2018年04月16日

欧州大手保険グループの2017年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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7|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、ソルベンシーIIに同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表している。Z-ECMはソルベンシーIIやSSTとは異なり、UFRを使用していないことから、EU諸国を親会社としている保険グループと比べて、金利低下の影響をより受けることになる。

(1)Z-ECM比率の推移
着実な営業利益の計上に加えて、市場の影響がプラスに働いて、Z-ECM比率は2016年末の125%から2017年末の132%(ただし、+/-5%ポイントの変動の可能性有り)へと7%ポイント上昇した。

ZurichのZ-ECMの目標範囲は、AA格付けに相当する100%~120%となっており、2017年末の水準はこの範囲を超えている。Z-ECMがこの範囲に収まっている場合には、リスクテイクや資本調達等の面で何らのアクションも要求されないが、この水準を超える場合には、リスクテイクの増加等の手段を検討するとしている。
ZurichのZ-ECMの必要資本のリスク別内訳/ZurichのZ-ECMの資本の事業別内訳/Zurichのソルベンシー比率(Z-ECM)推移の要因
(2) 感応度の推移
感応度については、他社とは異なり、業績表示が米ドル建で行われていることから、米ドルの為替レートの影響を含めている。金利に比べて、信用スプレッドによる感応度がかなり高いものになっている。

なお、米国の税制改革は、グループのソルベンシーに影響を与えない、としている。
Z-ECM比率の感応度の推移
SST比率の感応度の推移
(3) トピック-SST(スイス・ソルベンシー・テスト)について-
SSTの報告は年1回であるが、2017年のFCR(Financial Condition Report:財務状況報告書)については、2018年4月30日までに公表されることになっている。ただし、2017年末のSSTはZ-ECMと類似の動きをすると想定されている。

SST比率は2015年末に、規制の変更等により、低下しているが、2016年末の数字に関しても、監督当局であるFINMAとの交渉により、1) 農業者代理人サービス契約に帰する価格の調整、2) 市場リスクと信用リスクの間の分散化効果の引き下げ、3) 準備金リスクの見直し、により、現在227%としているSST比率が最大25%ポイント低下することが想定されている。

なお、SSTモデルは他のソルベンシー制度よりもかなり保守的であるとしている。
 

3―まとめ

3―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2017年末におけるSCR比率の水準等について報告してきた。

2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして、2 年が経過した。この間も、各社は自社の考え方をベースとしつつも、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の方策で資本管理への対応を行ってきている。

これらの内容については、これまでの四半期毎の報告書や、2016年についてはSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)において開示や説明がなされてきている。ただし、これまでのレポートで触れてきたように、一般の投資家が理解を深めるにはまだまだ十分とはいえない面もあるように思われる。今後5月下旬以降に公表されてくる2017年のSFCR等の開示資料や説明資料において、さらなる工夫・充実が図られていくことを期待したい。

いずれにしても、欧州の大手保険グループのソルベンシーIIを巡る状況やそれへの各種対応については、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあることから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年04月16日「保険・年金フォーカス」)

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【欧州大手保険グループの2017年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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