2018年06月05日

トラック運賃の上昇が貨物輸送量に及ぼす影響

金融研究部 主任研究員   吉田 資

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3分析結果
グラビティモデルによる推定結果を図表9(輸送抵抗を「輸送費用」とした分析)と図表10(輸送抵抗を「輸送時間」とした分析)に示した。

図表9(輸送抵抗を「輸送費用」とした分析)に関して、輸送費用と産業規模(「出発地・県内生産額」と「到着地・県内生産額」)は「貨物輸送量」に対して統計的に有意な影響を与えている。推定結果から、輸送費用が1%上昇すると、「貨物総量」は0.51%減少、「化学工業品」は0.47%減少、「金属機械工業品」は0.95%減少、「軽工業品」は0.50%減少することが分かった。

また、「出発地・県内生産額」と「到着地・県内生産額」のパラメーターを比較すると、「総量」と「軽工業品」では「到着地・県内生産額」の方が大きく、「化学工業品」と「金属機械工業品」では「出発地・県内生産額」の方が大きい。これは、「総量」と「軽工業品」では、出発地よりも到着地の生産額増加(産業規模拡大)が大きな影響を及ぼしている一方で、「化学工業品」と「金属機械工業品」では、到着地よりも出発地の生産額増加が大きな影響を及ぼしていることを示している。
図表-9 推定結果(輸送抵抗を「輸送費用」とした分析)
図表10(輸送抵抗を「輸送時間」とした分析)に関して、推定結果から、輸送時間が1%増加すると、「総貨物量」は2.62%減少、「化学工業品」は2.70%減少、「金属機械工業品」は2.34%減少、「軽工業品」は2.48%減少することが分かった。貨物輸送量に与える影響度(1%増加あたりの変化率)は、「輸送費」よりも「輸送時間」が大きい。
図表-10推定結果(輸送抵抗を「輸送時間」とした分析)
図表11に「輸送費用」と「輸送時間」の影響度の関係を示した。「化学工業品」の貨物輸送量は、相対的に輸送時間増加の影響を大きく受ける一方で、輸送費用増加の影響は小さい。一方で、「金属機械工業品」の貨物輸送量は、相対的に輸送費用増加の影響を大きく受ける一方で、輸送時間増加の影響は小さいといえる。
図表-11 輸送費用と輸送時間の関係

3――トラック運賃の上昇局面における国内貨物輸送の行方

3――トラック運賃の上昇局面における国内貨物輸送の行方

本章では、前章での分析結果を踏まえ、トラック運賃が上昇した場合に国内貨物輸送に起こりえる変化に関して、「モーダルシフト」と「物流費上昇に伴う価格改定」について考察する。
 
1モーダルシフト
トラック運賃の上昇に対する対応策として、トラック輸送から鉄道輸送や海運などに輸送手段を変更するモーダルシフトが挙げられる。大量の貨物を一度に輸送できる鉄道輸送や海運は、ドライバー不足が深刻な長距離輸送において輸送費用の面で優れている。

直近では、トラック輸送から鉄道輸送へのモーダルシフトが特に進んでいる。JR貨物の輸送実績(2017年度・速報値)は、モーダルシフトによるコンテナ貨物の増加に伴い、前年比2.3%増加した。

国土交通省が2018年1月に公表した「総合物流施策推進プログラム」では、鉄道によるモーダルシフト貨物の輸送量を197億トンキロ(2016年度)から221億トンキロ(2020年度)まで、海運によるモーダルシフト貨物の輸送量を340億トンキロ(2015年度)から367億トンキロ(2020年度)まで増やす計画を掲げている。今後もトラック運賃上昇が続けば、モーダルシフトはさらに進展するだろう。

前章に示した分析結果から考えると、輸送費用増加の影響が大きい一方で輸送時間増加の影響は小さい傾向にある「金属機械工業品」の貨物輸送で、モーダルシフトが特に進むと考える。実際に、トヨタ自動車が2017年3月から自動車部品(「金属機械工業品」に含まれる)を輸送する専用列車「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」を1日1往復から2往復に増便した等、モーダルシフトの動きも確認できる。
2物流費上昇に伴う価格改定
2017年以降、トラック運賃上昇に伴い、価格改定(値上げ)を行う事例が増えている(図表12)。物流費上昇に伴い値上げを行った製品は、素材系の製品(セメントやポリスチレン、アクリル等)が中心となっている。

最終製品を製造するメーカーは、物流費増加に伴い素材価格が一定程度上昇したとしても、上昇分を様々な企業努力を行い吸収しようとする(最終製品価格の値上げを回避)。結果、即座に素材の購入量(≒貨物輸送量)が大幅に減ることはないと思われる。前章で行った分析結果でも、セメントやポリスチレン、アクリル等を含む「化学工業品」の貨物量に対する輸送費用増加の影響は、相対的に小さい。

今の所、一般消費者が購入する生活用品や食品等の値上げは、容器回収の負担が大きい酒類の一部に限られているようである。ただし、今後、トラック運賃が大幅に上昇した場合、その上昇分を最終製品にまで価格転嫁する動きが広がり、消費の減速(それに伴う貨物輸送量の減少)等が起こる可能性もあるだろう。
図表-12 物流費上昇に伴う価格改定の主な事例

4――おわりに

4――おわりに

本稿の分析から、トラック運賃(輸送費用)の上昇は、貨物輸送量に対して統計的に有意な影響を及ぼしており、輸送費用が1%上昇すると貨物量は0.5%減少することが分かった。

トラック運賃の上昇が続けば、その対応策として、トラック輸送から鉄道輸送や海運などに輸送手段を変更するモーダルシフトが長距離輸送を中心に進むだろう。ただし、(1)トラック輸送は、国内貨物輸送量の約9割を占めていることや、(2)費期限等の問題から長時間輸送に適していない商品もあること等から、すべての貨物を鉄道輸送や海運に輸送手段を変更できるわけではない。国内貨物輸送においてトラック輸送が担う部分は引き続き大きい。

一方で、貨物輸送量に対して「輸送費用」とともに大きな影響を及ぼしている「輸送時間」に関して、首都圏では環状道路の整備が進み、所要時間が短縮されている。東京外郭環状道路(外環道)は、2018年6月に三郷南IC~高谷JCT間が開通予定だが、この開通によって都心を経由するよりも所要時間が3~5割短くなる8と報道されている。また、2018年度予算における重点施策として、貨物輸送量が多い三大都市の環状道路等の整備加速が挙げられており、圏央道や東海環状自動車道等については、財政投融資を活用し重点投資を行うとしている。

本稿の分析によれば、輸送時間が1%短縮した場合、貨物輸送量は2.6%増加すると推定される。人手不足に伴うトラック運賃上昇による貨物量輸送減少を、道路整備に伴う時間短縮による貨物輸送量増加で補うことも十分に可能と思われる。経済活動に大きな影響を及ぼす貨物輸送量の分析・将来見通しをたてる上で、人手不足下におけるトラック運賃の動向と併せて、高速道路整備の進捗も注視すべきだろう。
 
8 日本経済新聞・朝刊「TOKYO大変身(3)「圏央道では遠すぎる」」2018/5/31。三郷南IC~高谷JCT間の開通により、高谷JCTから大泉JCTまでの所要時間が60分から42分に短縮。高谷JCTから川口JCTまでの所要時間も54分から28分に短縮。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2018年06月05日「基礎研レポート」)

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