十分な受け皿になる程度に、日本円を含む新金利指標の市場が流動性をもつにはそれなりに時間もかかるかもしれない。2021年末の期限まで準備期間が用意されているため、大きな問題に繋がる可能性は小さいと思われるが、短期を中心にLIBOR/OISスプレッドの拡大が止まらなくなるなど、過去の信用危機に見られたような現象が生じることによって、大手金融機関がリスクコントロールできなくなるような事態に波及するのが最大のリスクと言える。
どちらかといえば、金融市場を通じた間接的な影響の方が不安要素である。LIBORはこれまでグローバルな金融市場において中心的な役割を果たしてきた金利指標である。大手金融機関を中心に取引規模が大きいこともあり、LIBORを参照する金融商品の十分な受け皿になる程度に、日本円を含む新金利指標の市場が流動性をもつにはそれなりに時間もかかるかもしれない。2021年末の期限まで準備期間が用意されているため、大きな問題に繋がる可能性は小さいと思われるが、短期を中心にLIBOR/OISスプレッドの拡大が止まらなくなるなど、過去の信用危機に見られたような現象が生じることによって、大手金融機関がリスクコントロールできなくなるような事態に波及するのが最大のリスクと言える。
(2018年07月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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