2018年03月23日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~成長ドライバーは外需から内需へ重心シフト

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2-4.フィリピン
フィリピン経済は16年の大統領選挙の関連特需からの反動減により、成長率が昨年初にかけて伸び悩んだが、その後は輸出の好調とインフラプロジェクトの加速によって2期連続で回復した(図表12)。10-12月期の成長率は前年同期比6.6%増と、7-9月期の同7.0%増から小幅に鈍化したものの、これは輸入拡大の影響が大きい。過去2四半期で鈍化していた内需の勢いは再び加速しており、むしろ景気は力強さを取り戻してきている。景気回復の主因は、GDPの約7割を占める民間消費が1年ぶりに6%台まで加速したことだ。民間消費は政府支出の拡大を背景とする雇用の回復や海外出稼ぎ労働者からの送金額(ペソベース)の高い伸びによって加速した。ただし、今年1月の物品税増税を控えた自動車の駆け込み需要で一時的に消費が押し上げられた可能性もあるだろう。また投資についても機械投資と公共建設投資を中心に好調が続いている。

先行きのフィリピン経済はドゥテルテ政権が掲げるインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」が本格化2することから、内需主導の高成長が続くと予想する。インフラ財源調達のための税制改革法第1弾TRAINは一部を除いて今年1月に施行されたほか、残る第2~5段の税制改革も年内成立を目指している。18 年度予算の資本支出は前年度比26.9%増と、前年度の同23.7%増から上昇しており、インフラ整備計画は本格化が見込まれる。公共投資の拡大が呼び水になり、また消費需要が拡大するなかで民間投資も堅調に推移しよう。

民間消費については、まず今後の物価上昇が家計の実質所得を目減りさせるほか、年前半は物品税増税によって自動車など一部品目の販売が落ち込む可能性もあるだろう。しかし、インフラ整備計画や輸出の拡大を背景に雇用・所得環境が改善すること、また海外経済の回復によって海外出稼ぎ労働者の送金も増加することから、消費は堅調な伸びを維持するだろう。

外需は、中国経済の減速などから輸出の増勢が鈍化する一方、建設資材や機械などの資本財輸入が増加するものと見込まれる。結果として、輸入の伸びは輸出を上回り、純輸出の寄与度は再びマイナス幅が拡大すると予想する。

金融政策は2014年9月に政策金利を引き上げられて以降は、据え置かれている(図表13)。足元のインフレ率は中銀目標(3±1%)のほぼ上限まで達しているが、これは税制改革による一時的な物価上昇による影響が大きい。もっとも先行きは資源高やインフラ整備加速による堅調な内需、経常赤字化によるペソ安進行などにより、インフレ圧力は高まるだろう。中央銀行は物価動向や金融市場の動向を注視しつつ、年前半にも利上げ局面に入ると予想する。

実質GDP成長率は18年が6.7%と、17年から横ばいから推移した後、19年が6.6%と内需主導で堅調に推移すると予想する。
(図表12)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表13)フィリピンのインフレ率と政策金利
 
2 ドゥテルテ政権の経済政策の主軸である「ビルド・ビルド・ビルド」では、首都圏を横断する南北通金銭、首都圏の地下鉄、ミンダナオ地方の鉄道などの大型案件を含み、インフレ関連支出を17年の5.3%から22年までに同7.4%へ拡大することを掲げている。
2-5.ベトナム
ベトナム経済は昨年初までは軟調に推移していたが、その後は成長ペースが加速した。17年の成長率が前年比6.8%増となり、政府目標の6.7%を達成した(図表14)。景気の牽引役は二桁成長まで加速した製造業であり、海外経済の回復とITサイクルの改善を受けて主力のサムスン電子のスマートフォンやアパレルなどの輸出が大きく増加した(図表15)。外資系製造業による対内直接投資の拡大が国内の雇用・所得環境の改善に繋がり、サービス業は卸売・小売業やホテル・レストラン業を中心に堅調な伸びを続けている。さらに建設業は農業開発や交通インフラなどの投資拡大を受けて経済全体を大きく上回る成長が続いており、また16年に干ばつや塩害などで落ち込んだ農林水産業も緩やかに回復している。一方、鉱業は原油価格下落を受けて生産コストが割高な国内の油田が減産したために低迷している。

