2018年04月05日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(4)

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主要原則IXについては、SFCR4に関する第297条及びRSR5に関する第311条を改正することにより、LAC DTに関する公開及び監督報告に関する重要な原則Ⅸを実施することを提案している。両方において、会社は、適格自己資本及びソルベンシー資本要件の将来利益への依存の証拠を提供しなければならない。RSRにおいて、会社は、貸借対照表上の正味DTAとSCRの減額としてのLAC DTを実証するために使用された前提の信頼性に関する十分な証拠を追加的に提供すべきである、としている。これらの改正は、会社に対して、会社が繰延税金資産及びLAC DTを特にこれらの計算及び将来において使用される可能性が高いデモンストレーションにおいて、適用される基礎となる前提をどのように計算するかを明確に説明することを要求している。

1872.EIOPAは、可能性の高い利用が貸借対照表上の正味繰延税金負債(DTL)によって示されている場合のLAC DTの一部である、EEA全体でLAC DTの約1000億ユーロの75%以上に関して、国家監督当局(NSAs)が同様のアプローチを取っている証拠を提供した。そのポジティブな位置を認識しながら、可能性の高い利用が将来利益によって示されている場合のLAC DTの残りの部分に関しては、NSAsは異なるアプローチを取っている。税制でキャリーバックが適用される場合、NSAsは、監督者が同様のアプローチを取っているLAC DTの75%を増加させて、LAC DTの可能性の高い利用を示すためのその使用を認めている。

1873.EIOPAは、EEA全体でLAC DTの75%超に関してNSAsが同様のアプローチを取っているというポジティブな立場を認識している。差異がある残りの部分のうち、EIOPAは、差異が、財政制度、リスクプロファイル又は資産と負債の長さとデュレーションの違いに起因している場合、LAC DTの差異が正当化されると考える。EIOPAは財政制度を所与として取り扱う。より高い税率又はより有利なキャリーフォワード及びキャリーバックの可能性を持つ税制を有する管轄区域における会社は、他の全てが同等であれば、より高いLAC DTを有するであろう。

1874.EIOPAは、bSCRショック損失後6に推定される将来利益の予測に依存するLAC DTの部分に関わる幅広い判断を観察した。ソルベンシーⅡの貸借対照表及びSCR計算の評価は、専門家による判断が必要となるため、主観性それ自体は問題ではない。しかし、通常、貸借対照表評価及びSCR計算に対する専門家による判断は、同様の資産及び負債とリスクの比較的小さな範囲の可能な結果につながる。将来利益によって示されるLAC DTの部分に関して、監督当局は、同様の会社に対する広範な前提及び結果を観察した。

1875.この理由から、またEIOPA規則(2010年11月24日:規制(EU)1094/2010)の第8章及び第16章により、EIOPAは、標準式の下でのLAC DTの計算、特に繰延税金の増加の可能性の高い利用を示すために使用されるストレス後の課税利益の予測に対して、コンバージェンスを達成するよう努力しており、今後はこうしたコンバージェンスを確実にするための適切な優良事例を検討する予定である。しかし、LAC DTに関する現在の規制の改正なしには、会社と監督上のアプローチにおけるコンバージェンスは達成できない。

(1383. LAC DTに関するこの章では、EIOPAは、ガイドライン、意見又は監督上のハンドブックのような監督上のコンバージェンスツールを用いてよりよく対処できる要素から、委任規則への可能な変更に関しての欧州委員会への助言の一部となる要素を区別しなかった。このため、この章では最後に青いボックスの助言は含まれていない。ステークホルダーのコメントを考慮してさらに検討した後、EIOPAは合理的な決定を下す。)

1876. EIOPAは、監督上のコンバージェンスを促進し、3つの懸念に取り組むために、いくつかの主要原則を検討する。
・名目上の繰延税金資産(DTA)の利用に対する将来利益についての不確実性
・これらの将来利益の予測に関係する複雑さ
・名目上のDTAの可能性の高い利用に関連する広範囲の判断による不公平な競争条件

1877.これらの主要原則は次のとおりである。

I.会社の財務及びソルベンシーポジション-ショック損失後のMCRとSCRの遵守の  
役割
II.新契約からの将来利益 - 予測の前提
III.新契約からの将来利益 - 新契約からの将来利益の予測期間
IV.新契約からの将来利益 - 新契約販売の予測期間
V.資産の利益からの将来利益
 
VI.技術的準備金を超えた資産の収益からの将来利益 –予測期間
VII.将来の経営行動
VIII.ガバナンス制度の役割
IX.監督者の報告と開示

1878.ショック後のDTAの可能性のある利用の実証についての主要原則16に関して、EIOPAは、ショックロス後の繰延税金の計算のための追加の基準を設定することによって、主要原則を実施するよう勧告する。その目的のために、EIOPAは、LAC DTに関する委任規則第207条の改正を勧告する。

1879.委任規則第207条第1パラグラフは、LAC DTがショックロス後の繰延税金の変動と等しいことを規定している。提案された修正及び明確化は、繰延税金の値の変動に関連している。この勧告は、LAC DTに適格であるショックロス後の想定繰延税金の決定の根底にある前提のための要件を第207条に追加することである。

1880. これらの要件は、LAC DTを計算する際に、会社は、ショックロス後の財務及びソルベンシーのポジションとショックロスに続く将来利益の予測に関する不確実性の増加を考慮しなければならない、ことを明確にしている。ショックロスに続く将来利益を予測する場合、委任規則第15条に従い、ソルベンシーIIの貸借対照表上の繰延税金の評価に適用される前提よりも有利な前提を適用すべきではない。

