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- ブラジル経済の見通し-2017年は3年ぶりのプラス成長と予想。18年は大統領選挙の行方に注目。
2017年12月04日
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(総固定資本形成) 足元では底打ちの兆し。18年以降はインフラ投資プログラムの効果に期待
7-9月期の総固定資本形成6は前期比1.6%増と15四半期ぶりのプラス成長となり、底打ちの兆しが見られる。これはSelic(政策誘導金利)の引下げに伴う貸出金利の低下と景況感の改善によって、民間部門の住宅投資と設備投資が回復していると考えられる。
今後は、Selicの引下げ幅の縮小や据え置きによって、貸出金利の低下も鈍化していくと予想されるが、景況感の改善によって、引き続き民間部門の投資は堅調に推移していくだろう。またテメル大統領の収賄疑惑等によって大幅に遅れているコンセッション方式のインフラ投資プログラムの効果が18年以降顕在化し、総固定資本形成を押し上げると期待される。
中央銀行がSelicの引下げを継続している中、銀行の貸出金利は、17年初をピークに低下傾向が続いている(図表7)。住宅市場では、過去2年の景気後退による住宅価格の下落と、貸出金利の低下、景況感の改善もあいまって、新規住宅販売戸数は活況となっている(図表8)。
7-9月期の総固定資本形成6は前期比1.6%増と15四半期ぶりのプラス成長となり、底打ちの兆しが見られる。これはSelic(政策誘導金利)の引下げに伴う貸出金利の低下と景況感の改善によって、民間部門の住宅投資と設備投資が回復していると考えられる。
今後は、Selicの引下げ幅の縮小や据え置きによって、貸出金利の低下も鈍化していくと予想されるが、景況感の改善によって、引き続き民間部門の投資は堅調に推移していくだろう。またテメル大統領の収賄疑惑等によって大幅に遅れているコンセッション方式のインフラ投資プログラムの効果が18年以降顕在化し、総固定資本形成を押し上げると期待される。
中央銀行がSelicの引下げを継続している中、銀行の貸出金利は、17年初をピークに低下傾向が続いている(図表7)。住宅市場では、過去2年の景気後退による住宅価格の下落と、貸出金利の低下、景況感の改善もあいまって、新規住宅販売戸数は活況となっている(図表8)。
一方で、公的部門については、過去2年の景気後退による税収不足と16年末に成立した歳出上限法7が足枷となり、政府による投資は伸び悩んでいると見られる。また政府が16年9月に発表したコンセッション方式のインフラ投資プログラムの多くは、当初17年中に入札が実施される予定であったが、5月に発覚したテメル大統領の収賄疑惑等によって入札が大幅に遅れている。しかし、11月に連邦政府が再発表したAvançarプログラムによると、2018年末までに総額1309億7000万レアル規模のインフラ投資を予定しており、18年以降に総固定資本形成を押し上げることが期待される。
6 総固定資本形成の内訳は公表されていない。
7 17年度から20年間にわたって歳出の伸びを前年の消費者物価上昇率以下に抑制する必要がある。
6 総固定資本形成の内訳は公表されていない。
7 17年度から20年間にわたって歳出の伸びを前年の消費者物価上昇率以下に抑制する必要がある。
(政府消費) 年金制度改革の行方次第では、景気に水を差す懸念も
政府消費は前期比0.2%減と5四半期連続で減少している。政府は深刻な財源難に陥っており、中央政府の9月までの基礎的財政収支赤字は1997年以降最悪の水準となった。今後は、財政悪化に伴う緊縮的な財政政策が景気に水を差す懸念がある。
政府は、歳入の増加に向けて7月に燃料税を大幅に引上げたほか、8月には中央政府の17年度(1-12月)及び18年度の基礎的財政収支の目標を下方修正、連邦公社の民営化を進めている。しかし、財政赤字の主因である年金制度改革の審議は停滞している。さらに法案の成立には上下院で2回ずつ5分の3以上の賛成を得る必要があるため、採決にあたって当初案からの譲歩を迫られており、実効性の低下が懸念されている。
また大手格付会社S&Pは、現在ブラジルのソブリン格付けを格下げ方向のクレジットウォッチ8に指定しているが、改革が遅れた場合、格下げを行う文書を10月に送付したと報道されている。格下げとなった場合、金利の上昇を通じて利払費が拡大し、財政悪化に拍車がかかるだろう。そして、さらなる緊縮的な財政政策を迫られることになれば、政府支出による景気の下支えは期待できなくなるだろう。
8 短期的(通常は90 日以内)に格付けに影響を及ぼす重大な出来事が予定されている時に、クレジットウォッチへの指定が行われ、状況や動向が見極められる。
政府消費は前期比0.2%減と5四半期連続で減少している。政府は深刻な財源難に陥っており、中央政府の9月までの基礎的財政収支赤字は1997年以降最悪の水準となった。今後は、財政悪化に伴う緊縮的な財政政策が景気に水を差す懸念がある。
政府は、歳入の増加に向けて7月に燃料税を大幅に引上げたほか、8月には中央政府の17年度(1-12月)及び18年度の基礎的財政収支の目標を下方修正、連邦公社の民営化を進めている。しかし、財政赤字の主因である年金制度改革の審議は停滞している。さらに法案の成立には上下院で2回ずつ5分の3以上の賛成を得る必要があるため、採決にあたって当初案からの譲歩を迫られており、実効性の低下が懸念されている。
