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EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(5)
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欧州の保険業界団体である保険ヨーロッパ(Insurance Europe)は、2018年3月27日に、同日に行われた規制の枠組みの変更についての欧州委員会の聴聞会に先立って、「インサイト・ブリーフィング-2018年ソルベンシーIIレビュー」を公表5して、今回のEIOPAによる2018年のソルベンシーIIレビューに関する助言セットに関連して「2018年ソルベンシーIIレビューに関する保険ヨーロッパの主要なメッセージの概要」を説明している。
これによれば、まず、「今、何を変更する必要があるのか?」として、具体的に、リスクマージンと長期資本較正を挙げて、今回のレビューにおける必要性等について、以下のように説明している。
今、何を変更する必要があるのか?
リスクマージンと長期資本較正
欧州委員会は、健全なプルデンシャルな正当性があり、ユンケル委員会6の欧州の成長と投資の野望を支える2018年の検討の一環として、具体的な措置を講じる必要がある。
・現在の過度なリスクマージンが保険会社の長期的な商品と長期的な投資能力に及ぼす影響を認識することにより、リスクマージンにおける資本コストを削減する。
・非上場株式以外の資本に対する長期投資の資本要件を削減する。これらは現在、実際のリスクと比較して過剰であり、投資の増加に対する阻害要因になっている。
株式は、例えば、年金商品によって退職後の生活費をカバーするのに必要な望ましい長期的なリターンを提供するのを助けるために、、分散化されたポートフォリオ内で必要となる。株式投資はまた、欧州での成長と雇用の原動力になる。顧客を危険にさらすことなく、大幅により低い資本コストを正当化できる。より大きな投資は、経済と同様顧客に恩恵を与える。
リスクマージンは理論的な概念に過ぎないが、現時点では、保険会社のバランスシートから潜在的に生産性の高い2,000億ユーロを超える資本金を除去している。顧客に請求を支払う必要はないが、保険会社の負債はそれらが取引されているかのように評価されるべきであるという理論に結びついている。一部の長期商品では、ソルベンシー資本要件を倍増するのと同じ効果がある。リスクマージンの計算における重要な要素である資本コストは、現在の6%よりも大幅に低くなければならない、という広範な証拠があり、この証拠は無視されるべきではない。問題の大きさを考えると、いくつかの改善が2018年のレビューでなされるべきである。リスクマージンの必要性とその設計についてのより幅広い問題は、2020年のレビューにおける優先事項となりうる。
5 リリース内容 https://www.insuranceeurope.eu/insight-briefing-2018-solvency-ii-review-published
ブリーフィング https://www.insuranceeurope.eu/sites/default/files/attachments/Insight%20briefing-2018%20Solvency%20II%20review.pdf
6 ジャン=クロード・ユンケル(Jean-Claude Juncker)を委員長とする欧州委員会
LAC DTに関しては、「欧州委員会は、コンバージェンスの趣旨の下でEIOPAによって提案された人工的かつ控えめな制限を拒否すべきである。」とし、「フレームワークをはるかに保守的にし、保険会社に不必要な資本圧力をかけるような任意の制限を適用するのではなく、監督上の判断と対話を促す現行のプリンシプルベースのアプローチを維持する正当な理由がある。」と述べている。
金利リスクについては、「変更は 保険契約者の保護を確実にするためには必要ないが、長期的なビジネスに対する障壁が増える。金利は、評価方法論に関するより広範かつ根本的な問題に直接関係しており、2020年のレビューで扱われるべきである。」と述べている。
これらの項目に関してEIOPAによって提案された今回の変更は、必要ではなく、ユンケル委員会の成長目標とも矛盾しているため、これを進めるべきではないとしている。
変更してはいけないことは何か?