1881. MCRとSCRへの準拠に関して、委任規則は「損失(...)の大きさと会社の現在及び将来の財務状況への影響」を考慮しなければならないことを既に規定している。EIOPAは、ショックロス後にMCRとSCRを満たすための追加の明示的な要件を助言していないが、遵守の程度は、想定繰延税金の可能性のある使用に対して利用可能な利益の金額に反映されるべきである(提案されたパラグラフ2aの第2インテンドを参照)。リターンからの利益に関しては、資本要件への遵守の程度は、ショックロスがショック後の技術的準備金を超える資産の減少を意味するため、リターンをそれ以上調整することなく、自動的に実施される。これは自動的にリターンからの利益を減少させ、EIOPAは、資本要件の遵守の程度を反映するためのさらなる調整をダブルカウントとみなす。新契約からのリターンに関して、会社は、ショックロス後の資本要件の遵守の程度を反映するために、前提を調整する必要があるかもしれない。


1882.ショックロス後の不確実性の増加を考慮すると、EIOPAは、資産リターンについてのショック後の前提を、関連する金利ターム構造から導出された先物レートと等しく設定することが適切であると考える。しかしながら、一定の状況下では、より高いリターンが正当なものであることを認識すべきである。したがってEIOPAは、会社がショックロス後にそのような超過リターンを実現する可能性が高いという確かな証拠を提供できる場合に、リスクフリーレートを超えるリターンを認められるように勧告する。

1883.しかしながら、これらのより高いリターンは限定されるべきであり、ショック後の損失前提が、ショック前の損失DTAの評価に適用されるものよりも有利ではないという規定が、この原則を実施する。これにより、ショックのいかなる部分の反転も想定されず、とりわけプル・ツー・パー(額面への牽引)及びショック反転がないことを意味する、ことが保証される。エクイティ(その他の投資)に対する期待リターンは、貸借対照表上の繰延税金を評価する際に、これらのエクイティについて仮定されたリターンを超えない。固定金利投資も同様である。ショックロス後に想定される利回りは、貸借対照表上の繰延税金の評価について仮定された利回りを上回らない。全ての投資について、リターン前提はショック後の値に適用される。

1884.ショックロス後の想定繰延税金の評価に使用される期間は、繰延税金の貸借対照表評価に使用される対応する期間より長くすべきではない。新契約に関しては、EIOPAは、(再)保険会社によって実施される様々な予測における一貫性を確保するために、新契約の計画と事業計画をリンクさせることを勧告する。

・まず、 LAC DTの予測における新契約販売総額は事業計画のそれを超えてはならない。

・第2に、新契約販売の予測期間も事業計画のそれに限定する必要がある。(再)保険会社に事業計画を延長するというインセンティブを提供しないようにするために、新契約販売の予測期間は、いかなる場合にも5年に制限されるべきである。このような限度の設定は、必ず専門家の判断に基づくものであるが、影響評価はそれが会社に強い影響を与えないことを示している。事業計画の10%のみが5年を超えている。

・第3に、新契約に起因する利益が事業計画よりも長い期間にわたって予測される場合、会社は不確実性の増加を反映すべきである。EIOPAは、新契約からのこれらの利益にヘアカットが適用されるべきと勧告する。予測が長くなればなるほど、ヘアカットは大きくなる。

1885EIOPAは、委任規則第23条を参照することにより、将来の経営行動に関する主要原則7を実施することを勧告する。これは、LAC DTの計算要件と委任規則第83条に規定されているシナリオベースの計算要件を調和させる。

1886EIOPAは、リスク管理分野に関する第260条と保険数理機能(アクチュアリアル・ファンクションに関する第272条を変更することにより、LAC DTに関するガバナンス要件に関する主要原則8を実施するように勧告する。リスク管理方針にガバナンス要件を含めることで、方針の承認中にAMSBの適切な関与が保証される。保険数理上の機能又はより適切な場合にはリスク管理機能は、貸借対照表上の繰延税金資産の評価(第15条)と LAC DTの目的(第207条)の両方のための将来の利益予測に適用される基礎となる前提を評価し検証することを公式的に求められるべきである。

1887EIOPAは、SFCRに関する第297条及びRSRに関する第311条を改正することにより、LAC DTに関する公衆開示及び監督報告に関する重要な原則9を実施することを提案している。両方において、会社は、適格自己資本及びソルベンシー資本要件の将来利益への依存の証拠を提供しなければならない。RSRにおいて、会社は、貸借対照表上の正味DTASCRの減額としてのLAC DTを実証するために使用された前提の信頼性に関する十分な証拠を追加的に提供すべきである。これらの改正は、会社に対して、会社が繰延税金資産及びLAC DTを特にこれらの計算及び将来において使用される可能性が高いデモンストレーションにおいて、適用される基礎となる前提をどのように計算するかを明確に説明することを要求している。

 
4 SFCR(solvency and financial condition report:ソルベンシー財務状況報告書)
5 RSR(regular supervisory report:定期的監督報告書)
6 bSCRショック損失は、「SCR-LAC DT」又は「bSCR(基本SCR)+オペレーショナルリスク+LAC TP(技術的準備金のLAC)
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中村 亮一

研究・専門分野

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