先行きのベトナム経済は成長ペースが若干ダウンするものの、堅調な伸びを維持するだろう。世界経済の回復を背景に輸出が増加傾向を続けるものの、18年は中国経済の減速やITサイクルがピークを迎えることから輸出主導型の景気回復は落ち着いたものとなるだろう。従って、製造業生産は次第に増勢が鈍化するものと見込まれる。もっともベトナムは署名までに至ったTPP11や18年発効を目指す欧州との自由貿易協定(EVFTA)など自由貿易化には積極的であり、中長期的にアパレルなど軽工業分野の外国資本が流入することから、製造業生産は堅調な伸びを維持するだろう。また、遅れていた国営企業の株式化や資本引上げが昨年後半に進展し、財政余力を高めたことからインフラ整備事業は当面進展しそうだ。建設業は堅調を維持すると予想する。

一方、サービス業は製造業の生産能力拡張や賃金上昇(18年の最低賃金は平均6.5%増)を背景に雇用・所得環境が改善して堅調に推移すると予想する。また昨年末の買い控えの反動が出る自動車販売や外国人観光客数の増加などは消費需要の押し上げ要因となるだろう。もっとも先行きの物価上昇は家計の実質所得を目減りさせるため、サービス業の押下げ要因となるだろう。

農林水産業は前年の落ち込みからの回復局面が終わり、安定成長へシフトすると予想する。

金融政策は、中央銀行が昨年7月に14年以来の利下げを実施して以降、据え置かれている。足元のインフレ率は中銀目標(年平均4%以下)を下回って安定しており、利下げ余地はあるものの、先行きは堅調な経済と原油価格の上昇、欧米の金融政策正常化を背景とした通貨安などから物価目標上限の4%まで緩やかに上昇すると見込み、19年に利上げすると予想する。

実質GDP成長率は、18年が6.6%と政府目標(6.5~6.7%)を達成するものの、中国経済の減速の影響で17年の6.8%から小幅に低下、19年が6.4%と更に小幅に低下すると予想する。
(図表14)ベトナム実質GDP成長率(供給側)/(図表15)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
2-6.インド
インド経済は16年11月に実施した高額紙幣の廃止による現金不足のショックで経済が停滞し、更には昨年7月の物品サービス税(GST)導入を控えた企業の在庫削減の動きが広がったことから、成長率は4-6月期に5%台まで落ち込んだ(図表16)。その後、現金不足のショックは徐々に和らぎ、現金流通量は足元で廃貨前の水準まで回復している。GST導入に伴う企業の混乱は収束までには至っていないものの、徐々に克服してきている。こうしたなか景気は徐々に回復し、10-12月期の成長率は7.2%にまで上昇した。10-12月期は、政府が財政赤字目標を後退させてまで景気下支えをはかったことが政府消費・公共投資を押し上げ、景気の牽引役となった。政府のインフラ整備事業の進展やGSTのシステムに適応した企業の設備投資需要の回復などから投資は拡大した。一方、民間消費は3期連続で伸び悩んでいる。穀物価格の低迷による農業所得の伸び悩みや消費者物価の上昇が家計の購買力低下に繋がったとみられる。

先行きのインド経済は、GST導入に伴う混乱の影響が終息に向かうなか、景気は巡航速度まで回復していくだろう。まず政府は来年度予算において積極財政路線を示してインフラ整備や農業支援策を拡充しており、公共部門が景気を支える展開は続きそうだ。

民間消費は今後の景気回復に伴う物価上昇が家計の実質所得を目減りさせるものの、農産品の最低支持価格の引き上げなどで農業従事者の所得環境が改善し、また建設部門を中心に雇用が拡大することから堅調に推移しよう。

投資は、企業の過剰設備や銀行の不良債権問題の解消には暫く時間を要することから設備投資は伸び悩むものの、拡大する消費需要と政府のインフラ整備に対応した投資が期待できる。またGSTや破産倒産法など改革の効果が表れるなかで投資は持ち直していくだろう。

輸出はGST導入の影響が和らぐなかで回復すると予想する。もっとも世界経済は増勢が鈍化するなかで輸出の伸びも限定的に止まることとなりそうだ。一方、内需拡大を背景に輸入が堅調に伸びることから、純輸出は成長率に対してマイナスに働くだろう。 

金融政策は昨年8月に政策金利を引き下げるなど緩和的な姿勢を維持してきたものの(図表17)、中銀は原油価格の上昇や景気回復を背景とする先行きのインフレに警戒感を示しており、政策スタンスを中立に保っている。今後も欧米の金融政策正常化により金融緩和に踏み切りにくくなることから政策金利の据え置きを予想する。

実質GDP成長率は18年が7.4%、19年が7.3%となり、高額紙幣廃止とGST導入に伴う混乱によって低下した17年の6.4%から上昇し、巡航速度の成長ペースに戻ると予想する。
(図表16)インドの実質GDP成長率(需要側)/(図表16)インドのインフレ率、政策金利
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2018年03月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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