金利リスクとLAC DT
EIOPAの金利リスク及び繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)に対する提案された変更は、ユンケル委員会の成長目標と矛盾するものであり、これを先取りすべきではない。
・金利リスクの較正は変更すべきでない。変更は、保険契約者の保護を確実にするために必要なものではなく、長期契約への障壁を増加させる。金利は、評価手法に関するより幅広い基本的な問題に直接的に関連しており、2020年のレビューで取り扱われるべきである。
・繰延税金の損失吸収能力に任意の制限を課すべきではない。ソルベンシーIIは、既にLAC DTの使用をサポートするために高い基準の証拠を要求している。
LAC DTの限度額は、資本要件を相殺するために使用できる税還元の割合に関連している。欧州委員会は、コンバージェンスの趣旨の下でEIOPAによって提案された人工的かつ控えめな制限を拒否すべきである。ソルベンシーIIは既に、欧州全体で非常に高度な調和を提供しており、会社や監督者がフレームワークの経験を積むにつれて、コンバージェンスの増加が期待されている。いくつかの考慮事項は、事業の性質、会社の概要及び税制など、LAC DTの制限に関する決定を規定している。したがって、フレームワークをはるかに保守的にし、保険会社に不必要な資本圧力をかけるような任意の制限を適用するのではなく、監督上の判断と対話を促す現行のプリンシプルベースのアプローチを維持する正当な理由がある。
金利アプローチは既に保守的であり、金利リスクの現在の較正に健全性の懸念を生じさせるべきではない。EIOPAのストレステストでは、既に長期にわたる超低金利に対する欧州保険業界の耐性力が実証されている。金利リスクへのいかなる変更も、保険会社の長期商品及び長期投資ならびに株式などの非固定利付資産への投資能力にマイナスの影響を与えることになる。この領域におけるEIOPAの影響評価は、簡素化と代理に基づいており、変更の実際のマイナスの影響を過小評価しているようにみえる。欧州委員会は、2020年のレビューでカバーされるより幅広い金利問題との関連性のために、EIOPAに2018年のレビューにおいて、この領域に関する助言を依頼しないとの正当な理由があった。
後で、何を変更する必要があるのか?
ソルベンシーIIが保険事業と投資の長期的な性質を正しく反映できるようにするため、2020年の全面的なレビューでは全体的な改善の考え方が必要となる。前述のように、2020年のレビューでは、リスクマージンの設計が優先されるべきである。また、金利リスクの較正は、負債及び金利の評価に関連するより幅広い問題に取り組む2020年に見直されるべきである。
ソルベンシーIIの特定の要素は、保険会社が常に資産及び負債を全て取引するという誤った前提に基づいているため、調整が必要となる。これは、間違ったリスクが測定されていることを意味し、過度な資本要件と人為的なボラティリティを招く。このことは、欧州委員会が設定した「持続可能な金融に関するハイレベル専門家グループ」の報告書7で強調された。実際、保険会社は長期で投資が可能であり、トレーダーとは異なり、悪い時にポートフォリオ全体を売却することは殆どない。
間違った措置を講じることは、より高い保険料、より低い給付、より少ない選択肢につながることから、消費者にとっても重要である。それは、保険会社が経済成長をサポートする能力を制限することになるため、経済にとっても重要である。
今回のEIOPAからの助言を受けて、欧州委員会で、今後検討が行われていき、資本計算の簡素化や技術的な問題の修正に焦点を当てた第1段階のレビューは、2018年12月までに、最終決定されていくことになる。
いくつかの項目については、保険業界等のステークホルダーの合意も得られていることから、問題なく助言に準じた見直しが行われていくことになる。ただし、保険ヨーロッパが引き続き、EIOPAの助言に反対の姿勢を示している項目については、保険業界にとって大変重要な項目であることから、今後これらの項目に対して欧州委員会がどのように対応していくのかについては、極めて注目されるところとなる。
特に、この検討の過程においては、保険ヨーロッパがインサイト・ブリーフィングの最後に述べている「保険会社の資産と負債の評価等におけるベースとなる考え方」等について、欧州委員会がどのように判断していくのかについては、大変興味深い点となる。これらの考え方は、今後グローバルでの保険会社の各種規制を考えていく上でも重要になってくるものと考えられる。
いずれにして、今後とも、今回のソルベンシーIIレビューに関する助言セットを踏まえての関係者の動き等については注視していくこととしたい。
(2018年04月09日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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