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IT×保険で、相互保険を再定義―中国初の生保相互会社の誕生-【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(30)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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4-相互会社設立条件―資本を除き保険会社(株式会社)の規定を準用
また、相互会社を構成するのは、設立のための「主要発起会員」とそれ以外の「一般発起会員」である。主要発起会員は、相互会社設立のための初期運営資金を拠出する責任を担った企業や個人である。一般発起会員は、相互会社の設立後、保険に加入し、会員となることを承諾した企業や個人となる。
例えば、(1)の一般相互会社の設立には、初期運営資金(拠出金)が1億元以上必要となっている(図表3)。設立には、定款、専門知識・保険の業務経験を持つ董事・監事・上級管理者、健全な組織・管理制度、経営に必要な場所・施設も備えていなければならない。また、一般発起会員数が500以上必要となる。設立については、中国保険法を準用しており、資本などの項目を除けばほぼ同様となっている。設立の手続きは株式会社形式の保険会社の規定に基づいて行われることになっている。
4 滙友建工財産相互保険社は、主要発起会員である責任保険会社、資産管理会社の2会員が、初期運営資金6億元で設立。会員総数は563。主なターゲットは建設関係の業者で、商品も建設に係るリスク補償に特化している。例えば、入札、契約履行、工事や賃金などの支払いについて補償する保険を販売している。2017年11月時点での収入保険料は287万元。
5-中国初の生保相互会社の誕生―アリ金融系が6割の資金を拠出、経営地域は北京市と、資金を拠出した会社の従業員及びその親族に限定。
中国初の生命保険の相互会社である信美人寿相互保険社は、EC最大手のアリババ集団の金融子会社である蟻金融服務集団(アント・フィナンシャル、以下、アリ金融)が最大の34.5%を拠出している。アリ金融は、これまでネット専業損保の衆安保険(13.8%出資)、損保の国泰財産保険会社(51%出資)にも出資し、いずれも筆頭株主となっている。信美人寿への資金拠出によって、生損保の両分野に進出したことになる。アリ金融以外には、アリ金融が筆頭株主で51%を出資する天弘ファンド(24.0%出資)、ベンチャーキャピタルの国金鼎興(10.0%出資)など合計9社が主要発起会員となっている(図表4)。初期運営資金は10億元で、一般発起会員を含めた総会員数は582となっている(2017年9月30日時点)。2017年5月に正式に開業した。
組織形態としては、意思決定機関として会員(代表)大会を設置し、組織の重大事項を決定する(図表5)。会員大会は日本の相互会社の社員総会に相当し、すべての会員で構成されている5。会員はそれぞれ一票の表決権が与えられる。会員(代表)大会では、董事や監事の選出、定款の変更、合併・解散などの決議、初期運営資金の利息の支払い、剰余金の分配などについて決定する6。定款についての規定を除き、会員(代表)大会の権限や組織などについては、中国会社法の株主総会の規定を準用することになっている。
信美人寿の董事は11名、監事は3名、本社の上級管理層(トップ層)は7名で構成されている。本社のトップ層の7名のうち6名で管理執行委員会を構成している。本社のトップ層を見ると、7名とも30~40歳代で、CEOである楊帆氏は董事長、管理執行委員会の主席も兼ねている。楊氏は国有最大手の中国人民保険公司、民間生保の泰康人寿、保監会での職務も経験している。
5 会員代表大会は日本の総代会に相当し、信美人寿の会員代表は44名となっている。
6 例えば、董事・監事の選出などの決議の成立には、出席した会員または会員代表の議決権の半数以上の賛成が必要となる。また、定款の変更、合併・解散、初期運営資金の利息の支払い、剰余金の分配などの決議の成立には、出席した会員または会員代表の表決権の四分の三以上の賛成が必要となる。
信美人寿は、経営地域を北京市、主要発起会員の職員や親族に限定している点に大きな特徴がある。商品は万一の時の備えとしての定期保険、病気やケガの医療費に備える医療保険・傷害保険や、将来の生活に備える年金保険などがある。2017年5月の開業から12月までの収入保険料は、北京市における企業向けや、会員向けで4億7,404億元となった7。そのうちのおよそ4割は主要発起会員などの関連企業が占めている8。2017年の資産運用状況については公表されていないものの、信美人寿は、2017年7月時点で主要発起人である天弘ファンド、興行銀行と資産管理契約を締結している9。2017年末時点での契約累計額は7.5億元で、主な投資先は安定した固定収益類としている。なお、相互会社が資産を自家運用する場合は、預金、国債の売買など固定収益類への投資などに限定されている。
信美人寿は、アリ金融がこれまで蓄積した衆安保険の経営におけるノウハウや、本来より持つネット決済、金融ビッグデータ分析などの技術を十分に活用することができる。また、新たな技術としてブロックチェーンを活用したデータの共有化、AIによる商品設計、サービスなどへの活用も視野に入れている。2017年5月に開業してまだ間もないが、今後はアリババ経済圏の一員としても、幅広い顧客層へ相互保険の提供が可能となる。
7 2018年2月半ば時点では、保監会が公表している収入保険料は2017年11月までとなっている。ここでは、2017年第2四半期~第4四半期 支払余力四半期報告摘要から収入保険料を合算して算出。
8 ウェブサイトに公表された関連企業取引情報から算出
9 2018年2月半ば時点では2017年のアニュアルレポートは公表されておらず、資産運用の規模、運用先等も公表されていない。資産管理契約はウェブサイトに公表された関連企業取引情報に基づいている。
(2018年02月20日「保険・年金フォーカス」)
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- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
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