2018年06月28日

社外取締役の有力候補は外国人

江木 聡

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1――社外取締役に求められる知識・経験

企業統治改革の下、上場企業は取締役会の実効性を高めるべく社外取締役の拡充を進めている。一方で、企業が社外取締役を招聘する際には課題もある。企業の求める知識や経験を備えた候補者が不足しているのである。最近のアンケートによれば、企業は社外取締役に、自社や業界の専門知識、そして経営の知見や高い見識を求めている(図表1)。
【図表1】 社外取締役を招聘する上での課題
業界の専門知識を有し、経営の経験も必要となれば、最も望ましい候補者は業界他社の経営トップを歴任した人物となってしまう。だが、日本では役員が同業他社の社外役員には就任しないという慣行が定着している1。会社と経営者が単に契約で結ばれている米国などとは異なり、日本の経営トップは出身会社との一体性が強いためだ。実際、日本では退任した経営トップが引続き会社のブランドを代表して活動を続けるケースも多い。現状、社外取締役候補のマーケットは、「無いものねだり」に陥っている部分がある。
 
 
1 北川=神作=杉山=佃=武井「新春座談会 ガバナンスの『実質化』と上場企業としての対応〔下〕」旬刊商事法務2156号(2018)P.42
 

2――選択肢を拡げる

2――選択肢を拡げる

社外取締役に期待される機能が経営に対する監督と助言であるだけに、求める知識や経験について企業が安易に妥協はできないのはもっともである。そうであるならば、候補者を探す範囲を外国人にまで拡げることを提案したい。海外には経営者のマーケットがあり、候補者として同業や近しい業界の経営トップをサーチすることも可能である。
 
先のアンケート(図表1)では、多様性(性別・国籍等)の観点でも候補者が不足しているようだが、あるガバナンス支援会社によれば、アベノミクスの女性活躍推進もあって、特に女性が社外取締役候補として非常に需要が高いとのことであり、不足している属性は主に女性(性別)とみられる。実際に女性と外国人とを比較してみると、女性が社外取締役選任で先行している。言葉や心理の壁もある外国人は、社外取締役の候補としてはこれからだといえるだろう(図表2)。
【図表2】 各属性の者が一人でもいる企業の割合
同業他社の経営トップを社外取締役に迎えた好事例として三井物産が挙げられる。社外取締役のサミュエル・ウォルシュ氏は英豪資源メジャーのリオ・ティントの元CEO であり、資源分野の知識と経営の経験という点で申し分ない。資源・非資源分野の事業ポートフォリオの在り方という、三井物産にとって重要な経営の舵取り(ガバナンス)の議論について貢献が大きいという2。また、日立製作所は社外取締役9名のうち外国人が5名を占め、日立と同じ巨大コングロマリット企業である米国3Mの元CEO・ジョージ・バックリー氏らから、ビジネスを理解しているプロ経営者ならではの鋭い指摘も多く、取締役会は議論も活発になり経営およびガバナンスへの寄与は大きいとのことである3
 
取締役会で議論が不足しているテーマこそ、外国人取締役の貢献が期待される(図表3)。「社長・CEOの後継者計画・監督」は、このたびのコーポレートガバナンス・コードの改訂によって、取締役会の関与が原則化されたため、企業にとって喫緊の課題である。後継者計画の実践で先行する海外企業で実際に経営を委譲され、また引き継いだ経験のある経営トップであれば、デリケートな実務の要諦を含めて貴重な知見をもたらしてくれるだろう。後継者計画に求められているのは、人事権を経営トップから取締役会へ移管することではなく、まずは客観性や透明性を高めることである。後継者指名は経営トップの専権事項であるという日本企業の実態からスタートして、現実的な後継者計画の枠組みづくりに協力してもらえば良いのではないか。「中長期経営戦略」の決定という取締役会の中核機能に関わる貢献は、前述の実例が示すとおりである。
【図表3】 取締役会で議論が不足している事項
 
2 江木聡「独立社外取締役 『外国人』が有力な選択肢に」週刊エコノミスト(2018年6月5日号)編集部・種市氏補足
3 「インタビュー 三菱モルガン・スタンレー証券㈱ 中村春雄取締役副社長に聞く ガバナンス改革の現在地からアクティビスト対応まで」企業会計第70巻第5号(2018)P.66
 

3――今後に向けて

3――今後に向けて

コーポレートガバナンス・コードがこのたび改訂され、取締役会は「ジェンダーや国際性の面を含む多様性」も考慮して構成すべきであるとされた(原則4-11)。ソフトな規範の要請や多様性の議論は措いても、企業がビジネスに役立つ社外取締役を素直に追求すれば、同業あるいは近接業界の外国人経営経験者が有力な候補となるだろう。「ウチの会社」の取締役会に外国人を入れるのは抵抗があるかもしれないが、経営トップにとっては同じ目線から貴重な助言が得られるといった期待から外国人を招聘するケースは徐々に増えつつある。実際に外国人を招聘した企業における取締役会の実効性の進展などについてこれからも注目していきたい。
 
 

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江木 聡

研究・専門分野

(2018年06月28日「基礎研レター」)

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