また大手格付会社S&Pは、現在ブラジルのソブリン格付けを格下げ方向のクレジットウォッチ8に指定しているが、改革が遅れた場合、格下げを行う文書を10月に送付したと報道されている。格下げとなった場合、金利の上昇を通じて利払費が拡大し、財政悪化に拍車がかかるだろう。そして、さらなる緊縮的な財政政策を迫られることになれば、政府支出による景気の下支えは期待できなくなるだろう。
8 短期的(通常は90 日以内)に格付けに影響を及ぼす重大な出来事が予定されている時に、クレジットウォッチへの指定が行われ、状況や動向が見極められる。
貿易収支は大幅な黒字となっており、1-9月累計は統計開始以来最大の水準に達しているが、足元では黒字幅が縮小している。今後は内需の回復によって、さらに輸入が増加することが予想されるため、黒字幅はさらに縮小していくだろう。なお、3月中旬に発覚した食肉偽装事件による輸出への悪影響は予想通り、限定的であった。
3――物価・金融政策等の動向
(為替)米国の追加的な金融引締め策も、大きな変動はなし

今後は改革の動向と米国の追加的な金融引締め策9次第ではレアル安が進行する懸念もあるが、ブラジルは世界でも有数の外貨準備残高を有しているため、中央銀行による為替介入によって大幅なレアル安とはならないだろう。17年平均は3.2レアル/米ドル、18年平均は3.4レアル/米ドルと予想する。
9 当研究所では、17年は12月、18年は年3回ペースの追加利上げを予想している。
(物価・金融政策・長期金利)インフレは鈍化し、金融緩和は継続へ
インフレ率は、15年にレアル安による輸入物価の上昇や天候不良による食料品の価格高騰、公共料金の値上げ等によって大きく上昇した。しかし16年以降は、これらの要因が徐々に解消されたため、インフレ率は大きく低下している。特に、17年は低インフレが進行しており、1月にはインフレ目標の上限である6.0%を、7月以降は下限である3.0%を下回っている。その要因は多くの品目で低インフレが進行していることであり、特に飲料・食料品が前年比マイナスとなっていることが大きい。足元では、10月の電気料金や燃料価格の値上げによって、一部品目にインフレ率上昇の気配が見られるものの、その影響は限定的で低インフレは継続し、17年平均は3.4%と予想する。18年はレアル安による輸入物価の上昇によってインフレ率は上昇するものの、大幅な上昇にはつながらず、18年平均は4.0%と予想する。
金融政策は16年10月以降、金融緩和が続いている。中央銀行はインフレ率の低下を背景に、11月にかけてSelicを9回にわたって計6.75%(14.25%→7.5%)引き下げている。Selic の継続的な引下げにも関わらず、低インフレは継続していることもあり、当初の予想より引下げ幅が拡大された。
10月のCopom(通貨政策委員会)では、経済状況が堅調に推移した場合、今後の金利引下げ幅の縮小を示唆している。12月のCopomでは引下げ幅は縮小するものの、2012年10月から13年4月まで適用された史上最低金利(7.25%)を下回る7.0%になると予想する。18年のSelicは1回もしくは2回の引下げによって6.5%になった後は据え置かれ、18年末は6.5%と予想する。
インフレ率は、15年にレアル安による輸入物価の上昇や天候不良による食料品の価格高騰、公共料金の値上げ等によって大きく上昇した。しかし16年以降は、これらの要因が徐々に解消されたため、インフレ率は大きく低下している。特に、17年は低インフレが進行しており、1月にはインフレ目標の上限である6.0%を、7月以降は下限である3.0%を下回っている。その要因は多くの品目で低インフレが進行していることであり、特に飲料・食料品が前年比マイナスとなっていることが大きい。足元では、10月の電気料金や燃料価格の値上げによって、一部品目にインフレ率上昇の気配が見られるものの、その影響は限定的で低インフレは継続し、17年平均は3.4%と予想する。18年はレアル安による輸入物価の上昇によってインフレ率は上昇するものの、大幅な上昇にはつながらず、18年平均は4.0%と予想する。
金融政策は16年10月以降、金融緩和が続いている。中央銀行はインフレ率の低下を背景に、11月にかけてSelicを9回にわたって計6.75%(14.25%→7.5%)引き下げている。Selic の継続的な引下げにも関わらず、低インフレは継続していることもあり、当初の予想より引下げ幅が拡大された。
10月のCopom(通貨政策委員会)では、経済状況が堅調に推移した場合、今後の金利引下げ幅の縮小を示唆している。12月のCopomでは引下げ幅は縮小するものの、2012年10月から13年4月まで適用された史上最低金利(7.25%)を下回る7.0%になると予想する。18年のSelicは1回もしくは2回の引下げによって6.5%になった後は据え置かれ、18年末は6.5%と予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2017年12月04日「基礎研レター」)
神戸 雄堂
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