2018年04月10日

欧州大手保険グループの2017年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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4―各社のSCR比率の目標範囲、内部モデルや長期保証措置の適用状況、自己資本、SCRの内訳等(項目別)

この章では、項目別に全体的な状況を報告する1
 
1 なお、今回のレポートの中では記載していないが、各社のSCR比率計算の前提等に関する追加的な情報については、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2015年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」 (2016.4.12)及び「保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年上期末のSCR比率の状況等について-SCR比率及び感応度の推移等-」(2016.10.11)等も参照していただきたい。
(1) SCR比率の目標範囲
SCR比率の目標範囲については、以下の通りとなっている。

・AllianzとAXAは200%をベースに設定している。
・Generaliは2016年においては、経営行動を起こす下限水準として、130%や160%を公表していた。
・Prudentialはセグメント毎に目標を設定している。
・AvivaはWorking Rangeという名称で水準設定している。
・Aegonの目標範囲は2016年には140%~170%と他社に比較して低い水準に設定されていたが、2017年においては、150%~200%へと水準が上方修正されている。

以上のように、監督上のソルベンシー規制に対する目標水準の設定方針は各社各様となっている。
(2) SCR等の算出方法-その1(内部モデルの適用状況)-
各社とも、主要国のリスクの評価においては、内部モデルを使用している。この内部モデルについては、適宜見直しが行われており、これに伴いSCR比率が変動している部分もある。

なお、米国については各社とも同等性評価に基づいている。米国子会社の資本要件のソルベンシーIIベースのグループSCRへの反映方法については、これまでは必ずしも統一されていなかったが、2017年にはAegonが他社と同様の方法に変更している。

(具体的な転換方法)
1) RBCの利用可能資本から、CAL(Company Action Level:会社行動水準)の100%を控除
2) RBCの必要資本に150%を掛ける。
3) 他の会社の自己資本や必要資本を反映する。
4) こうして算出される数値をソルベンシーII同等の自己資本やSCRであるとみなして、グループのSCR比率算出に反映する。
(3) SCR等の算出方法-その2(長期保証措置の適用状況等)-
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる経過措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置2の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。MAは英国やスペインの保険会社に対して適用され、VAは基本的には幅広く適用されている。なお、同じ負債に対して、MAとVAは重複しては適用できない。

これらの内部モデル及び長期保証措置の適用状況等についての詳しい情報は、2016年からはSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)が作成されており、この中でさらに詳しい内容が報告されている。2016年の内容については、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)~(4)」(2017.7.11~2017.7.24)で報告しているので、こちらを参照していただきたい。
 
2 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)~(4)-EIOPAの報告書2017の概要報告-」(2018.1.22~2018.2.13)を参照していただきたい。
(4) 自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類3され、 それぞれについて算入制限が設定されている。具体的には、「Tier1(無制限)は無制限、Tier1(制限付)はTier1全体の20%未満、Tier3 はSCRの15%未満、Tier2とTier3の合計でSCRの50%未満」となっている。

各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が7割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度を占めている。

各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用している。

Tier2やTier3 については、2016年から2017年にかけて、ほぼ各社とも残高が減少している。
 
3 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産 等である。
(5) SCRの内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示内容については、各社の事業構成等を反映する形で、その方式が異なっている。

リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高い。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォールト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要である。

生命保険と損害保険のウェイトが共に高いAXA、Allianz、Generaliにおいては、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。なお、Prudentialは生命保険事業が中心であるが、長寿リスクを1つの項目として挙げており、その割合も7%と有意な水準になっている。

株式や金利のリスクはともに、各社における構成比が1割程度となっている。

オペレーショナル・リスクについては、各社とも数%から1割程度の構成比となっている。

また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告してきた。

ただし、決算公表時点でのソルベンシーに関する情報提供は、必ずしも十分なものではない。先に述べたように2016年からはSFCRが作成されており、この中でさらに詳しい内容が報告されていくことになる。2016年のSFCRについては、監督当局等から、いくつかの批判や意見も見られたことから、こうした点を踏まえて、2017年のSFCRはさらに充実した内容になっていくことが期待されている。

次回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年04月10日「保険・年金フォーカス」)

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